【高知ロックCITYその1―ラグビー部の男】


「こいつ結構いけるで~」
オレはグラスにビールを注がれながらその声を聞いた。
瞬間、頭の奥でカチっとスイッチが入る。
ニヤッとしたはずだ、こういう事オレ大好きだぜ!
注がれたビールをイッキする。
入れ替わり立ち替わりやって来て、オレのグラスにビールを

注いで注いで注ぎまくる。
そしたらそれをイッキ、イッキのイッキッキだ。
オレが叫ぶ「まじかよ、オイ!オイ!こりゃ大変だあ」


それは数分前の一声がきっかけだった。
「お客さんのどが乾いていらっしゃる、早く注いであげろ」
それまで穏やかだったパーティが、いきなり勝負のパーティに変わる。
目の前に若い兄ちゃんがグラスを持ってやって来た。そのグラスにビールを
なみなみとつぎ、それをその兄ちゃんは自分でイッキした。そしてそのグラスを
オレの鼻っ柱に突きつける。オレはそのグラスを受け取った。


1997年6月6日、ギターウルフは高知で生まれて初めてライブをした。
主催者はKクラブの井上君と言うお兄ちゃんだった。
彼は高知空港までオレ達ギターウルフを迎えに来てくれた。
ライブのすべてを仕切り、その後の打ち上げも仕切ってくれていた。
彼は昔ラグビー部だったらしい。どおりでがたいのでかい兄ちゃんだ。
打ち上げのパーティを変えた一声は、まさしく彼の声だった。


高知人の返杯の儀式が炸裂する。
笑いながら覚悟して、受けた以上は受けきる。
次々と来る返杯の中で、オレの迫力を見せてやる。
そんな気持ちだったが、だんだんオレの様子も怪しくなった。


「ありがとう、また必ず来るよ」
この夜オレ達は高知を離れ、高松まで車で移動する事になっていた。
高知のみんなと握手を交わして、オレ達は店の前にあったタンポポという
ラーメン屋に入った。ラーメンを食べ終わり車に乗り込んだ。
ドライバーが車を飛ばす。そしてみんな爆睡した。


その日以来、オレは高知に毒されている。
ギターウルフの日本ツアーで高知は外せない。
井上君との対決が待っている。それはほぼ毎年続いている。
何度も行くようになると、オレは対バンという刺客を持っていつも現れた。
彼は高知ヤングロッカーを前面に布陣させる。前哨戦が終わった頃、大将の
一騎打ちになる。それがまたおもしろく、「オイ井上君、何がこうでこうだ」と
オレがわけのわからない事を言いながら3次会4次会で飲む頃には、二人の
前にはテキーラがある。
それを激しくイッキしていると、気づくとオレはホテルのベッドで、朝、目が
覚める。不思議な事に、切られるならどうせ日本刀でスパっと切られた方が
直りは早いのか、二日酔いもなくスカッと起きる。
「思いっきり飲んだなあ」と思いっきり伸びをして、
夕べ会った記憶のほとんどを無くしたオレは高知を去る。
なんてあまりにもさわやか。
高知ロックCITY!オレはこの町を愛するぜ!!