【こたつレクイエム】



とにかく冬はこたつ。
深くもぐり、顔だけ出して窓に目をやる。
もうどのくらい入っているだろう。
メチャクチャ寒い外から、学ランのままこたつに潜り込んだ。
ちょっと暖まったら、何かしようと思っていた。
ところがギッチョン、首から下全部を入れたのがよくなった。
果たしてこれは暖まっていると言えるのか?
確かにこたつの中は暖かい。
だが、こたつを出ると異常に寒く感じる。
さっきトイレに行ったら、あまりの寒さにぶるぶるっと震えた。
なんてこった、もう出られない!いや、出たくない!




小学生の頃、こんな事を考えた。

冬の寒い朝、こたつのままフワッと浮き上がって学校に行き、

そのまま授業を受け、給食を食べ、こたつのまま帰って来られないかなと。

自分だけじゃなく、友達も先生もみんなこたつだ。

朝の通学はたくさんのこたつが空を飛ぶ。

体育もこたつだ。

こたつの真ん中に首を出し、布団の脇から出た手にバスケットボールを

持ち、ニョキっと出た足で駆け回る。

ずいぶんアホな想像だが、こたつは人間をものぐさにする。

時間はだらだら過ぎ、人間のシャキシャキを奪う。

でもそれでもいいくらいの平和な時間がこたつにはあった。




ところがオレの東京の冬にこたつはない。

「なにゃー!?ダサイから捨てた!」

田舎の母親が電話の向こうで大声をだした。
そう、オレは出て来たばかりの東京で、田舎からせっかく送ってきてくれた
こたつを捨てている。
文字通りダサイと思ったからだ。
なんとわがままな親不孝。
オレは冬になるとこの事をよく思い出す。
そして少し笑う。
母親の素っ頓狂な声を思いだして笑い、
その頃の、たかがこたつに持っていた都会への奇妙なつっぱりを
思い出して笑う。
ガキは、変なこだわりを持つ。

戦う東京で、オレはこたつを捨ててでもかっこつけたかった。




今でも、オレの東京の冬にこたつはない。

入れてもいいけど、なんだかんだ忙しくて悠長にこたつに座っている時間が

やはりないんだ。

今思うと、あの子供の頃の、田舎のこたつタイムは、

すべてがゆっくり流れていた夢のようなひとときだった。