【EUの紋章】


松江の実家の二階家は、オレが東京に出てしばらくして建った。
階段上った二階からは、でっかい湖を一望できる。
その二階廊下の突き当たり奥に屋根裏部屋がある。
天井が低く、その空間は二畳半程だろうか。
できた当初、オレはその部屋をおもしろがり、オレの特別な部屋にするべく、
黒ペンキで塗りたくり、ハウンドドッグテイラーのポスターを貼った。
しかし当然ながら、今ではすっかり物置になっている。
こたつ、将棋盤、レコード、そろばん、ストーブ、電気カーペット、子供のおもちゃ、
見覚えのあるものが、ところせましと突っ込んである。
雑然と置かれる中で、唯一、壁際の棚に少し整理されて並べられている物がある。
昔のマンガ本だ。
この家の3兄弟が、小中高でためたものがぎっしり背表紙を見せている。
オレは帰省すると必ず、そのマンガを読むべく、この屋根裏部屋に籠もってしまう。
その棚と積まれた他の荷物の間には、人ふたり程が座れるスペースがあり、
いつしか座布団がひとつおかれた。
そこにオレはあぐらをかき、一心にマンガを読む、読む、読む。


いつ帰省しても、読むのは大抵、自分と弟が集めた少年マンガだ。
しかし、うつむいて読むマンガの先の棚には、他のマンガもぎっしり並ぶ。
そう、妹と母親が集めた少女マンガだ。
その並ぶ少女マンガの中でも大半を占めるタイトルが二つある。
女子にとっては大変なマンガなのかな?
ご存知「ガラスの仮面」と「王家の紋章」だ。
今だに続いているらしい。
その二つの少女マンガは、少年マンガのやんちゃな雰囲気にも
負けない迫力を持って、悪夢のようにそこに並ぶ。
今はあまり手に取らないが、昔、最初の数巻読んだ。
結構おもしろかった。
このひとつの「王家の紋章」を意外な所でよく思い出す。
ギターウルフの海外ツアーだ。


【アメリカ人の女の子キャロルは、エジプト留学中、古代エジプトに
タイムスリップする。
キャロルは、その古代エジプトに君臨する若き王メンフィスと恋に落ちる。
そして数々の危機にふたりは直面するが、それを愛の力で切り抜けていく】
そのキャロルは時々、何かの拍子で現代に帰る。
そして現代でも、彼女はフィアンセ、兄弟を交え現代の生活にも追われるのだ。


さしずめオレ達にとって日本が現代で、海外が古代エジプトだ。
海外ツアーに行くといつも、前回のツアーとぴったりつながる。
それぞれのツアーの始まりには多少いろんな場面があるが、
気がつけば、ツアー車に揺られている。
そして、ひたすらクラブからクラブを訪ね、ショウが終わればホテルで寝る。
そして、日本に戻れば、いつもの家でいつもの生活をしている自分がいる。
まるで海外に行っていたことがウソのように。
タイムスリップこそしていないが、
二つの生活を行ったり来たりしている不思議な気分を味わう。
そんな時、オレはこのマンガ「王家の紋章」をいつも思い出す。


さて、ギターウルフはまたしてもEUに飛ぶ。
もうひとつの世界に行ってくるゼ。
キャロルとオレの違いは、キャロルは現代ではどこかうわの空だが、
オレは二つの世界で果てしなく本気だ。
まあ、キャロルが追うのは、たったひとつの本物の恋だから、
ホントはそれもしょうがない、比べたら彼女にわるいね。
ただ、言いたかっただけさ。
EUよ、覚悟はいいかい、ギターウルフが突入する。