【ザ・クランプス】

 

 

「ギターウルフを首にするか、どうするか」
その話が持ち上がったのは、ダラスのショウの次の日だった。
次のライブの地であるヒューストンに向かう車の中で、スティーブから聞いた。
ハンドルを握ったまま振り向いたスティーブは、オレ達のアメリカでの
ツアーマネージャーだ。
とりあえずヒューストンに行くという事になったが、車内でオレは憮然とした。
「チッ、首にするならしやがれ」

 

 

 

その数ヶ月前の日本。
オレは、自分たちのレーベルの社長である井手さんから電話をもらった。
「クランプスがギターウルフを全米ツアーの前座として指名してきています。
やりますか?」
井手さんはその時、不審そうな声でオレに聞いた。それには理由がある。
それより以前、ダイナソーJrというバンドとの全米ツアーを断ったばかりだった。
しかしクランプスは違う。
「もちろん、絶対に行く」オレはそう答えた。
電話を切った後、興奮した。
「なんと!クランプスがオレ達を知っていた」
かくして、1997年秋にギターウルフはクランプスの全米ツアーに
前座として、参加することになったのだ。

 

 

 

怪獣どもが織りなす、きわめて正当なR&Rバンド、ザ、クランプス。
1990年、エムザ有明でオレは彼らの初来日公演を見た。
赤いビキニのポイズンアイビーがステージに立つ。
それはあまりにもセクシーで、人とは思えなかった。
悪魔の科学者が作り出した精巧なセクシーアンドロイド。
そしてこれも同じく、悪魔の科学者が、泡のぼこぼこする二つのでっかい水槽に、
フランケンシュタインとエルビスの死体をならべて、強烈で怪しい緑の
電流を流し、ひとつにして蘇らせたような怪獣ラックスインテリア。
赤いアンドロイドの美女がギターを使って、激しく怪獣を操作する。
怪獣は転がり、破壊し、マイクを食べる。
美女は淡々と無表情だが、たまに顔を強烈に歪め、見ている者に
一瞬恐怖を与えて、次の瞬間に興奮させる。
「そんな顔したら、そんな顔になっちゃうからやめなさい」
小さい頃、よく親に言われていた事を思い出した。
それ以来、オレはクランプスのとりこだ。
そして、その時のライブの興奮が、オレにレッドロカビリーという曲を書かせた。

 

 

 

ヒューストンに到着した。いつも通り楽屋に入る。
話はどうなっているのかわからない。
前日のダラスのショウでオレ達は荒れた。
ショウの途中、オレはモニターの音が小さかったせいで、何度もPAに怒鳴った。
その当然の結果としてPAは怒った。ショウの途中で機材をかたずけ始めた。
オレは怒りでマイクスタンドを蹴り上げ、モニターを頭上に持ち上げた。
黒人のセキュリティーが乱入してライブは終了。
楽屋でも少し荒れたが、時間がすぎればサバサバしたものだった。
ビール飲んでゴキゲンになればすぐ忘れた。
ところがプロモーターは忘れていなかったらしい。
そりゃそうだ。

 

 

 

プロモーターのところへ行ったと思われるスティーブが帰ってくるのを、
3人は少々ふてくされて待っていた。
「ちぇ!どうとでもなれ」
するとそこに突然、ポイズンアイビーとラックスインテリアの2人が現れたのだ。
英語は得意じゃないが、ポイズンの口からでた言葉は確かこうだった。
「セイジ、ツアーを止める必要はなし。このまま一緒にツアーを続けましょう」
後で聞くと、2人がプロモーターを説得してくれたという話を聞いた。
感激した。

 

 

 

ダラスのような事もあったが、クランプスとのツアーはメチャクチャ楽しかった。
ツアーにはもう一つの前座バンドがあった。
バンドの名はデモリューションドールロッズと言った。
男1人と元ストリッパー姉妹2人の3ピースだ。
特にその姉のマーガレットが強烈で面白く、楽屋でのビリーとの掛け合いは
まるで漫才を見ているようで、ずいぶん笑わせてもらったよ。

 

 

 

そのツアーも、後3回のショウを残すだけとなったセントルイスでの事だ。
そこでオレの心に残る一つの風景がある。
サウンドチェックの後、オレは裏口から外にでた。
すっかり暗くなっていて、寒さでぶるっとした。
目の前に並木道があった。少し風が吹いていて、落ち葉がカサカサ舞っていた。
遠くにレンガ造りのレストランの灯りが見える。
あれっと思った。
舞う落ち葉の中に、2人の仲の良い夫婦の後ろ姿があった。
2人ともコートを着て、ぴったりと腕を組み寄り添って歩いている。
どうやらレストランに向かっているようだった。
そう、それはポイズンとラックスだった。
静かにその後ろ姿を見送った。そして同時に不思議な気がした。
オレは毎夜、怪獣とアンドロイドのライブを見ている。

 

 

 

2009年2月5日、ラックスインテリアが享年60歳で亡くなった。
ショックだった。
またいつか会える日はもう無い。
しかし人はいずれ死ぬ。
死ねば、その人間がどれだけこの世界に強烈な足跡をつけたのかという事が、
はっきりわかる。
そのために人は生きているのかもしれないと時に思う。
ラックスインテリアは素晴らしかった。
ただ、寄り添って歩く片方を亡くしたポイズンの事を思うと胸が痛む。
I LOVE THE CRAMPS
そしてありがとう。