【ラジオロックその1-脱けだして電波】

 

 

オレの青春はラジオが作ってくれた。
1970年代に田舎に住んでいた中坊のオレは、とりあえず夜更かしするのが
好きだった。ラジオにかじりついて深夜放送を聴くことがとにかく楽しかった。
親に隠れて深夜にラジオを聴く。
オレが始めて感じた反抗のスリルだったのかもしれない。

 

 

 

オレの部屋にオレ1人。ラジオのむこうからDJの声。
そして同じDJの声に、日本中で耳をかたむけている仲間達。
窓の外の暗闇にあるいろいろな町が、目の前のオレのラジオでつながっている。
そこで流れた音楽も、ひとり爆笑したことも、ひとり感動したことも、
その時間に聴いているオレ達だけのものだった。
同じ瞬間をみんなと共有していたのだ。
そうさ!!夜はオレ達のものさ。

 

 

 

深夜の月の光の中にぽつりぽつりと浮かぶ微生物ミトコンドリアのオレ達。
それは真夜中の発光体だ。
ラジオから送られてくる電波の糸にそれぞれがつながれて、
ゆらりゆらりとオレ達は、オレ達の夜に浮かんでいたのだった。

 

 

 

やがて深夜放送が教えてくれた夜更かしのスリルは、次のスリルをもとめる。
夜にラジオを聴きながら浮かんでいただけのオレは、窓の外の深夜に出た。
ただ聴いているだけじゃ飽き足らなくなったのだろう。
生身の誰かと話したくなった。
友達らと示し合わして、深夜こっそりそいつらの家に遊びに行くようになった。
そして会ってだべる。たったそれだけのことだ。
だけどそれがめちゃくちゃ楽しかったのだ。それは小学生から中学生に
なったばかりのオレの、次の青春のスリルだったのかもしれない。

 

 

 

夏のある晩。
オレは1階の自分の部屋からの脱出のチャンスをうかがっていた。
目の前でラジオが鳴っている。DJが話している。
2階の親はもう1時間ぐらい前に寝ただろうか。
父親と母親のいびきが聞こえてくるような気がするゼ。
窓の外には月の明かり。頃は良し。
ラジオのヴォリュウムを少し下げて、玄関からオレの靴を持ってきた。
オレの部屋の網戸をツッーっと滑らせる。
両手に持った靴を畳に置いて、片方ずつ履く。
そして地面に立つ。じゃりっと土の上の砂を踏んだ。虫の声が聞こえる。
窓から出た場所にいつも置いてあるチャリンコを両手で持ち上げる。
ペダルが少し回ってチェーンが鳴る。
「ちくしょう!何時間も前に外に出しときゃ良かったぜ」
目の前の道路までゆっくり運ぶ。
「よしこの辺りでOKだ」自転車をまたいでペダルに足をかける。
「おりゃあ!友達の家までぶっとばすぞ!!」
真上に外灯。その光の中では、虫が静かに飛び回っていた。
ペダルをこぐ。そしてペダルをこぐ。
オレの部屋からのラジオの音がだんだん遠くなっていく。
イエーイやったぜ、ラジオロック!!