【RCサクセション】

 

 

「君はRCを認めるか!!」
高校2年の夏の深夜にラジオをつけた。その時DJが突然ラジオから
問いかけてきた。オレの耳はいきなりラジオに集中した。

 

 

 

ハガキが次々と読まれていく。僕は認める、私は認めない。
賛否両論の意見が飛ぶ。しかし、オレにはそれ以前の根本がさっぱり
わからない。
「一体、RCって何だよ?日本のバンド?外国のバンド?」
だけどはるかかなたの夢の東京で、何か新しいムーブメントが
起きている事を感じた。テレビではわからない何かが起きている。

 

 

 

「それではここでいこう。RCサクセションで雨上がりの夜空に!!」
DJがコールする。ラジオから前奏が鳴る、そして歌になった。
「あ、日本語だ。」

 

 

 

高校生の男は絶えず性に対して悶々としている。生活の半分以上がそんな事
ばかり考えている。その頭がRCを聞いた。そして思った。
「なんてエッチな歌なんだ。」
こんな歌があっていいのかと思った。ものすごくびっくりした。
お前に乗るとか、びんびんだぜ!!とか、感度最高とか、四六時中女の子に
対していつも夢想しているそのままの単語に、ストレートで興奮した。
そしてその声にも、奇妙さと強烈ないやらしい色気を感じた。
雨でぽしゃった車の歌にしたててあるなんて、ずいぶん後に気づいたんだ。

 

 

 

それから4年後の21歳の夏、オレは西武球場センタースタンドの
外野席にいた。青空の下でRCサクセションのワンマンライブが始まる。
「この日本でオレの事知らない奴がいるとしたら信じられねえゼ!!」
忌野清志郎が叫んだ。かっこいい!!すべての観客が手を上げて叫ぶ。
そしてチャボが加速をつけてギターをかき鳴らす。スタジアムが浮き上がる。
そしていよいよ終盤、星空の下で雨上がりの夜空にが鳴り響く。
オレは、遠くに小さく激しく動き回る忌野清志郎に釘付けのまま、
まわりと一緒に大合唱した。

 

 

 

その3年後24歳、オレはギターウルフを結成した。そして長い時間が
過ぎる。10何年過ぎた頃、ギターウルフはフジテレビのある番組に出演した。
司会、忌野清志郎。
それを聞いた時正直驚いた。「清志郎が司会?緊張するじゃないか」
そう思いながら別の自分がいた。
「ふん、清志郎がどうした、クソでもねえゼ」つっぱってやる。
しかしつっぱりきれなかったのだな。だってオレはRCが大好きじゃねえか。
トークの時、清志郎さんはすでにオレ達をよく知ってくれていた。
そして結構気を遣ってくれた。はっきり言ってめちゃくちゃ嬉しかった。
その後、番組の中で誘われるままに君が代をバンドでセッションをした。
思いっきりメチャクチャギターを弾いたけど、つっぱる事なんて
とっくに忘れちゃったよ。

 

 

 

その後また何年かして、清志郎さんとまた出会う事になる。
清志郎さんの秘密バンド、ラブジェットと新宿ロフトで対バンすることに
なったのだ。ギターウルフは当然、前座と思っていたのだが、
事務所サイドから清志郎さんはどうしても最初にやりたいと言う。
「待ってくれよ清志郎さんよ。年齢順でいいじゃんよ」と思ったが
結局オレ達が最後に演る事で決まった。

 

 

 

その日のオレ達のリハーサルの後の事だ。オレは楽屋で一人座っていた。
そしたら楽屋の入口の壁の脇から人の顔がにょきっと傾くように出た。
オレは一瞬身構えた。そして一瞬間があった。よく見るとその顔はまさしく
忌野清志郎だった。
「清志郎さん!!」オレは急いで立ち上がり握手をした。
その後の会話は長くなく、清志郎さんは清志郎さんの楽屋に戻っていった。

 

 

 

ライブが始まりそして終わり、その後、そのままロフトで打ち上げがあった。
その時清志郎さんと一緒のテーブルで飲んだ。その事自体が嬉しかったくせに、
その夜オレは随分なまいきで失礼だった。
オレが聞く「白髪染めないんですか、化粧やめたんですか。」
清志郎さんが答える。「自然体でね、自然体で行くんだ」
それを聞いてオレが突然こぶしでテーブルをたたいた。
「だめですよそんなんじゃ、自然体なんてクソ食らえですよ。
一回つっぱた人間はいつまでもつっぱらなきゃ」
その後もまだまだ失礼な会話は続く。
「RCサクセションをやって下さい、チャボさんとはどうなっているんですか?」
しかし清志郎さんはオレの問いに対して、いつまでも春風のようにさわやかだった。
夜はどんどん更けて、気づいたら朝の4時になっていた。
テーブルには数人しかいなく、清志郎さんはとっくにいない。
オレ達はロフトを追い出され、またうだうだと違う店に飲みに行った。

 

 

 

それ以来清志郎さんとは会っていない。しかし一度手紙をもらった事がある。
それはビリーが死んで少したった時だ。ギターウルフをずっと追いかけて
くれていたカメラマンの三島君が、ギターウルフの写真集を出す事になった。
彼はその写真集の表紙のコメントを清志郎さんに頼んだ。
オレはそのコメントを見てその事を知った。
行け!ギターウルフ
それは清志郎さんがオレ達にくれたメッセージだった。
シンプル過ぎるその言葉にオレは感動した。
ありがとう、嬉しいです。
感激のオレは田舎の宍道湖の極上のシジミと20世紀梨を送った。
送る作業の片棒を田舎の母親に頼んだが、母親が忌野清志郎を知らなかった事

 

に歯がゆかった。しかしそんな事はないと、よくよく説明したらようやく母親は

ピンときたようだ。安心した。

 

 

清志郎さんからオレに届いた手紙はその事に対しての礼状だった。
「しじみありがとう。
とてもおいしくいただきました。
俺はしじみ大好きなんだ。
中略
また、会おう!
セイジ様     05,9,26 忌野清志郎」
その手紙をオレはしばらく事務所の壁に貼っていた。

 

 

 

RCサクセションの曲でたまらなく大好きな曲の一つに
トランジスターラジオがある。
17歳の夏の夜、この曲で歌われているように、聞いた事もないヒット曲を
オレはラジオでキャッチした。それ以来オレはRCが大好きなんだ。
イエー!!ヒット、ヒット、ベイベー!!