【新幹線ハイテンション】


「新幹線に乗れる!」
島根にいた中学2年の時、部活の大会で東京に行く事になった。
その時、真っ先に思ったのは新幹線の事だった。


長崎にいた子供の頃、夢の超特急ひかりは子供達のあこがれの対象だった。
自分が生まれた次の年に新幹線は登場している。
今思えば、日本中の関心度の高さは相当だった。

子供雑誌ではしょっちゅう特集されていた。
母親も、よく話してくれた。
「コップに水を満杯にして窓際に置いても、全然揺れんのだって」
「早くて、景色なんて線になってしまうだって」

きっとそうだろう、なんせ新幹線だ!
想像するだけで、すべてにゾクゾクした。


東京へ向かう中学生達は、先生、応援の保護者達と岡山駅で新幹線に

乗り換えた。
そこでオレは、初めて生の新幹線を見る。
プラットホームが空中にあった。
婉曲した壁に包まれホームが遠くまで続き、所々の大きな窓から
岡山の町が見えた。そこにシャー!新幹線ひかりが滑り込んできた。
なんてスマート、丸い鼻先に抱きつきたい!


席に仲間達と座ると、窓の外の風景が動き出した。
いよいよだと思った。
線路脇のポールが勢いよく、どんどん後ろに飛んでいく。
「最高速にはいつなるのか?」
早く線になる景色を見たい!
だが気がつく。
「なるわけ無いじゃんよ」

長年抱いていた妄想が遠い景色の向こうに消えていった。

母ちゃんの嘘つき。

途中、先生、保護者について食堂車にいった。
列車のレストランで食事をするなんて、夢のように思えた。
しかしウエイトレスは常に忙しそうで、せっかくの夢も
なんだか落ち着かなかった事を憶えている。
メニューは、みんなの手の上をワイワイガヤガヤあっちに行ったりこっちに
行ったりで、結局まともに見ず、引率のお母さんに従うままカレーを頼んだ。
この時の自分の記憶に残る光景の中では、

食べ終わったカレーの器の中には、口を拭いたクシャクシャのナプキンと、

使い終わったスプーンが突っ込まれている。
そして窓際には、これが肝心なのだが、八分目ぐらいのコーヒーが置かれている。
表面はまあまあ揺れていた。全然揺れないって事ではない。

母ちゃんの.....まあいいか。


乗ってしまえば、あこがれは現実となる。
だが、乗り慣れた今でも、新幹線に乗るとオレのテンションは上がる。
ニュースで新しい新幹線の話題を目にするとわくわくする。
東北新幹線E5なんてちょっとかっこいいぞ。
新幹線はオレ達の誇りだ。
フランスの新幹線TGVに最高速度が負けている事にちょっと悔しい思いを
持っているのはオレだけじゃないはずだ。
がんばれ新幹線!
イエー!新幹線ハイテンション。