【ナッシュビルのハゲタカ】


やつらはいきなりダサかった。
ヒッピーもどきの二人組みと、
長髪のハードロック兄ちゃん、頭ににバンダナ巻いて、袖無し赤シャツ小太り、

おまけにちょび髭をはやして、なんだこの3人組は!
ヒッピーもどきが兄弟で、ロジャーとエリック。
ハードロックがギターのチャールズ。
彼らはナッシュビルからやってきたバンド、その名をハンスコンドル。
ダサいと言っても、いやいやそこはアメリカ。
でっかいミキサーにありとあらゆるものを突っ込んで、
巨大なパワーで旋回し続けている国。
オレの思考を超えたマジックがそこにはあった。


2010年9月24日、オレ達はメンフィス空港に降り立つ。
ビリーと最後に来て以来、5年ぶりのアメリカだった。
オレ達はそこでハンスコンドルに会う。
ギターウルフの2週間のツアーに、オレ達のサポートとして彼らは選ばれた。
空港の搭乗口を出て、階下の荷物が流れるベルトコンベアーで、
彼らは出迎えてくれた。
最初は3人とも緊張した面持ちだったが、打ち解けるとすこぶるナイスガイ達だった。
だが、そのダサさとあいまって、なんだかおかしく、笑ってしまうものが、
やつらにはあった。
中でも25才で一番年下だが、リーダーの赤シャツチャーリーが特におかしい。
彼らの運転でチェックインしたモーテルの部屋で、オレが何気なく聞くともなくつぶやく。
「このモーテルにコーラの自販機ってあったっけ?」
するといつの間にかチャリーはいなくなり、気づくと部屋のテレビの横に
コーラが無言で置いてあるあたりから、オレは「あれっ」と思い出した。
クラブで頼みごとをすると、「OK!」の返事でどこかに急ぐが、足元のグラスを全部なぎ倒して消えてしまうチャリー。
そんな事だらけで、他のメンバー含めみんな大笑いだが、チャーリーは何を笑われているのかさっぱりわからない。
ライブもそんな調子だろうと想像もつく。
オレ達の直前に出るせいもあり、オレはしばらく彼らのライブを見なかった。
しかしある夜、オレは遂にハンスコンドルのライブを見た。
案の定、そんな調子だった。
が、しかし。


ギターウルフを待つ客の前に、ロジャー、エリック、そしてチャリーが登場した。
まず3人の風貌で客から失笑がでる。
チャリーのまじめくさっているのか、そうでないのかわからないMCでさらに失笑。
しかしそこでかまわずチャリーはギターをギャギャ~ンと一発鳴らす。
場内の空気が一変!
っと思いきや、空気はさらに最悪だ。
そして曲が始まりだすと、客席から、激しいブーイングが来た。
「来るわなこれじゃあ」と思いながらオレは見ていた。
しかし、チャリーはそれにかまわず、ギターをかき鳴らす。
かき鳴らして、かき鳴らして、かき鳴らす。
遂にはブーイングも消え、客たちはあっけにとられる。
数曲終わった時点で、オレはいきなり目頭が熱くなった。
不覚にも、あのダサいチャリーに。
気がつくと前列に客が数名群がりだした。
そうなったらもう、すべてはチャリーのものだ。
その後の盛り上がりもひどかった。
いや、ひどくてダサくてそれがパワーに裏うちされ、すさまじくかっこよかった。
ロックの、理想とするひとつの形がそこにはあった。
「ロックはまず人を惹きつけるルックスだろう!」とあるロッカーは言う。
まさしくあのダサさこそ、人を惹きつけるルックスだったのだ。
そして気合とパワー。
久しぶりに出会う、強烈なライバルの出現だった。
チャリーは若いの後頭部がはげている。
まさしく通称ハゲタカとも呼ばれる、アメリカの赤いコンドルがそこにいた。


その次の年のUSツアーでも、彼らはオレ達と演るために何箇所か来てくれた。
奴らはさらにすさまじくひどく、グレートになっていた。
「また来年会おう!」


さて、その来年が今年2012年だ。
そうさイエー!ギターウルフUSツアー2012!が始まったゼ。
今、オレは、ナッシュビルに向かう車の中でこれを書いている。
対バンはもちろんチャーリー達だ。
楽しみだ、武者震いがするゼ。

今夜再び、日本の狼とアメリカの赤いコンドルが火花が散らす。
待ってろチャリー、オレの頭上を越えようなんて100年早いゼ!