【春ラ!ラ!ギャー!】




高校は、矢ノ原と呼ばれる高台の上にあった。

校舎の三階からは、湖が遠くにキラッと光る松江市内が見えた。

校舎は高台の一番上に、ちょっとそびえるように建っている。

高台は雛段のようになっていて、下の段に体育館、柔剣道場、

食堂が建ち、

そこからちょっと急な斜面があり、その斜面を駆け下りると校庭が広がる。


さて、季節は春。

剣道場の裏に出るように言われた一年の剣道部員達。

表情はみんないぶかしげだ。

これから何があるのか!?

まだ入部したばかりで見当がつかない。

ゾロゾロ剣道着裸足で、言われるがまま出た。

出た裏手は丘のようになっていて、斜面から緑が上がってきていた。

春のうららかな風が渡る中、眼下には校庭が広がり、

野球部、サッカー部、テニス部の、のどかな練習風景があった。


その風景を破る奇妙キテレツな奇声が、次々と上がったのは、

先輩の怒鳴り声の直後だった。

「おらー、全員叫べ!」

「え!?」と一年坊主。

でもしょうがない、言われたからにはとにかく叫ぶ。

「キエー!」「アギャー!」「ウオー!」

「声がちっせえ!」怒鳴り声が、竹刀片手に耳元で炸裂する。

隣の体育館からは、上級生のバトミントン部のお姉さんが、顔をだす。

ちくしょう、綺麗なお姉さんだゼ。

しかし容赦なし、終いには、「歌歌え!」って始末だ。

おいおい、うそだろう!しかし、こうなりゃやけだ。


先輩は怒鳴りながらも、愛嬌のある人だった。

その雰囲気もあってか、一年生もだんだん調子に乗りだす。

いったんはじけた高校生に羞恥心はない。

声が枯れるまで、叫び続けた。

奇声は次から次へと空を飛び、青空に吸い込まれていった。


青空の下、横並びの一年坊主が、ただひたすら声をからあげた。

なんだか笑っちゃうね、マンガだよマンガ。

しかし青春時代は、こういう事だらけの方が面白い。

いや、人生もかな。

春ラ!ラ!ギャー!だ。