【ムカデエキサイティング】


 

オレはいきなり椅子から飛び上がり、興奮の極地でムカデを

足で踏みつぶした。
足元にはバラバラになったムカデがあり、

空中にはオレの息づかいがあった。
そしてゆっくり教室を見回すと、クラス全員の目が

オレに向けられていた。

 

高2か高3の夏だった。
英語の授業中、袖をまくり上げた白シャツでうつらうつらと

夢見心地。
教室は中庭に面していて、風がよく通り、涼しかった。

おまけにティチャーの英語はひたすらお経で、

高校生を眠りに誘う事に関して、彼は天才的だった。
右手にシャープペンが握られ、それをノートに立てたまま、

わけのわからない図形が、顔の真下にできあがる。
よだれは垂れるし、お経は続く、でも風は白くて気持ちいい。

 

 

シャープペンを持った右手がもぞもぞした。
目が右手を見る。
すると「ギョ」
神経いきなり針!

ムカデがでっかく右手にいた。
あずきを凧糸で結んだような20センチ位のムカデが、
シャープペンを持ったこぶしの中から、
前後左右にからだを振りながら、はい出そうとしていた。
いったいどこから登ってきたのだ!
心の真っ白の半紙が、パンと音を立てる。
「あわてるな、あわてると刺されるゾ」
ムカデは右こぶしから這い出した。
そしてそのまま二の腕を上がってくる。
ザラザラッと足の感触がたまらない。

ムカデはしっぽで刺す。

「まだだ、まだ、シャツまで登ってこい」

ムカデは何度か止まり、その度に旋回するしっぽに、

小さな風を感じた。

ゴクっと唾、まばたき無し。

高速でムカデをはらえるように、左手を振り子のように

あごの下で構えていた。

やがてムカデは、シャツに足をかけ肩の方まで登ろうとする。

そして肝心のしっぽがシャツの上まで来た瞬間!

「パシン!」オレの左手は間髪入れずにムカデを払い、
すかさず椅子から飛び上がり、足でムカデを踏みつぶす。
踏みつぶして、踏みつぶして、踏みつぶした。

でっかい息づかいと共に、オレは勝ち誇った。

するとだ。

オレの目の先には、あっけにとられたクラス全員の目があった。

教科書を片手に持ち、ティーチャーは教壇からオレを見ている。

一瞬の間を置き、猛烈な勢いでオレはしゃべった。

「ムカデが手を登ってきて...気づいたけどじっと我慢して...そして

オレは今はたき落として、そのムカデが今ここに...そしてオレの足元に」




クラスは少しだけざわついた。
だが、オレの武勇伝への関心は薄かったようだ。

「大丈夫だったか」とか、「ムカデが手からでてきたって!?」とか
心配やら驚きの声が出ると思ったが、反応全くナッシング。
オレは着席した。
そして、何事も無かったように、ティーチャーの英語が、

再び教室に響き始めた。

「なんということだ!

オレは忍耐と機転で、ムカデに勝利したというのに」

興奮はひそかに続いたが、

やがて、オレは上履きでムカデの死骸を椅子の下に集めだした。

風はすずしく、教室を通り抜けていた。