友人でありルイスレザーズの社長でもあったデレクハリス氏がつい先日亡くなりました。

 

デレクとは仲良くさせてもらいました。

今思うと親友だったと思います。

お互いを尊敬できる間柄でした。

 

 

あれは確か20年位前だったと思います。

ギターウルフロンドン公演の前に、突然ルイスレザーズ側から自分達に会いたいと連絡が入りました。

出演前の楽屋に数人のスタッフが顔を出してくれてルイスのTシャツやグッズをいただきました。

その後ろ側から顔を出していたリーゼントのかっこいいあんちゃんがデレクでした。

 

それからちょくちょくデレクとその奥さんサアヤちゃんがギターウルフのヨーロッパツアーに顔を出してくれるようになりました。またある時にはルイスレザープレゼンツとしてギターウルフのロンドン公演をプロモートしてくれたこともあります。

ただ、ギターウルフがその頃来ていた革ジャンはUSA製のshottで、なぜこんなにしてくれるのだろうと不思議な感じがありました。ですがデレクはそんなことには頓着なく、ただ純粋にギターウルフを好きでいてくれたようです。

だんだん二人は何日もかけて自分たちのツアーを追いかけてくれるようになりました。おかげで二人とはずいぶんいろんな国で飲んで騒いでいます。自分とデレクはさりげないギャグの馬が合い笑えるポイントが一緒でした。ただルイスレザーの話になると彼のこだわりの強さが垣間見え、その信念の炎が眼の奥でゆらゆら揺れているようで、自分はその揺らぎを見ることが好きでした。自分のこだわりはロックンロールですがそんな部分の共鳴が二人にあった気がします。

 

ある時、デレクから思い切った提案がありました。

「80年代のロンドンパンク全盛のころは街角には革ジャン革パンの連中があふれていた。しかし今常に革ジャン革パンでいるのはギターウルフセイジだけだ。だから私はギターウルフの革ジャンを作りたい!」

もちろん革を着るガキにとってルイスはあこがれです。こんな大それた提案はありがたすぎて戸惑う気持ちがありましたが、もちろん喜んで引き受けました。企画からすべてを合わせて2年ほどかかり今自分が着ているMemphis723が誕生しました。ルイスにしては大胆なアメリカンスタイルですが、これは過去のルイスの記録にもある型がベースとなっています。古い形のルイスのコレクターでもあるデレクが過去のルイスの歴史を紐解いて探してくれたものです。

 

時期を同じくして自分は地元の島根県でフェスを開催します。シマネジェットフェスです。

二人はそこにもよく来てくれました。当日に会場側の実家に物を取りに戻るとなぜかデレク夫妻が上がり込んでいてうちの母ちゃんと英語と日本語でとんちんかんな会話をしているのを見たときはぶったまげました。

 

今、ヨーロッパツアー中のバルセロナでこれを書いています。

わずか半年前もツアーで来てデレク夫妻と遊んだ街です。サクラダファミリアの前で写真を撮り、パエリアとスペインビールのレストランで大騒ぎをした街です。

 

デレクへ

あの時歩くのが少しつらそうだったけど、君はいつもかっこつけて何にもなかったような顔をしていたね。まさかこんなことになるとは思わなかったよ。ヨーロッパに来ればデレクに会えるというのが大きな楽しみだったのにそれがなくなった今、何かぽっかりとしてボーとしています。亡くなる前日のテレビ電話で君の眼が一瞬開いた時、自分の顔はそこに映っただろうか。自分の声は聞こえただろうか。セイジを見ると元気が出るといつも言ってくれていたからあの時も自分は思いっきりパワーを送ったつもりだったけど、それが叶わなくてつらい。

 

人はいつかは死ぬ。だけどまだまだ生きてほしかった。

君がこだわった革ジャンは人がかっこつけたいという衝動を持った時100%の力を発揮する。

君は過去から今までたくさんの人をかっこつけてきた。

君にかっこつけてもらったみんなは君のことを誇りに思うはずだ。

オレも君にもらったこの革ジャンでかっこつけて君の分までまだまだ生きるよ!

