【カビのイナズマ】






もういい加減やばい!

もう何週間、放置しているだろう?

オレはしぶしぶ流しに近づいた。

そして、上から恐る恐るのぞくと、蛇口の下で

フタが閉まった鍋が置いてある。

最後は何を作ったけ?

フタに手を伸ばし、取っ手をつまむ。

瞬間、オレは顔をしかめながら無意識に鼻孔をキュっと閉め、

胸の奥にわずかな気合いを溜め、「よし!」思い切ってフタを開けた。

心の中で叫ぶ「ギエエエーーーー!」

鍋中、白カビ。

ミニチュアのカビジャングル。

丸々に育っている胞子がゆらゆらこっちを向いて、今にも襲われそうで、

あわてて蛇口を開け、水を鍋に流しっぱなしにした。

くわばら、くわばら。




上京して数年の頃、渋谷の風呂無しアパートに住んでいた。

ある時、自炊後の鍋を洗わず、何週間もそのままにしていた。

すると白カビの大豊作だ。

みかんやお餅の青カビ、お風呂の黒カビにはなじみが深いが、

あの時の白カビにはゾッとした。




美女を消すカビ。

昔の番組、怪奇大作戦のタイトルのようだが、その美女とは

髙松塚壁画に書かれた美女の事だ。

その壁画の絵がカビによって消えかかっているらしい。

カビには病気を治すペニシリンや発酵食品などいろんな効用があるが、

まだまだナゾが多いという。

そのナゾらしきカビのひとつにオレは一度出会った事がある。




20代中頃、アメリカを旅した。

最後の場所ロサンゼルスで、ジョニーサンダースが着ていた

同じモデルの革ジャンを古着屋で手にした。

襟が白のダブルの奴だ。

結構高い、でもどうしても欲しく、ローンで何とか買った。

少し有頂天で日本に持ち返り、常にどこかに飾るように部屋の

目立つ場所にかけていた。

そんなある日、町の洋服屋の外に出してあった木製のショーケースを

みつける。

交渉してもらい受け、うちのベランダで銀のペンキを施すと、

革ジャンをその中にかけた。

そしてロックに関する重要なアイティムを次々と中に入れ、

最後に照明を下から照らし、革ジャンを光輝かせた。

やったゼ!ロック受電BOXの完成だ。

次第に、それを着るという肝心の目的より、ショーケースの向こうに

ある事が重要になっていく、むろん特別な時以外はそれでいい。

だがしばらくたったある時、この革ジャンを着るべく特別なライブがあった。

少し重くなったショーケースを動かし、裏から中の必殺の革ジャンを

思い切って取り出す。

そして勢いそのまま、肩からその革ジャンを羽織る。

すると、するとだ!!!

襟元にビリビリビリ、電気が走ったから驚いた。

何じゃ!?

思わずオレは革ジャンから腕をぬき、襟元を見た。

するとそこには緑色のカビが生えていた。

電気の原因はカビであった。

オレはそれを雑巾でぬぐい、また着た。

そしてその夜オレは、もちろん、受けたカビ電気もヨロシクで

ロックパワーを放電しまくった。

無精するとカビが生える、ゾッとするし、感電する。

気をつけるべし。