【ゲストイチロー】



アメリカにツアーで何度も行くと、その土地、土地に友達ができる。
そして、次に行く時にはゲストリストにその友達の名前を書く。
数多く名前を書ける土地程、そこでの楽しみも大きい。


サウンドチェックが終わり、店のオープン準備を待ちながらビールを口に
する頃、ツアーマネージャーのスティーヴが聞いてくる。
「今日はゲストいるかい」
いる場合は、チラシの裏か何かに書いてスティーヴに渡す。
その時オレは、土地によって、ちょっとした名前をゲストリストに付け加える。
たとえばこんなぐあいだ。
ハリウッドでライブをやる時には、女優のメグライアンの名前を書いたり、
クリーブランドでは、その町で撮られたオレの好きな映画‘Light Of Day’に
出ていたマイケルJフォックスの名前を書いたり、セントルイスでは
チャックベリーの名前を書いたりするのさ。
面識の無い、絶対にやって来るはずのない女優やロックスター達の名前を
ゲストリストに書いて喜んでいるだけなんだけどね。
でも何かのはずみでやって来ないかなって期待も少しはあったりして。
そして店が開いて活気づいて来た頃、オレはスティーヴにこう聞く。
「スティーヴ、メグライアン見た?」
「NO、しかしすぐ来るさ、すぐよすぐ」


シアトルのクラブの楽屋で、オレはゲストリストを書いていた。
シアトルは友達が多い。他の対バン連中がガヤガヤする中、紙をドラムの椅子
に置いて、友達の名前書いていき、そしてその一番下にイチローと書いた。
すると突然、隣にいた対バンの一人のアメリカ人が、素っ頓狂な声をだした。
「イチロースズキ!?」
彼は、目と口を大きく縦に開いたその顔をそのままオレの方に向けた。
オレ達は大爆笑だ。
その後、冗談だって事を彼に伝えるのだが、俺が書いてもないイチローの苗字の
スズキまで、彼が叫んだ事にちょっと感動した。
シアトルでのライブのアンコール前には必ず、ギターを逆さに持ってイチローが
打席に立つ時のまねをする。これがオレには楽しみなのだ。だけど反応が
あんまりないんだよな。なんでだろう。もしかして似てない?


何にしてもイチローはすごいね。