【ウイスキームーン】



20代の原宿時代、

仕事帰りに仲間とよくたむろしていた店があった。

OH!GODという店で、なかなかおしゃれな店だった。

経営者は、かつてある筋では相当ならした人で、

そのせいか、客も従業員もちょっと不良っぽい奴が多かった。

その頃のオレ達は、まさに生意気盛りで、その雰囲気がたまらなく、

この世の春とばかりに、我が物顔で店内の一角を陣取っていた。

そこでいつも、飲んでいたのがウイスキーだ。

まだガキの、かっこつけのひっかけだから味なんてわからない。

一応うまいとは思っていたが、どれがスコッチやらバーボンなのか

知識なんてあるようで全くなかった。

ハーパー、バランタイン、ターキー、ジムビーム、

その頃は、店でビリヤードをしながら、キュー片手にグラスを手にした時、

琥珀色の液体が氷に溶け、カランと音がすれば何でもよかった。

やがて原宿を去り、行く店は居酒屋が主流となり、

飲むのはもっぱらビールになる。

ウイスキーは、たまに気付けで飲むくらいで、お酒として味わう感覚は

全く無くなった。




だがつい数年前だ。

フランスに発つ直前、ツアーマネージャーのトーマスから連絡があった。

「日本のウイスキーを買ってきてくれないか?」

えーーー!ウイスキーなんてフランスにいくらでもあるだろう!?

そう思ったが、買っていった。

その後しばらくして、NHKでウイスキーの朝ドラがあり、

ニュースでも日本のウイスキーの話題がよく上がるようになり、

ようやくトーマスの理由を知った。




日本は今ウイスキー人気だという。

それやこれやでちょっと飲みたくなる。

ところが、なかなか飲むチャンスがない。

買ってくればいいだけなのだが。

そういう矢先だった。

先日、イギリス人がお土産でウイスキーをくれた。

わざわざ大事そうに持ってくるのだがら、余程いい物に違いなかった。

だがくれた後、彼と一緒に飲みに行った。

そこで忘れた。

アチャー!どこかに置き忘れてきたと思い、彼にその事をわびる

メールを出すと

そのウイスキーは、一緒にいた日本に住むアメリカの友人が

持って帰ってくれたと言う。

後日受け取り、無事に家に持ち帰った。




ラフロイグ PX CASK

調べると、英国皇室ご用達ウイスキーだった。

真夜中、夜空の見えるテーブルに座る。

たいそうなケースだ。

そこからギシギシ引っ張り出し瓶を片手に取る。

もう片一方の手でポンと栓を抜き、

机の上のショットグラスにゆっくり注いだ。

トクトクトク。

そして口をつけた。

昔なら、どう思ったろう。

何か焦げ臭いと思ったかも知れない。

今は何かの味わいに気づこうとする自分がいる。

ちょっと楽しみが増えた感じだ。

ようやくガキからちょっとすすんだかな?




話は違うが、かつてウイスキーズと言うバンドがあり、

吉祥寺曼荼羅に見に行った事がある。

メチャクチャかっこよかった。

ウイスキーという言葉はロックにも欠かせない。