【ジョーンジェット&ブラックハーツその4】

 

 

夏のブラジルから一転して、NYは冬だった。
摩天楼に雪がちらほら降っていた。
「確かこのあたりだが?」
オレは名刺のアドレスを頼りに、立ち並ぶビルを見上げる。

 

 

 

2003年11月。
ギターウルフは南米のアルゼンチン、ブラジルツアーの後、NYから始まる
USAツアーを行った。
リオデジャネイロからNYのJFK空港に到着したのは、17日の朝6時だった。
NYは曇り空、真っ青なリオの空の記憶がもう懐かしい。
「昨日の昼だゼ、あの有名なコパカバーナの海で遊んだのは」
そう思いながらタクシーの窓にひたいをつけた。
いつも泊まるマンハッタンの安ホテルに着いたのは、朝10時頃だったろうか、
チェックインにはまだ早かったが、やさしく入れてくれた。
そしてお昼過ぎ、オレは一人でぶらりと外にでる。
財布に一枚の名刺を入れて。
その名刺とは、先月、渋谷クアトロでの対バンで、ジョーンジェットが
直接オレに手渡してくれたものだった。
そこには彼女のオフィスの住所が書かれてある。
「NYに来たら寄ってくれ」
大事に受け取ったが、その時は「ほんまかいな?」ぐらいに思っていた。

 

 

 

ジョーンジェットの事務所を訪ねるつもりだったのかは、定かではなかった。
アポも何もとっていない。
別に友達でもないし、話すこともない。
「やっぱ、今回はやめとくか」
NYの寒空の下、オレはそう思った。
だがそう思った瞬間だ、オレは自分が躊躇していると感じた。
オレはなぜか、自分で躊躇していると思った瞬間に、敢えて突っ込むという
性癖を持つ。
いきなり「おら!行ったるわい」と顔に力をこめた。
目の前にあった公衆電話に近づき、受話器をガっと取ると、ジョーンの
オフィスの番号を押した。そして出たスタッフに、ギターウルフのセイジが
今から行くと告げた。
数分後、名刺と一致するストリートと番号のビルの前に立つ。
エレベーターで昇り、降りた階でうろうろすると、一つのドアにぶち当たった。
BLACK HEART RECORD
「おいおいおい、ここだゼ!!来ちゃったよ」
オレはかなり昔、ここにデモテープを送ったことがある。
そして、送る日本で、このオフィスをイメージしたことがある。
ふくらんでいたイメージが、今、現実に置き換わる。

 

 

 

ドアをノックしてドアを開け、自分の姿を中に入れる。
机に座るスタッフのお姉ちゃんと目が合った。
「ハロー!!I am ギターウルフのセイジ」
「ハーイ」と笑顔の後、彼女はすぐに電話を取り上げた。
マネージャーのケニーにつないでくれているのだろう。
その間、オレの首がぐるっとオフィスを見回すと、奥の方で働くもう一人の
スタッフのお姉ちゃんと目があって、軽く手を振った。
電話はすぐにつながった。受話器を手渡されてケニーと話す。
するとなんとその夜、ジョーンジェットと一緒に食事をする事になったから、
たまげたゼ!

 

 

 

夕方、オレ達6人は、そのオフィスの真下に到着した。
もうすでに日が落ち、夜のライトがストリートに灯る。
するとそこからジョーンジェットがいきなり出てきた。
ギョロっとした目が相変わらずオレ達を見て、ニコっと握手を交わす。
「おいおいおいおい!ジョーンジェットと飯だとよ」
店までみんなでぶらぶら歩きながら、同じジョーンジェット好きのビリーに、
オレはぼそっと言った。

 

 

 

ディナーはあっけなかった。
たいした会話は無かった。しかしそれで十分だった。
オレはジョーンを、オレのロックのかっこいい象徴として頭に焼き付けときたい
だけで、友達になろうとは思っていない。
彼女もそれがわかっているらしく、ずっとクールに構えていた。
途中「セイジの英語は全然わからん」とピシャリと返す辺り、
「なんだよ、冷てえ言いぐさだな」と思ったが、彼女のイメージそのものだった。
そして小一時間のディナーの後、店の前で別れた。
「サンキュー!ジョーンジェット、バイバイ」

 

 

 

翌日、ギターウルフはCBGBでライブだった。
そのライブの直前、予期せぬ事が起きる。
オレ達の前の最後のバンドが終わると、
オレはいつものようにギターウルフ出撃の気炎をあげた。
「おりゃあ!」
グっと拳を握りしめ、革ジャンの襟に鋭さを増し、スパっと一閃、
楽屋の入り口を振り返る。
すると!?
するとそこに、ジョーンジェットが立っていた。
「ハーイ、セイジ!」
「うわ!」思わず飛び上がりそうになった。
いや、少し飛び上がったかな?
彼女の後ろには、ケニーとブラックハーツの面々もいた。
まさかり担いだ金太郎だぜ!!!!
その夜オレは、ジェットの感激を持ってCBGBのステージに駆け上った。
「行くぜニューヨーク!くらえ!ジェットロックンロール!」

 

 

 

ライブ後ジョーンは楽屋に姿を見せなかった。
すぐに帰ったようだ。
数ヶ月後、日本に帰ってから、ある雑誌の上で、間接的にジョーンと関わった。
その時、雑誌社が送ってくれたFAXに、ジョーンジェットからの
その時のライブのメッセージがあった。
「セイジ、グレイトなショーだった!ホントに楽しかった。ハイエナジーでね。
みんな楽しそうな顔してたよ。バンド冥利につきるね。」
オウ、イエー!