寒い冬の夜だった。
バイクでぶっとばしていた。
新青梅街道から小金井街道を右にキキキキキキーと曲がった。
後はこの道を突っ走る!アクセルをあげた。
そこでオレは足を折った。


19才だった。
中古のローンで買ったスーパーホークⅢ。
そいつと一緒に、左折の車の横っ腹に突っ込んだ。
ギュギュギュギュン、ガッシャ~ン
気がつくと救急車がやってきていて、まわりを人が囲んでいた。
「うわっ!なんじゃ、大げさ」そう思った。
左足が少し痺れているが、少し休めばおさまるゼ。
「立てるか?」救急隊員がオレの肩を持った。
「たいしたことねえよ」そう思って立ち上がろうとした。
すると左足がクネっとして地面に再び倒れた。
「だめだこりゃ」
そう思った後は、素直に担架に乗った。
冷静なつもりだった。
が、興奮していた。
担架のまま救急車に乗る時、ヤンキーの兄ちゃんがさかんに頭を下げていた。
車の主だとすぐわかった。
「ウインカーでてなかったゼ!」
夜の事故現場で運ばれながらわめいたが、それはただの一風景になり、
後はバタンと救急車の扉は閉まり、サイレンと共に病院に搬送された。
そして気がつくと手術台の上だった。


転倒はバイクの宿命だ。
バイク乗り始めの頃は、よく転倒した。
大きな事故は2度あった。
しかし自分が死ぬとは思っちゃいない。
まさしく危険な魂がぶっとばしていた。


18才で東京に出てきて19才、ようやく右と左がわかりだした。
そしたらいきなり事故った。
そして、1人で事故処理をした。
この時の事故処理は、なんとまあ、なんと言うか、かなり面倒だった。
だがこの事故は、社会の仕組みの何らかを、オレに教えてくれた最初の出来事
だったように思うんだ。
詳しくは省くが、物事が、全然うまくいかない。
後から考えれば、それ以上の事は、その後の人生で嫌と言うほど経験する
が、その時はまだ若かった。
てっきり、いろんな事をまとめてくれると思っていた警察は、たった一回の
事情聴取に来たきりで、後は全然来やしねえし。
翌日見舞いに来てくれたヤンキー兄ちゃんは、いきなり「すみません、
すみません」と純朴そうな、いい兄ちゃんだった。
しかし、しまいにゃ変な大人がでてきたりで、わけがわからなくなった。
退院した後もこっちは松葉杖だし、下宿の下の赤電話に行くのも大変だし、
友達もおらんし、骨は順調にくっついたが、骨が折れる事ばかりだったわい。


自動車工場みたいなところで、大人との最後の話が終わり、
ヤンキー兄ちゃんは例の車で、オレを下宿近くの駅まで送ってくれた。
しとしと小雨が降る夜だった。
もう季節は、だいぶ暖かくなっていた。
「この車、あの後廃車にすればよかったんだ」
ハンドルを握りながら、彼はぼそっと言った。
駅でよっこらせと降りたオレは、バタンと助手席のドアを閉め、
身体を傾けると、車の中の兄ちゃんとあいさつを交わした。
「それじゃあ」
小雨の中、遠くなる車のテールランプを見送った。


誰もが、クラッシュしながら前に進んでいく。