【クローン】


 朝、飯を食べようと茶碗にごはんをよそって、テーブルに着こうと左手に
箸と茶碗を持ったまま、右手で椅子を引いて座ろうとしたら、テレビから
「凍結死骸からクローン」というニュースをアナウンサーが読み出した。
「何!?」と思って、ゆっくり椅子に腰かけてテレビの方に顔を向けた。
ニュースは言う。
「16年間凍結保存されていたマウスの死骸の細胞からクローンマウスを
作る事に成功しました。これにより、シベリアに眠るマンモスの復活が
現実味を帯びてきました」
その後、科学者の談話があった。
「ぜひ、マンモスに挑戦したいです」
オレは思った。
「すごい! 1万年前に絶滅したとされるマンモスがこの世に再び蘇ったら
おもしろい。ジュラシックパークの映画の世界がやがて現実になるゾ」
そんな事を夢想して飯をパクついた。


その後、外に出た。町角で何度かこのニュースの事が頭によぎった。
そして何度目かの時、突然怖くなった。
「そんな事をしたらだめだ!」
確かにマンモスが蘇ったらすごいと思ったが、そんな事をしていいのか。
それは地球の歴史を強引に変える事じゃないのか。
きっとこれはエスカレートする。
この原理で言えば、死者を冷凍しておけばいつかは蘇らせる事が
できるという事だ。
息子を交通事故で無くした悲しみで、天馬博士はアトムを作った。
クローン技術を使って同じ事をする科学者は必ずでる。
いや、もう人間のクローンはどこかにいるかもしれない。
人間の欲求が理性を飛び越えるのを防ぐ事はできない。
それは歴史が証明している。


青く澄んだ秋晴れを見上げて、しばし呆然としたのだった。