【ニューヨーク地獄の犬】


アンディの勢いがものすごい。
「マジかよ!」
暴力的なまでのエネルギー!
圧倒、圧倒、圧倒、
全く止まりやしねえ。
それどころか、どんどんエスカレートしやがる。
「すごい!」
オレはあっけにとられた。
せまいステージに不良臭さがぷんぷん。
目の前でギターが犯される。
その手元からでるリフは、まるでミサイル。


ニューヨーク1994年6月4日。
この日の夜、とてつもない衝撃がオレを串刺にする。
それはまるで、目の前で破裂し続ける、爆弾の爆風の中にいるようだった。
オレは無様だった。
犬の牙が、完膚無きまでオレのプライドをずたずたに引き裂く。
犬!?そうヤツらは犬!
狼を引き裂く犬とは一体!?
それは地獄の犬、デビルドックスに他ならない。


デビルドックスの登場はすごかった。
アンディG(ギター)
スティーブベース(ベース)
マイティジョー(ドラム)
この3人が出会い、そしてわずか数年だけニューヨークに生きた
奇跡のR&Rバンドだ。
彼らはロックの本来あるべき姿を世界に見せつけた。
若く、不良臭く、それでいてスリリングな圧倒的演奏力を持つ。
そしてすべての曲がキャッチーで王道を行っていた。
どのバンドも、彼らを前にすると、ただの奇抜な安っぽいものにしか映らない。
ガツ~ンと一発!ノックアウトされた奴らは数知れず。
だがその中から、クラクラ頭を振りながら、目覚めた連中が立ち上がる。
デビルドックス以前とデビルドックス以降。
彼らは世界のロックの一片を確実に変えた。


その余波を受け、世界中で数々のいかしたバンドが登場する。
だがその中で、最もいかしていたバンドを知っているかな?
ティーンジェネレイト!
ああ、この名前を口にするだけで、オレは胸が熱くなる。
90年代の東京で生まれ、わずか数年生きた奇跡のパンクバンドだ。
すべての曲が最高!
彼らはその後、デビルドックス以上に世界に影響を与えることになる。
ギターウルフが海外で多少知られていると言っても彼らの足元にも及ばない。


その君臨する3匹の地獄の犬達に、日本からやって来た3匹の狼達が
たった一回挑んだことがある。
と言うか、世話になったんだなこの時。
場所は、NYマンハッタン、セントマークスST脇のコンチネンタルクラブ。
しかも、その夜はギターウルフにとって、初のニューヨークだった。


デビルドックスは日本で2回見ていた。
しかし、この夜の3人のスケールはさらにBIGになっていた。
まるでお相手にならない。
格が違う。
「ちくしょう!」
あたまに来るよなかっこよさ。
それを目の辺りにして、オレは歯ぎしり。
そしてまた「ちくしょう!」だ。
アンディはブレーキなしの猛スピード、ギターソロの凄まじさよ。
おまけに曲直後にニヤっと笑って捨てゼリフ、ゾクっとくるよなかっこよさ。
スティーブは背後からのエアコンの風に髪をなびかせながら、時折ベースを縦に
構え、ギターのように弾きまくる。
マイティジョーのビートは巨大で、オレ達の心臓をドスドス突き上げる。
かっこいいったらありゃしない。
ショーが終わった後、オレは放心状態だった。
そこには「デビルドックス最高!」と飛び上がるような気持ちと、
「にゃろーー!」と敗北感のふたつがあった。


あの夜が無ければ、今のギターウルフは間違いなくない。
後にも先にも、あの時ほどの悔しさは、あの時一回こっきりだ。
もちろんかっこいいバンドを見ると、オレはいつも燃える。
うれしさと悔しさをMIXさせてね。
デビルドックスの持つ、がむしゃらだが確実なパワーでせまるサウンド。
がむしゃらはあっても、確実なパワー、こいつが重要だ。
今でもしょっちゅうあの夜のデビルドックスが頭に甦る。
その度に「おりゃあ!」と負けてたまるかの闘志が沸々と湧きあがるのさ。
そして「ありがとうデビルドックス!」
あの夜は、ニューヨークがオレにくれた巨大な贈り物だった。


メリークリスマス