【アルバトロスが飛ぶ町】




翼を広げると全長3メートルにもなる巨大な怪鳥アルバトロス。

その鳥が飛ぶ町ダニーデン。

遂に来たよこんな所まで。

最初に来た時、そんな風に思った。

ダニーデンは、ニュージーランドの南島の南にある町だ。

北半球から見ると、世界の果てのように感じる。

昔、ストーンズのキースリチャードがこれよりさらに南の町インバカーギルを

地球のアースホールと言ったらしい。

キースは客の反応に怒って言ったことだが、うまく地理にかけているようにも思える。

しかし町は意外にも都市だった。

人口12万と言うから、オレの田舎の松江より少し小さいくらいだ。

となるとそこまで小さい町じゃない。

しかし、あまり世界を意識していない感じがこの町にはある。

町はずれにあったクラブ周辺は、だれもが芸術家になり、

野放図にアートをいろんな所に施し、自由に楽しんでいる。

特に野望を持たず、果てにある開放感にどっぷりつかれば、

気楽にすごしやすい町なのかもしれない。

宿は、この町で結婚している日本人の女の人の家に厄介になった。

長い坂の上の方にその家はあり、振り向くと、どんより曇空の下、

緑でぼうぼう囲まれた古い家ばかりが、踏ん張るようにして、

坂の斜面の下までずっと続いている。



サウンドチェックが終わると、隣のアパートの一室で、オレ達を歓迎する

パーティを開いていると聞いた。

是非顔を出してやってくれと言われたのでベースのUGと顔をだした。

ドアを開けると10人くらいが一斉にふりむき、えらい歓迎ぶりだ。

「こんな所までよく来てくれた!」

リーダー格のワイルドなロン毛のロック兄ちゃんが、

二人にビールをすすめる。

オレはビール片手に、ある若い兄ちゃんの隣に腰掛けた。

その彼と少し話すと、おそろしく素朴な印象を受けた。

それでオレは突然聞く。

「オークランドに行ったことあるかい?」

すると彼は少し困った顔をして「とんでもない」とかぶりを振った。

オークランドはニュージーランド一番の都会だが、それでもそんなに

大きいわけではない。

もしこのお兄ちゃんがニューヨークや東京なんかにいきなり行ったら

どうなっちゃうかと思った。

決して笑ったわけじゃない。

田舎にいたかつての自分は、松江市内が自分の世界のすべてだった。

だから高校を卒業して、東京に出たときの衝撃はもの凄かった。

その衝撃が今の自分の半分を作っているといっても過言ではない。

彼はこのままダニーデンにいるのかどうか知らないが、

まだ都会の電撃を浴びてない彼と話して、かつての自分を思った。

ただ、衝撃を受けるかどうかは、その人間の体質にもよるのかもしれない。



ライブが始まると、その部屋の連中が前列に勢ぞろいだ。

あのリーダー格のロン毛のお兄ちゃんが目の前で暴れまくっていた。

さて、今、そのダニーデンに再び向かう車の中でこれを書いている。

前回来た時は、アルバトロスを見ていない。

ダニーデンの東の半島を飛ぶらしい。

無人島にしか生息しないこの鳥が、人と陸続きの場所にいるのは

極めて珍しいと聞く。

古くからこの町を優雅に飛び続けるアルバトロス。

あの素朴な彼に、その鳥がなぜかだぶる。

今回も来てくれるだろうか?

それともダニーデンの町を飛び出していなくなってるかな?