 

ありがとうデレク、君に会えたことを誇りに思います。

 

ギターウルフセイジ

 

 

【古代出雲王朝の復活!!】

 

 

「出雲大社の参道の旅館の娘さんがメジャーデビューした」という話を聞いたのは、中学の時によく聴いていた地元のラジオ放送だった。

へえ、隣町から芸能人が出たのかとうれしいようなちょっぴり不思議な感情。

「こんな田舎から芸能人なんてほんまかいな?」

まあ出ても一時的だろうなと思った。


 

県外の誰かを出雲大社に案内する時は決まって入口の鳥居の前に立ち、ある方向を指さす。

「あの参道の右側の竹野屋という旅館が竹内まりやの実家だよ」と説明して冒頭の中学の頃のラジオのエピソードをよく話す。

「山下達郎も来たのかな?」「そりゃそうだろう」とそんな会話がありながら出雲大社への道を歩いていく。

 

 

「まるで古代!」

大人になった自分が久しぶりに参った時そんな感想を持った。参道は高く茂る松の木の間を歩いていく。

やがて遠くにそびえる薄く靄がかかった山が見えたと思うと、その山をバックにしてお社のバッテンだけが緑の上にちょこんと見えた。それは一般の神社の感覚より、だいぶ高い所に見えていて巨大な何かを感じさせ、ゾワゾワと心が騒ぎ出し、なんだか古事記の世界へいざなわれるようなタイムスリップ的感覚に陥った。

 

 

 

先日松江に帰ったある夜の事だ。

昼間の猛暑から打って変わって涼しげな月が出ていたので深夜に散歩した。

実家から下駄の音をカランと小さく鳴らして歩くと、シーンと虫の音に導かれるように坂道を下り、小さなトンネルを抜け、この辺りを流れる用水路まで歩いた。

用水路には、水路に沿ってガマの穂が生えている。因幡の白ウサギが皮をむしり取られて痛がって泣いているときに、通りかかったオオクニヌシノミコトが真水で洗ってガマの穂で寝るといいと言ったそのガマの穂だ。

昼間は魚が飛び跳ねたり、亀が親子で口を出していたり、蛇が飛び込んだりと、生命の源を感じさせるその水路だが、夜は虫の音と共にたまにポチャンと静かだ。

群生するガマの穂を通してのぞき込むと水路に月が静かに揺れていた。

するといきなり、その月の横に人の顔が出た。

「誰!?」横を振り向く。

そこには何とオオクニヌシノミコトがいた。

 

伝説の通り白い大きな袋を持ち、あの古代装束、そしてやけにいい男、あの国宝級イケメンと呼ばれるあの兄ちゃんにそっくりだ。

「あんた、オオクニヌシノミコト?」

「いかにもそうだ!」

ニカっと笑い白い歯が月にキラリ、不覚にもクラッときた。

「君は今、シマネジェットフェスという祭事で、日本中、世界中の人を集めようとしていると聞くが本当かい?」

「ああ、そうだ!」

「では君に頼みがある。」

「えっ!」

満面の笑みをたたえ、アイドルにも似たその顔が力強く言い放つ。

「古代出雲王朝を復活させてくれないか?」

「古代出雲王朝!?」

「そうだ、かつてこの国に君臨したスーパー王朝、古代出雲王朝だ。復活させて独立するんだ。」

「いや、自分は、自分の王朝を持つとか、そこまで考えてはいない。」

「はは、君が僕の義父のスサノオにばかり肩入れしている事は知っている。だから、君は肝っ玉が小さい。彼は豪傑だったが結局はこの国を統一できなかった。」

「肝っ玉が小さいかどうかは知らないが、統一、復活云々にオレは興味ない!」

不覚にも声が荒がってしまった。

 

そこを狙っていたのか、自分のしゃべりが終わるかどうかで彼はこう出た。

「じゃあ勝負しよう!」

「あほらしい!」ときびすを返し戻ろうとすると、彼はすかさず自分の正面に回りこみ通せんぼをするので、構わず右を抜けようとすると、彼も右、左に抜けようとすると彼も左、だんだんラグビーの様になってきて、「そう言えば、もうすぐラグビーのワールドカップだな」なんて全然関係ないことを頭によぎらせながら、「いい加減にしてくれ!」

と彼を押しのけて通ろうとした瞬間、オオクニヌシは、フワッと体をかわし、オレは水路にボチャ~ン!と落ちた。

すると頭の上に、夜の空気に澄んだでっかい笑い声が鳴り響いた。瞬間ムカー!でオレは水路から飛び上がるかのよにオオクニヌシに飛びかかった。

 

