【花火それぞれ】







ある夏、でっかい基地が湖の真ん中に浮かんでいるのが見えた。

「なんか浮かんじょうゾ」

湖岸で見た子供達は、それを確認すべく宍道湖大橋まで駆けだした。

まだ架けられて間もなかった宍道湖大橋は、

川からの湖の入り口にアーチ形に架けられていて、宍道湖を見渡せる。

「船かな?」

でも船にしては人を乗せる感じもなく、両側にタイヤがついていて

木の波止場の様にも見える。

う~んと頭をひねるが、子供の関心はここまでだ。

それが花火の打ち上げ場所に結びつくのは結構後だった。






「松江にこんな人がおるんか!?」

宍道湖の花火の日は人が凄い。

普段の日は、宍道湖大橋からグルッと見回して、走る車、歩く人を

数えようとすれば、ざっと数える事が出来そうな感じであるのに、

この日は分厚く人の集団が宍道湖を囲む。

テキ屋の発電機が所々鳴る中、人々は岸に向かってぎっちり座り

夜空に咲き乱れる大輪に歓声をあげる。






田舎では毎年見ていた。

でも10代はだめだ。

目の前の花火に気がつかない。

あの頃はいつもさまよっていた、いつも何かを探していた。

頭上であがる花火とは別に、何か強烈な想いが胸の大半を覆っていて、

花火そのものを見ていない。

それは片思いの女の子の事だったかもしれないし、

学校であった気分の悪かった事だったかもしれない、

はたまた将来への不安と夢であったかもしれない。

天空と湖面が真っ白になるくらいの花火の光を横顔に受け、

湖岸の松の木を縫って足元のシャドウをいつも歩いていた。






花火が心に染みいるように入ってきたのは、むしろ最近だ。

今思えば、あの頃持っていた甘酸っぱい記憶が、夜空に重なり、

花火の美しさが何倍にもなって心に映る。

自分にとって、宍道湖の花火はたまらない。

人それぞれ、自分の花火が心にあるだろうね。