誰かの代わりなんてイヤ | シネマド館

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世界の映画を見ていると世界を旅しているように感じる・・・というブログではなく単なる「映画」と「おでかけ・旅行」をメインにしたブログです。とは言いながらも結構他のことも書いてます・・。

好きな人の息で満たされたいのです。


シネマド館-空気人形

空気人形


監督:是枝裕和


(2009年/日本/116分)



【ストーリー】

女性の「代用品」として作られた空気人形ののぞみに、ある朝「心」が芽生え、持ち主の秀雄が留守の間に街へ繰り出すようになる。そんなある日、レンタルビデオ店で働く青年・純一に出会い、密かに想いを寄せるようになった彼女は、その店でアルバイトとして働くことになるが。(eiga.comさんより)


【かんそう】

かなり・・・かなり衝撃的だった。


なのでだいぶ感想が長いです。

もう・・ちょっと書かずにはいられへんわ。

自分の記録として書かせてもらいます。



あ。私の感想はいつもそうですがネタバレです。




ラブドールが「心」を持ってしまうという話なんだけどね。


ラブドールという設定ゆえに性的描写が生々しいところもあり・・・

私が言う「衝撃的」はそんなことを指しているのではない。


しかし、若いカップルで見に来るには不向きじゃないかと・・・。


いや、そんなことはどうでもええねん。



ラブドールを彼女に設定する、という点では『ラースと、その彼女』という映画にも通じるものがあるが、こちらはラースの成長に重きをおいている。

「ラース・・」は考えさせられるとは言え、ほのぼの系だ。



この「空気人形」はもっと鋭角に心にグッサー!とつきささってくる。

前半はほのぼのか?と思うような展開だが、物語が進むにつれ、そうではないことがわかる。


悲しみも喜びも全て透明感に溢れており、美しすぎてグッサー!!!て感じ。



主演はペ・ドゥナ。


私が彼女を観たのは『リンダ・リンダ・リンダ』が初めてであり、この女の子年齢不詳だわぁ・・・という印象くらいしかなかった。

よかったとは思うんだけど、あーんまり印象がないんだよねぇ。



しかし、今回は違う。

圧倒的な女優根性を見せ付けてくれた、というか女優そのものだった。


ラブドールとして演じる時は瞬きをほとんどせず、裸体のシーンもなんだか普通に脱いでいる。

しかも体が美しく全くいやらしさを感じさせない。

でも色っぽいんだよねー♪


手足が長くスレンダーで本当に美しく、この役は日本の女優さんではちょと無理か?と思わせるほどの美しさだった。


空気人形ののぞみは「心」を持ったその日から、子供を経て、少女を経て、恋をする女性になって・・・という段階を踏んでいくのだが、その移り変わりの表情も仕草もほんと、かわいらしさから大人の女性までをうまーく演じ分けていた。


すっごい女優さんだなぁ・・・と思わざるをえなかったよ。




この作品はもともと短編漫画が原作で、そこからヒントを得て監督が色づけしていったらしいのだが、監督がこの映画を作りたいと思ったきっかけのシーン。


空気が抜けてしまった空気人形「のぞみ」に純一が空気を吹き込み、「のぞみ」が復活する・・・



このシーンなんだけど・・・



映画でもしっかり描かれていたわけだけど・・・




いやぁ・・・すっごくドキドキしたドキドキ

色気があってよかったですな。

下手なベッドシーンより(ってどんなシーンかわからんが)よっぽど色気があってよかったよ。


ペ・ドゥナの表情がもう・・・いいのよラブラブ

『今、好きな人の息で私は満たされている』という恍惚とした表情がたまらなく良かった。



結局、のぞみが空気人形という事を知った後も純一はのぞみと普通に付き合うのだが・・・


のぞみはそれでも「誰かの代わり」であることにずっとひっかかりを感じる。


もともとは「私は性欲処理の代用品」と自分でも言うくらいに自分の立場をわかっていたのだが、心を持ち、純一に恋をしたその日からはその事がとても悲しく感じる・・・



誰かの代わりなんてイヤよのぉ。

純一のオンリーワンでいたいよのぉ。


あぁ・・・恋する乙女よのぉ。




しかし、誰かの代わりではイヤ。私の存在を認めて欲しい、と思うのは何も恋愛においてだけではない。


仕事、日常生活・・・さまざまなところで心の空虚を感じる人は多いはず。

そういう心の「空虚」を持っている人はこの世の中わんさかいる。

そういった人物を監督はちゃんと空気人形「のぞみ」の周りにちりばめている。



「心」を持った「空気人形」の周りに「心」に「空虚」を持っている「現代人」を置くことでこの物語が変にリアリティを持っているように思えるのだ。


純一が空気人形に空気を吹き込むことで空気人形が復活するように、心の空虚も結局は「人」によってしか埋まらないのではないだろうか。


・・・人は人に認めてもらいたい、と思うものではないだろうか。



のぞみが純一に向かって『あなたの言うとおりの事するから。何でもするから・・』と言った時、純一は


『君にしかできない事』



と言う。


のぞみは大喜びするのだが、それは「空気を抜かせて欲しい」というものだった。

また、自分の息でのぞみを満たしてあげるから、というのだが・・・



それは『君にしかできない事』であると同時に、 『純一にしかできない事』でもあったのではないだろうか。


純一も誰かに必要とされたかったのではないだろうか。

そうすることで純一も「自分」という存在を感じることができると思ったのではないだろうか。



そんな風に思うのだ。




前半のかわいくてキュートな展開からどんどん悲しいせつないゾーンに入ってくる中での、あるシーン。

のぞみが自分の産みの親である人形製作者(オダジョー)を訪問するところがある。

このくだりはとても温かなものでよかったな。




希望を感じる、といいますか・・・・。





このシーンがあってよかったわぁ・・・と見終わった今、そう思うよ。

あのシーンがなかったらちょっと・・・悲しすぎるわ。




あと、キャスティングも絶妙にヨカッタ!!

ハズレがないねぇ。


空気人形の最初の所有者(?)秀雄(板尾創路)。

もう、ダメダメさんだけど、こういう人、多いと思うわ。

すっごいリアルやった。


若い受付嬢が気になるおばさん受付嬢(余貴美子)。

自分で留守番電話に自分を励ますメッセージを入れるところなんて・・・もう・・・泣かせる。

余貴美子さんってええ女優さんやなぁ。「ディア・ドクター」の時もそうやったけど迫力感じるわ。


高校の代用教員だったおじいさん、母親をなくした父子家庭の少女、過食症の女性、あの殺人事件の犯人は自分だ、といつも交番に話に来るおばあさん・・・みんなみんな心のどこかに穴が開いていて誰かに息を吹き込まれたがっている・・・。







見終わってかなり心に深く残った映画。

決して私が好きな類の作品ではないけれども、すごくすごく印象深い・・・

美しくてせつなくて悲しくて温かい・・・・いろんな気持ちが心につきささる。


あ、もちろんこの映画にぴったりの映像の美しさ、ゆるくて温かい音楽・・・・などもとてもヨカッタよ。

なんかペ・ドゥナの存在感がそうさせているのかわからないけれど、画面全体がとてもやわらかく感じた。

光の使い方も影響しているのかな??



私はあるシーンで涙が止まらなかったなぁ。

それはラストではなく、多分聞いたら「は?そこ?」て言われるようなとこ。




是枝監督作品・・・初めて見たが他の作品も見てみたくなった。

どれもこんな悲しく美しい作品なのかしら??




うりぼう5つ:うり坊 うり坊 うり坊 うり坊 うり坊 合格