【仮面ライダーナイトメアその1-恐怖蝙蝠(こうもり)男】


「ギャーーーーーーーーーーーー!」
壁に悲鳴。
オレは隣の部屋の子供。
突然の恐怖にこころが凍った。
どこに逃げればいいのだ。
怪人蝙蝠男が、すぐそこまでせまっている。


昭和46年4月3日土曜日夜7時30分。
かの有名な仮面ライダーが、テレビに初登場した。
テレビの前のオレは小学校2年生。
荒野に「ブオ~ン」とバイク音、するといきなり仮面ライダーのどアップになった。
その瞬間、全国の少年のこころは、確実に鷲づかみにされた。
興奮すごかった。
男子という男子は「ライダーキック!」と飛びに飛び、
チャリンコの坂道では必ず、手放し変身ポーズで駆け抜けた。
ウルトラマンもいいが、それとは全然違うヒーロー。
普通の人間が、改造手術を受けてヒーローとなる。
だったらひょっとしたら自分も!という夢がそこにあった。
したがって、冒頭の歌に挿入された改造手術のシーンに、ガキは特に興奮した。
そのシーン。
〔手術台でもがく、両手両足をつながれた主人公、本郷猛。
そのまわりを、白衣のショッカーの科学者達が、妖しく取り囲む。
彼の首はまだ人間だが、カラダは仮面ライダーに改造されていた〕
そしてナレーション。
「仮面ライダー・本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界制覇を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは、人間の自由のために、ショッカーと戦うのだ!」


本郷猛はこの後、脳手術を受ける寸前に、間一髪で逃げ出す。
そして正義のヒーロー、仮面ライダーとなったのだった。
「もし自分がつかまったら、脳手術前に逃げ出せるだろうか?」
小2は赤ん坊じゃない、もちろんテレビのお話と言う事は十分わかっている。
わかっているが、本気でそんな想像をした。
その頃のある夜、オレは夢を見た。
その夢にオレは激しくうなされた。
仮面ライダーに登場する怪人蝙蝠男が、オレの夢に舞い降りたのだ。


隣の部屋からの叫びが止まらない。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーー!」
怪人蝙蝠男の毒牙にかかり、吸血鬼と化した人間達が、隣の部屋にあふれる。
するといつのまにか夢のアングルが変わり、2階建アパートの側面が夢に現れた。
ドリフの長屋コントのように、中身が丸見えだ。
アパートの2階左はしに自分、そして1階右はしの部屋に、父親が寝ていた。
よく見ると、蝙蝠男は、父親の部屋に入り込もうとしている。
そしてアングルは、鍵穴から見る父親の部屋の中に変わった。
白いシャツで、背中を向けて寝ている父親。
その父親に蝙蝠男の毒牙がせまる。
ザッブ~ン、自分のこころに、絶望感の波が押し寄せる。
「ああ、この家で一番強い男がやられてしまう」
すると映像は、鍵穴に向かって渦を巻き吸い込まれていった。
夢はそこで終わった。


目覚めの天井だった。
恐怖はリアルに残り、まだ半信半疑だった。
肉親が襲われるという恐怖はこういう事なのか!?
仮面ライダーは毎回、こんな恐怖と戦っているのか?
「自分にはできるだろうか?」
とても無理だと思った。
それ以来、ヒーロー物の見方がわずかに変わった。
だが、この夢はこれだけで終わっていない。
自分はこの夢の続きを数年後にまた見ている。
そこには、まさしく吸血鬼となった父親が現れていた。
夢の内容は断片的にしか憶えてないが、その夢にも自分はうなされた。


不思議な体験はそれからも続いた。
夢の続きは、数年毎に現れた。
そして毎回うなされた。
最後にその夢を見たのは、30才を越した頃だ。
それがようやく最終回と思われる夢だったかもしれない。
つづく