【SF東京】
18の時、新宿駅でさんざん迷った。
なんでまたここに出てくるんだ、ちくしょう!
まるで伏魔殿。
西だか南だか、中央だか、いちいちあるでっかい出口に驚き、
地下からいきなりの高層ビルにびびり、
壁一面の、水着モデルの微笑みの前を、行ったり来たりだ。
新宿がオレをあざ笑う。
歩き回ってずいぶん疲れた、だがその反面ワクワクした。
「これが東京だ!
その体内に、オレはやっと飛び込めたのだ」
オレはどうやら、東京に魔法をかけられている。
田舎モンのせいか、かけられやすい。
その魔法は、田舎にいる高校生の頃から、じわじわ始まっていた。
そして、その魔法の完成は、きっとこの時だったように思う。
新宿駅の広さに途方に暮れながら、その広さにびびったこの時だ。
それからの東京は、どこで遊ぶのもエキサイティング、
酒はうまいし、ねえちゃんは綺麗だ。
そう、まさしく魔法だ。
しかし、今じゃあすっかり、新宿駅は頭の中にすっぽり入り、
高層ビルも、なぜあの時、凄まじく高く感じたのかが不思議に思う。
渋谷の交差点にあふれるように思っていた人の数も、
それほど多く感じない。
なぜだ!?ひょっとするとやばいゼ。
まさか、魔法が解けかかっているのでは!?
魔法から解けたくない。
オレは思わず、住んでいる9階のベランダから叫んだ。
「東京よ、もっと、夢を見させてくれ!」
するとだ!?
ゴゴゴゴゴゴ―――――――――――――――!
ものすごい轟音が、目の前の風景に鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
遠く、新宿の街が揺れていた。
いや、新宿だけじゃない、渋谷も、東京タワーも、池袋もだ。
いったいどうした!?と凝視すると、目の前の東京が激しく振動し出した。
っと思った瞬間、遠く、大地が激しくはがれる音がするやいなや、
バリバリバリ!
突然、首都圏が巨大なアイランドとして空に舞い上がった。
舞い上がるアイランドの外側を電車が走る。
そうか、山手線を輪郭として浮かびあがったのだ。
だが待て!
よく見ると、アイランドの下に、手足を持つ茶色のぶっ太い胴体が
着いていた。
怪獣だ、東京怪獣だ。
怪獣の足元には、新宿高層ビルが見える。
「そうか、新宿高層ビルは山手線の外だから、
あの中には含まれていないのだ。
だが、ひときわ高いビルが怪獣の頭にあるのはなんだ。
池袋サンシャインだ、よくみると東京タワー、六本木ヒルズも
怪獣の頭の上で揺れている」
ギャアアアアアアア~ン
突然、生き物とも機械ともわからないような、怪獣の咆吼がこだまして、
オレは思わず耳を押さえた。
ドスン、ドスン!
東京怪獣は、突然オレの方に向かって前進し出した。
どこが目だかわからんが、あきらかにオレを見ている。
揺れるアイランドに国会議事堂がチラッと見えたが、なんだか
怪獣の鼻のようだ。
政治家は今あそこで、なんだかんだ議論しているのだろうか。
ドスン、ドスン!
やばい、4歩でオレの目の前に来やがった。
オレはベランダで顔をひきつらせ、固まっていると、
巨大な怪獣の右手が伸び、オレを掴んだ。
そしてあっけなくオレは、怪獣のアイランド内にある口に入れられ
食われてしまった。
口はどの辺りだったのだろう。
皇居のお堀かな?
食われる途中、怪獣の声が聞こえてきたような気がする。
「オレは人間の夢と欲望を食って、ここまででかくなった。
まだまだ食わせろ!」
気が付くとオレはベランダで倒れていた。
あんまりでっかい声で叫んだせいか、貧血でも起こしたのか?
それとも東京が夢を見せてくれたのか?
しかし、わかった気がする。
ちっぽけな夢なんて、東京は飲み込んでしまうだろう。
実際そうだった。
その度にオレは、夢をふくらまし続けたじゃないか。
東京の魔法。
いっぱい夢をみせたくれたその魔法は、そろそろ解けても
いいかもしれない。
これからは、オレが東京に夢を見せる番だ。
食え食え食え!
明日は飛ばすゼ!
幸い、代官山ユニットは、山手線の外だから大丈夫さ。