すると彼はいつの間にか持っていた長い棒をオレの腹に突き立てる。そしてオレの腹をぐちゃぐちゃかき回して再びオレを水路に落とした。

さすがに痛く「うぎゃあ!」と悲鳴を立てるオレ。オオクニヌシが持つ長い棒からは大量のしぶきが飛び、それが空中で小さな島となる。

 

「どうだい、君のお腹をかきまわして作ったしぶきの島だ」

オオクニヌシはその棒をこちらに掲げながら「これはイザナギイザナミが、世界を作る時、地上をドロドロにしてかき回し、はねたしぶきで島を作ったあの棒だよ!」

 

「なんと!?」何を言っているのかと思ったが、とりあえず空中に浮かぶオレの腹の島に念波を送ってみた。

案の定、思った通りその島は空中を飛びオレの側までやってきたのでオレはその島に飛び乗った。ビュ~ン空高く一気に登ると遠く中海まで見えた。

 

「ちくしょう、オオクニヌシはどこだ?」と

「はは、畜生なんて言葉を使っちゃいけないね」

「何!」見上げると、ちょっと高いところでオオクニヌシもあの白い大袋を背中にしょいながら小さな島に乗っていて、相変わらずオレに微笑みをたたえながら睥睨(へいげい)してやがる。

「古代出雲王朝の復活の話に乗ってくれるかい?」

「そんなのオレは興味がない!」とすかさず下駄を手にしてオオクニヌシに剛速球で投げつけた。「カ~ン」意外にも鬼太郎の下駄ばりに彼の額に直撃したので、逆にびっくりして彼を見守ると、オオクニヌシはそのまま真っ逆さまに落ちていった。

助けた方が良いかもと、今度は急降下で彼を追うが孫悟空の如く助ける事もできずそのままオオクニヌシは宍道湖に落ちていった。

「バッシャ~ン」大きな水しぶきをあげ、月光色の雲まで飛んだ。

白いしぶきでもやができ、それが晴れてきた時、なんとそこには、巨大化したオオクニヌシが宍道湖のど真ん中で、ゴジラ、いや、大魔神の様に立っていた。

 

オレがあっけにとられたその瞬間、オオクニヌシはすばやく手を振り回し空中に浮かぶオレを宍道湖に叩きつけた。「バッシャ~ン」大きな水しぶきのなか急いで立ち上がるとなんとオレも宍道湖の上で巨大化していた。

 

宍道湖に浮かぶ嫁ヶ島をはさみ対峙する巨大生物のオレとオオクニヌシ。

彼の額はパックリ割れ、大粒の血がしたたり落ちていた。

そんなに落ちるとシジミが大丈夫かいなと思いながら、彼の目からは先ほどまでの余裕の表情は消え、何としてもオレに一発浴びせないと気が済まないような表情になっていた。

 

遠く出雲の方から宍道湖の波がキラッと月明かりに揺れた瞬間、二つの巨大生物は湖を走り、ジャンプ一閃でお互いにキックを浴びせようとするが、空振りですれ違い、振り向き様にチョップを浴びせようとすると、オオクニヌシは白い大袋をこちらに向けるやいなや、その中から何かを発射する。「うわ~!」と発射された物がオレの身体にまとわりついたと思ったら、そいつはオレを囓りだした。何だと見ると何匹もの因幡の白ウサギであった。やはり白ウサギはオオクニヌシの味方かと思いながら、なんとかせにゃと頭を巡らせていると、オオクニヌシは剣を抜きオレに斬りかかる。

 

「これは君の好きなスサノオ義父からいただいたヤマタノオロチの大刀だ!くらえ!」

これはやばいとオレは背後にひっくり返り、頭の上の宍道湖大橋をもぎ取って頭上で受けた。

「バキ~ン」火花が水郷祭の花火の様にあがる。すかさず立ち上がるオレに向かって再び彼が大上段から振り下ろしてきたので、オレは宍道湖大橋を水平に持ち替え、チョウっとオオクニヌシの腹を打った。

 

「それまで!」天のどこからか聞こえてきた。

気がつくと、オオクニヌシの大刀も自分の脳天をとらえていて、頭の一部から血が滴っていた。ああ~、オレの血まで滴ってシジミ大丈夫かなと思いながら、二人は剣を納めるというか、オレは宍道湖大橋を元の場所にくっつけた。

やれやれとびしょ濡れになった身体を見ると、いつの間にかウサギは消え、オオクニヌシもいなかった。ハッと宍道湖の空高くに光が遠ざかっていくので、もしやあれかと思って見ていると。

