【ジェットサマーその2-青森岩木山】


青森を車で通るたびに、ついつい指さしてしまう山がある。
岩木山だ。
「オレ、あの山のてっぺんまで登った事あるゼ!」
車の中でオレが言うと、
本州最北端のこんな所でなんでまた!?
そんな空気が流れるんで、口調はちょっと自慢げになる。


中2の夏だった。
岩木山で、全国からスポーツをやる中学生が集まって合宿があった。
オレ達、島根県勢は、日本海側を通る夜行列車で青森に向かった。
まだ早い朝方、寝ぼけ眼で列車の外を見ると、田んぼが果てしなく広がっている。
新潟だった。
なんだかものすごく遠い地に来た気がした。
中坊のガキにとっちゃあ、実際そうだった。


岩木山中腹にテントが張られ、合宿は始まった。
他の県の連中を、だいぶミステリアスに感じる年頃だったように思う。
その違う土地の者同士が、数日間一緒に生活する。
それだけでなかなか刺激的だった。
朝から走らされたり、山に登らされたりで、だいぶひーひーだったが、
結構おもしろかった。


その合宿で、特に印象的な事がふたつあった。
ひとつは、初めての夜に見た夜空だ。
テントを抜け出したら目の前が星空だった。
「うおー!」とジャージで口ポカ~ン。
星はこんなにも夜空にぎっしりあったのか。
岩木山が教えてくれた。


もうひとつ、これにはホントびっくりしたゼ。
合宿を手伝う大人達が不思議な言語を使っていた。
会話がさっぱりわからん。
ただ、尋ねると日本語で説明してくれる。
ずっと不思議だった。
「どこの国の人だ?」
最初は、日本語のできる韓国のおじさん、おばさん達が参加しているのだ。
そう思った。
ところがギッチョン違ったゼ。
ザ、津軽弁!
その凄まじさに触れた、最初の時だった。
2010年の津軽弁はそこそこ標準語化されつつあるが、1970年代の
津軽弁はまだまだすごかった。
全然まったく少しもわからなかった。
でもこりゃあ、ハッキリ言ってすごい事だ!
逆に表彰モンだゼ。
今、テレビやインターネットの影響で、日本全国どこでも方言が薄まって
きているが、オレはそれをひじょ~うに残念に思う今日この頃なのだ。


最終日、合宿終了で山を下り、弘前駅前に着いた。
すると駅前が迫力満点だった。
ところどころに、でっかい武者の絵や鬼の絵、それらが飾られていて、
オレ達中学生をキョロキョロさせる。
何か、盛り上がる直前の活気のようなものが充満していた。
「そうか、あれがそうか」とは後年思う事であった。
有名な、ねぶた祭り直前だったのだ。
たぶん、引率の大人は説明しただろう、だがガキはそんな事聞いちゃいねえ。
それより、夜行列車までの時間、おみやげ屋にゾロゾロ向かった。
そして適当に物色して、適当に何か買って、集合場所に戻った。
無造作に買ったおみやげではあったけど、その中にはたったひとつだけ、
特別なおみやげがあった気がするゾ。
そう言えば、あったあった。
そう、三春駒という小さな木の置物を買った。
クラスのひとりの女の子にあげるために。
それをリュックにいれて青森を後にした。
ジェットサマー!