【暑中お見舞いエイリアン】



オレはマンションの9階に寝ていた。

いつもはあるはずの風が今夜は全くない、肌がベトベトだ。

寝返りを何度しているだろう。

「ああ、もう辛抱できん!」

暑さでオレの頭はいきなり狂ったのかもしれない。

ベッドを降り、網戸を乱暴に開け9階のベランダに出ると、手を揃え、

プールに飛び込むかのように 夜の空中に身を投げた。

「うわーーーーーー!」

いきなり後悔した、当たり前だ。

昔からのオレの悪い癖だ、癇癪が破裂すると、すぐ、むちゃな行動をとる。

今夜なんてただ暑かっただけじゃないか、これでオレの人生が終わるのか?

落ちながら感じる夜の空気はひんやりしていた。

この空気をベッドに運んでくれたら、こんなバカな事をしなくてすんだのに。

しかし、時間がゆっくり感じるのはなぜだ。

もしやこれが、死ぬ前に見ると言われているあれか?

もう一度、自分が生まれてから、この瞬間までを体験するという

あれなのか?

だとすると、それも悪くない。

青春時代、もっともっともっともっと、激しく生きればよかった。

だけどフフフ、今のオレのこの知識で、思いっきりやりたい事をやり尽くし

て、この瞬間にもう一度戻ってくれば、それはそれで最高じゃないか、よし。

なんて思っていると、そんな夢、全くナッシング!

目の前にいきなりコンクリートの地面がやって来た。

さすがに恐怖で、オレは脳天を肘でカバーしながらコンクリに激突した。

バッシャ~ン!

そしてドボ~ン。

「エ!?」

コンクリートがいきなり液体化したのだろうか、オレは泥水の中を

進んでいる。

しばらく進むとプッシューっと海に出た。

ひょっとして東京湾だろうか?

数十メートル下に海底の岩が続き、黒いわかめがゆらゆら揺れている。

その間をカラフルな小魚が泳いでいる、オレは昔あの小魚をよく銛でとった。

そう思いを馳せながら見ていたら、突然、背後から

海水の固まりの圧力が大きく押し寄せる。

「なんじゃ!?」と後ろを振り返ると、巨大な鯨がオレのすぐ後ろに

迫っていた。

「やばい食べられる」と思い、急いで海面に向かって浮き上がる。

すると鯨はオレの真下にやっていて、いきなり潮をでっかく吹きあげた。

ブシュー!潮はオレを天高く飛ばし、気がつくと、

日本列島を飛び越え、見えて来たのは日本海だ。

空から見ると弓を引くような、よく知っている地形が近づく。

きっとオレの故郷、山陰の海に違いない。

でもその海に、今度は巨大なサメがでっかく口を開けてオレを

待ってやがった。

これまたやばいと思ったが、オレはストライクで、サメの口に突っ込んだ。

だが勢いあまり、サメの身体を通り、サメのケツから飛び出し、

そしてさらに海底に穴を開け、地球の中をズドドドドド―――

と進んだと思ったらブラジルの海低に穴を開け、海面を飛び出し空を飛ぶ。

ふと、離れていく地上をみると、あの懐かしいコパカバーナの海があった。

どんどん豆粒のようになっていくビキニのお姉ちゃん達、

ああ、君達と恋する暇も無いくらい、今のオレは、なぜか勢いづいている。

やがて成層圏を越え宇宙に飛び出し、国際宇宙ステーションをかすめて、

月の裏の宇宙人に「やっ」とチョップのように手を振り、

火星の赤い砂嵐を横目に飛ぶと、

ハヤブサもやって来た小惑星帯にぶつかってやっと止まった。

そこには丁度いいベッドのような小惑星が浮かんでいたので、

そこに横になる。

宇宙は静かだ。

そして涼しい、やっとぐっすり眠れそうだ。

おやすみ。

暑中お見舞い申し上げます。

まだまだ暑い日が続きますが、

暑さで頭をやられないように注意してくれ!