「セイジ!古代出雲王朝の復活をヨロシクな!」という声が聞こえてきた。

自分の身体もいつの間にか元にもどっていて、再び用水路に戻り、傷口に因幡の白ウサギのまねをしてガマの穂をあてながら家に戻って寝た。

 

朝起きると傷口はすっかり治っていた。用水路に行ってみるとまたもの凄い猛暑で昨夜の静けさは全くなかった。

「オオクニヌシノミコトはああ見えて結構いい奴だったなあ」

と思う反面、

「古代出雲王朝の復活か、うん、頑張ろう!」と思った。

 

 

 

シマネジェットフェスは8/31までクラウドファンディングをやってます。

最高のフェスにします。

応援4649!

 

クラウドファンディングHP

https://ubgoe.com/projects/452

 

シマネジェットフェスHP

https://www.shimanejettfes.com/

 

*

 

冬の時計

 

 

 

ロケットから見た月はまるで石の剥製だ。

オレはここで生まれて育った。

月面ステーションから広がる巨大なガラスの町。

月面マンション、月面ショッピングセンター、

そして今、地球の子が両親に盛んにおねだりしているのが月面遊園地と月面植物園だ。

地球の1/6の引力の中で、植物はジャックと豆の木のように伸び、ひまわりは5階建てのビルぐらいある。

この調子だと月に大気が生まれるのも早いのかもしれない。

ガラスの町の中央には、巨大な振り子の時計台がある。

人類は埋め込まれたチップのおかげで、可視による時間の確認はもはや必要ない。

身体に流れている超微弱な電流があらゆる情報を頭に絶えず送ってくれている。

だけどやはり人にはこんなレトロなモニュメントが必要なんだろう。

その証拠に時計台の下に立つと、不思議と落ち着くのだ。

宇宙がビッグバンで生まれた時から、時間が動き出した。

その瞬間から過去がどんどん量産されている。

その流れの超先っぽにオレ達はいるのだ。

見上げたら、時計台の上に地球がでっかく見えていた。

 

 

東京に出てきてまだ何年目かの冬、

振り子時計が捨てられていた。

電信柱の横で、昨夜の雪が四角い胴体に積もっていた。

しゃがみこんで、ガラスの部分を指で叩いたりしてみる。

古いが形がちょっとタイプじゃねえなあ。

タイプじゃねえとは、当時オレは原宿の50’sショップで働いていた。その影響で、急にアンティークに対する目が肥えて、面白いものがあると手に入れるようになっていた。

道端に落ちている物、粗大ごみも立派にその収集の範囲内で、おやっと思うゴミの固まりがあれば、一つ一つを目で吟味した。

それにしても、古い振り子時計をこんな無造作に捨てるなんて。形には興味を持たなかったが、その事が少し引っ掛かった。

 

 

その夜、深夜に目が覚めた。

6畳の部屋の真ん中に誰かが寝ていた。

窓からの薄明かりに目を凝らす。

誰かじゃなく何かだ、四角い長方形。

時計だ!

あの捨てられていた振り子時計だ。

するといきなり振り子時計は跳ね上がり、針がクルっと一回りすると、ギィーっと振り子の扉が開き、大工の棟梁のようなねじり鉢巻きの小人のおっちゃんが現れた。

「おう、あんなところに捨てるなんてふてえ野郎だ、全くひでえよな」

おっちゃんはキセルをくわえてたばこに火をつけた。

「おう、申し遅れたなあ、オレは時計の妖精よ。

昼間は同情してくれてありがとよ。人に同情されるほど落ちぶれているつもりじゃねえんだが、ちょいと嬉しかったから、時間旅行にでも連れてってやるべかと思ってよ」

おっちゃんはキセルを口から外すと、オレにたばこの煙を吹きかけた。

 

 

真っ青な空にしろっぽい地球がすれすれに浮かんでいる。

気がつくとオレは丘の上に立っていた。

周りを見回すと、遠くのある一面に鮮やかな黄色が広がっている。ひまわり畑だった。

その背後には都市が見える。

巨大なビル群に並んででっかい観覧車が建ち、それらを縫って超急角度の曲線を持つジェットコースターが何重も見える。凄い、都市と遊園地が融合している。

 

 

さっきから気がついていたが、なんだか体が妙にフワフワするゼ。軽くその場でぴょんぴょん跳ねるだけで1mぐらい浮き上がる。

よし!と勢いよく駆け出すと最初の一歩でいきなり5mくらい先に飛び出したので、おお~っと速度感覚が合わず、前のめりにつまずきゴロゴロゴロ転ぶが、なんだか大地をバウンドしている感じだったので、そのバウンドのリズムを読みながら地面に手をつき立ち上がったつもりが、その勢いでそこからさらに3mくらい空中に飛び、着地した。

なんだこの引力は!

