【学級閉鎖フィーバー】
真冬の中学の保健室だった。
オレを含むクラスの男子数人が、ひとりの男子を囲んで騒いでいる。
「いけ、後少し、いけ、いけ、後もう少しだ!」
囲まれた男子は片方の脇をすぼめ、もう片方の手でその脇を上から押さえている。
鼻にはシワを寄せ、なかなか必死だ。
すると、
「はい、出しなさい」
必死の男子の目の前に、白衣の手のひらが差し出された。
保健室の女の先生だ。
男子は脇に手をつっこむ。
他の男子は、博奕の丁と半どっちだ!と言うような目で見ていただろうか。
つっこんだ手がもぞもぞ動き、奴の学ランの奥からつまみ出されたのは!?
そう、体温計。
そしてそのまま、保健の先生に渡された。
「はい、熱は無し」
無情にも宣告された男子達であるが、その後も食い下がった。
「後少し、後もう少しでこいつの熱はあがる」
「だめ」
そのまま保健室を追い出された。
ちくしょう、学級閉鎖まで後ひとりだったのによお。
まあいい、後は保健室の事をネタに、みんなでガヤガヤ笑ってクラスに戻った。
学級閉鎖は嬉しかった。
記憶が間違ってなければ、小学校で一度、中学校で一度経験がある。
まわりの大人は授業数が足りなくなるとか騒いでいたが、
ガキにとって、突然の休みはやはり嬉しかった。
家で、普段見られない昼間のメロドラマを見たり、
布団に入ったまま、マンガを読みふけったり、
腹が減ったら、冷蔵庫を開けてみたり、
冬の寒い日に、家でたったひとり、なんの邪魔のない真っ白な時間だった。
人にはすき間が必要だ。
病院に入院した時は、何日もボケーっと過ごした。
そのまとまった日を、何かに使えばよかったかもしれないが、何もしなかった。
普段の日でも、差し迫る事がありながら、
「ああ、今日は何にもしなかったなあ」
と一日を終え、少しだけ後悔する事が、オレには結構ある。
でも振り返って見ると、自分の人生にいっぱいすき間を持った事が、
今の自分をホッとさせているような気がするんだ。
学級閉鎖は、毎日の学生生活の中でひょんな事でできた、贅沢なすき間だった。