Sorry一本】


山の上のお墓の前の道を、子供達がワーっと走っていく。

先頭を走る自分が後ろを振り返ると、一番ビリっケツを走る妹の様子が

変だった。

片方の手をぶらぶらさせ、顔をゆがめながら一生懸命ついてくる。

「あれ!?」と思ったが、原因ははっきりしていた。

オレがかけた一本背負いだ。

公園を出て走る前に「やっ!」と妹の手を肩にかついだ。

遊んでりゃ治ると思っていたが、遊びの最後まで妹は痛がっていた。



柔道一直線と言うドラマがあった。

オレが小1、妹が幼稚園の時だった。

おもしろかった、大人も夢中になっていた。

もちろん子供はみんな柔道技の掛け合いだ。

草むらに膝をつき、相手に向かって右手をチョップのように伸ばし

「真空投げ!」と見得を切り、側にやってきて「フェニックス!」

と言ってジャンプし、最後は相手に組み付いて「地獄車!」と言って

ふたりで平地をグルグル回り出す。

中でも、近藤正臣がピアノにフッと飛び上がり、足で「猫踏んじゃった」

を弾くシーンは最高だ。

そのおかげで、各家にあったおもちゃの鍵盤は、

だいたい男の子の足の垢がついている。

しかしその柔道技、妹にかけたのはどうにもまずかった。



妹の肩は外れていた。

夜、諫早駅の近くの病院の建物から、治療を終えた妹が母親と出て来た。

たぶん包帯を肩から掛けていたろう。

何ともバツのわるい気持ちで待っていたのを憶えている。

たぶん、はっきり謝ってない気もするな。

そして、その病院の前の夜の暗さのまま、記憶は消えている。



その数日後だったろうか?

オレは妹に四の字固めを自分にかけさせている。

痛くはなかったけど。

今のように考えながらやってないから、理由はよくわからない。

でもやはりなにか思うとこあったのかな。

Sorry一本!

この柔道一直線あたりから、日本にスポ根ものがどんどん登場して、

そして全盛期を迎える。

日本のいたる所で、根性、根性、ど根性という言葉が聞かれた。