【バイ菌ロック】


青雲ナインは、全員下痢になった。
ただし、それは二人以外。
その二人とは、星飛雄馬と伴宙太。
その日は甲子園行きを決める地区予選の決勝戦だった。
前日にPTA会長による壮行会が行われた。
ごちそうがでた。
それが下痢の原因となった。


70年代の超有名なアニメ巨人の星の、「泥だらけの決勝戦」の話しだ。
巨人の星は子供の頃、再放送を含めよく見た。
いろんな話をよく憶えているが、地区大会決勝戦のこの話も印象的だった。
強くあこがれを持った。
オレもこんな時、下痢にならない方の二人になりたいと思った。


他のナインが奮起して球場に立つ。しかしフラフラで使い物にならない。
ピッチャー星とキャッチャー伴は覚悟を決める。
二人でなんとかしようと。
だが11回表に、ノーアウト満塁の絶対的なピンチが二人を襲う。
その時、ベンチで試合を見守る青雲高校の校医の言葉が、オレのあこがれに
追い打ちをかける。
「まだ試合はわからん。獅子の子が一匹と、戦車が一台おるわい」
かっこいい!
そういう場面でそう言われる人間になりたいと思った。


たまたま運良く、オレは丈夫な身体を親にもらっているようだ。
大人になって、似たような事態をオレはたびたび経験している。


原宿で働いていた時に、友達とみんなで行きつけの居酒屋に行った。
店長が勧める馬刺しを頼み、みんなで大いに食べた。
次の日、全員ひどい下痢になった。
ただしそれはオレ以外。
「ラッキー!」と思う自分がその時にいた。
みんなを心配はしたが、多少、得意げだったかも知れない。
しかし今、どうしてだろうと思う自分がいる。


話はオレが小学校低学年頃だったある夕暮れの事だ。
オレは畳の上で腹を押さえてうんうん唸っていた。
つけっ放しのテレビの光がオレの顔を照らす。
暗い部屋の中で、光は大きくなったり、小さくなったり。
夕食までの時間、オレはよく怒られるまでゴロゴロしていた。


ガキの頃は、遊びながら何でも口にする。
当時住んでいたアパートは草深い山の上にあったので食べ放題だった。
ヘビイチゴや花のめしべ、蟻のたまご、キリギリスのケツからでる白い液体、
さすがにヘビのたまごを見つけた時には不気味で食べなかったが、とにかく
いろいろよく口にしたっけ。
だけど決まってその後、腹痛だ。
その頃は何が原因で痛いのかよくわからなかった。


今思う!あの頃、オレの腹の中で暴れたバイ菌が、まだ腹の中に
居座っているじゃないかと。
そのバイ菌は今や、オレの腹の中で牢名主のようになり、
新参者のバイ菌が入って来ると、彼の前で仁義を切らせ、頭が上がらないように
しているのだ。そうとしか考えられない。
そいつらが暴れようとすると、牢名主が怒ってくれているのだろう。
ありがとうよ、牢名主バイ菌。
お礼に牢の中にいっぱいお酒を差し入れしてやるからな。


ムシャムシャムシャムシャ、オオカミは何でも食うのだ。
カモン!バイ菌!勝負だ、かかってこい。
少々のバイ菌から逃げちゃだめだ。
それをも取り込んで自分の身体を強烈にしたい。
イエー!バイ菌ロック!