おもしれえ!

それにしてもこの場所は一体どこだ?

地球がでかく見えるという事は、ここは月なのか。

すると耳元でバタバタ音がする。

うわっと避けると、でっかい団扇くらいの蝶々が周りを飛んでいた。蝶の飛ぶ先を見ると、あのひまわり畑だ。

数歩進んだせいか、案外近くに見えている。

それにしてもあのひまわり、ビルの3階か5階くらいありそうだゼ。

だがこの引力ならば、あそこまでジャンプできるかも。

3段飛びのような要領で大地を駆けるとひまわり畑がどんどん近づいてくる、そして、おりゃあ!っと大地を蹴って飛びあがった。

逆バンジーのように体が浮き上がり、ひまわりの花をかすめる、蝶と一緒にでっかいミツバチが花の上を飛び回っているのが見えた。

よっしゃあ、街に行ってみよう。

ひまわり畑を分断するように、街に向かう一本道があった。

そこをダッシュで抜けると遠くに見えていたあの都市が目の前にあった。

 

 

「待て!」

振り返ると、3mくらいの人間がそこにいた。

おおっ!ここは人までがでかいのか。

白いタイトなジャンプスーツのような服を着ている

その人間はオレを見るやいなや、空中につぶやいた。

「地球人発見、スパイ発見!至急応援頼む」

言い終わると指先から電磁波のようなものを出しはじめた。

「ちょっと待て、オレはスパイではない!」

3mの男は無表情にオレを見下す。

「今この、地球からの独立戦争の最中、地球人がいるとしたら捕虜の脱走か、スパイのどちらかでしかない!」

電磁波がジジっとなる。

あの電磁波で感電させ身動きできないようにするつもりじゃなかろうか。

オレはすかさず身をひるがえし、ひまわり畑に飛び込んだ。

入るとそこは日の光が届かないジャングルのようだ。

根本から根本へ跳ねながら走るが、せっかくの引力がうまく使えない。

辺りはだんだん騒々しくなり、ひまわり畑の根元にライトが一斉に浴びせられた。

「いたぞー!」という声がする中、オレは何が何だかわからないまま、とにかく捕まっちゃあいけないと右往左往するが、分け入ってくる連中の包囲が縮まりつつあるのを感じ焦る。

すると「おい、すっとこどっこい!」上の方から声がする。

見ると、ねじり鉢巻きのおっちゃんが、茎の途中からニュっとでている葉っぱにのって、こちらに手を伸ばしていた。すかさずジャンプして、おっちゃんの手につかまり、葉っぱの上に引き上げてもらった。

真下を見ると、白いでっかい人間達が駆け回っている。

「おう、しょっぱい思いさせてわるかったな」

おっちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔でキセルにたばこを詰める。

都市の方からは、サイレンがでっかくのろしのように響き渡っていた。拡声音で「緊急事態発生!地球人スパイ潜入!」と聞こえてくる。

「おうおう、けったいな場所になりやがって。

昔は、天国みてえなところだったんだ。

全く、驚き桃の木山椒の木だゼ」

真下がざわざわしだした。

「見つけたぞー!」と声の方向を見ると、白い男の胸元から小型のミサイルのようなのが発射され、葉っぱの根元がスパッとつらぬかれる。

万事休す、落下のその瞬間、おっちゃん、フーっとたばこの煙をオレに吹っ掛けた。

「うわ--------------------------!」

落下を感じながら意識が遠のく中、おっちゃんの声がした。

「めんぼくねえ!」

 

 

ドサッと目を開けるとベッドの中だった。

もう随分日が高かった。

6畳の部屋の真ん中に目をやると時計はいない。

やべー!バイト行かなきゃと大急ぎで外に出ると、

電信柱の脇には、他のゴミと一緒に回収されたのか、振り子時計はなかった。

「おっちゃんありがとう!」

そうつぶやいてバイトに行った。

 

捨てられている冬の時計のガラスの部分を叩くと、たまに時空を超える時があると言う。

 

*