【ノルウェイ上陸作戦-北極圏の町トロムソ】


車の中でドラムのクラちゃんが、叫ぶように言った。

「ここって完全に北極圏ですよ!」

EUをツアーしている車の後部座席の後ろの壁には、でっかいEUの地図が

貼ってある。

ツアーマネージャーのBPが、オレ達のために張り出してくれた。

そしてBPは、地図にマジックで、ライブをやる町に○をして→で

つないでくれた。

クラちゃんが指し示したその場所は、その地図の一番上だ。

その場所はノルウェイTromso。

ノルウェイでのライブは今回が初めて、しかもその一発目が北極圏とは!?

そこで開催されるロックフェスにでる。

ワクワクを通り越して、どんなところだろうと頭の上の空中をにらんだ。

う~ん、きっと氷のステージが作ってあり、

うわさに聞いたことがある氷のホテルに泊まることになるだろう、

そして客の半分はペンギンに違いない。


2011年7月12日夜、ドイツハンブルグでライブ。

翌13日9:20、ホテル出発、車でハンブルグ北の港を目指す。

12:15、フェリーに45分間乗る。

13:00、デンマークの南に着岸。

岸にたくさんの風力発電あり。

フェリーを下り、デンマーク北の町、コペンハーゲンの港を目指す。

コペンハーゲンの町で迷い、後ろの車のおばさんに場所を聞くと、

フェリー乗り場まで先導してくれる。

15:30、コペンハーゲン、フェリー乗り場到着。                    
16:44、フェリー乗船、ノルウェイのオスロまで船で一泊。


ここで一安心、船の甲板のテーブルで「ぷはー」と生ビールを飲む。

家族連れが同じ甲板上のプールでが遊んでいた。

夕食を食い終わってインフォメーションカウンターを探す。

オレはその夜20時半からある女子サッカーワールドカップの

日本対スウェーデンが、気になっていた。

「この船の中で女子のワールドカップの試合が見られないか」

金髪で、白く透き通るような肌のお姉ちゃんに聞いたが、そんなもんはやっとらん

と一蹴された。

EUに来て驚いた事。

女子のサッカーワールドカップが開催されていることを知る人は

誰一人としていなかった。

たぶんフェリーの中で興味があったのは、オレとベースのUGだけだったろう。

ただし、その数日後にあった日曜日の決勝戦は少し注目があったようだ。

翌14日8:30、船の中で起床。

あと1時間でオスロ港に到着するところだった。

急いで、インターネットでワールドカップの結果を見る。

3対1で日本の勝利。

「おっしゃあー!」とガッツポーズをして下船。

9:45、オスロ空港へ向かう。 

空港付近で2日間駐車できる安パーキングを探す。

駐車場で、荷物を2日分だけにまとめる。

荷物、機材、物販もろとも4人で抱えて空港までのシャトルバスに乗り込む。

13:55、Tromso行き飛行機に乗る。

BPが乗る直前にボーディングパスを亡くす。

だが、何の問題もなく乗れる。

16:00、Tromso空港到着。


飛行機が徐々に下降体勢に入りだした。

白い雲のもやを抜けたその先に海岸線が見えた。

ところどころ雪が残っている土の大地だ。

「ペンギンは!?白熊は!?氷山は!?」

オレはてっきり、夏といっても、真っ白な世界が待っていると思っていた。

だって北極圏だゼ!    


トロムソの人にとってオレの勝手な想像は少し失礼だったろう。

出迎えてくれたフェスの実行委員の女の子に、車の中でいきなり聞いた。

「ペンギンは?白熊は?氷のホテルに連れて行ってくれるのかな?」

大学生ぐらいだろうか?田舎町のしっかり者って感じの黒髪の女の子だった。

その子は軽く首を振り、ドライバーの男の子と二人で苦笑いしていた。

でも想像したくなるゼ!なんせここは北極圏。

でも、旅ではいつでもこういうことは多い。

自分の勝手気ままな想像がすぎるのだろうか。

しかしかつて、中世期の大航海時代の人々は、果てしない海の向こうに、

いろいろな想像を馳せただろう。

間違いなく一つ目の人間がいると思っただろうし、巨大生物の島、人魚の国、

黄金の国、それこそガリバー旅行記のような国が絶対にあると思ったに

違いない。

ホテルに向かう途中、角にセブンイレブンがあった。

「髪の毛や肌の色は違うが、どこへ行ってもやっぱり人間は同じだなあ」

当たり前のことに感心したが、少し失望した。

そして、世界を少し狭く感じた。

その思いに、ほんのちょっと、恐怖に似た感情を持つ。


しかし!さすが北極圏!夏フェスとはいえ、寒かった。

フェスの会場のすぐ隣には海が広がっていた。

空はどんより曇り、海からの風がぴゅうぴゅうだ。

そんなに大きなフェスじゃないが、立地条件は最高だ。

脇の海岸にペンギンがいればなおいいのになんて、

相変わらずしつこく思ったりした。

あまりの寒さに、トロムソの人も防寒着に身をつつむ。 

この点もオレには少し以外だった。

オレ達がいくら厚着をしていようと、この北極圏の町の人達は、

Tシャツ短パンぐらいでいるのかと思っていた。

そしてオレ達を見て「何だお前ら!これぐらいで寒いのか?」と

笑い飛ばしてくれるかと思っていたよ。


「イエー!トロムソベイベー!レッツゴーロッキンロール!」

セカンドステージのヘッドライナーで登場だ。

右側には、夏の冷たい海が大荒れだ。

ライブ途中から、きつい風に加えて、雨まで斜めに襲う。

「とりあえず無駄な動きをしようゼ!」とは、

オレがいつも、出番直前にメンバーにかける言葉だ。

だが今日に限っては、その言葉は真にせまる。

指はかじかみ、とにかくマジで無駄に動かなきゃ体が固まるゼ。

しかしそれ以上のものが、オレ達の体を突き動かす。

客だ。

この強風と横殴りの雨の中、客はみんな蛍光色防寒着に身を包んだまま、

手を上げてオレ達を応援してくれている。

その様子が、本当にペンギンが並んでいるように見えて、

ちょっぴり面白かったが、それ以上に激しく感動した。

「ありがとう北極圏!」 


終了後、食べたステーキがメチャクチャうまかった。

トロムソ牛はうまいなと感心していると、それは鯨のステーキだった。  


次の日の朝、空港まで送ってくれるお兄ちゃんがオレに話してくれた。

「次は是非、冬に来てください。冬はこの町の上空にオーロラがでます。

ものすごく綺麗です」

ありがとう、いつか冬のトロムソに来て見たい。

そうだね、それがきっとトロムソの本物の顔だろうね、ちょっと来たくらいで、

すべての町の魅力はわかりゃあしない。

まあとりあえず、イエー!北極圏でライブをやったゼ!