【フジヤマアタック】


富士山が山開きだってさ!!
標高3,776m。
オレは1998年9月に登った。
5合目から登って8時間ぐらいかかった。
たくさんの人が登りに来ていた。
登り出しは、大きな声で話したり笑ったりしながら
余裕をかましていたが、次第に口数も少なくなってきた。


途中、8合目ぐらいだったろうか、ごつごつした岩肌に
まだ草が残っていた。
その辺りで変な事を考えた。
こんな場所にふつうの民家が一軒あったりして。
そしたらオレは叫ぶだろう。
「すげえ、なんだこいつら!!こんな所に住みやがって」
その家の縁側には網戸があり、明るい部屋の中が丸見えだ。
その前の庭には、家の明かりに照らされた物干し台に
洗濯物が干してある。
家の中では、団扇を持った、上下が白のすててこで、茶色い腹巻きをした
眉毛の濃いおじさんが片手枕で横になり、テレビで野球を観ている。
放送の音がここまで聞こえてくる。
その横には当然、おぼんにのったビール瓶とグラスが置いてある。
そしたらなぜか、「行ってきます」とランドセルの小学生が
玄関から元気よく飛び出して、登山者の横をすり抜けて学校に行く。
学校まで遠いから、まだ暗いこれぐらいの時間に出ないと始業時間には
間に合わないのだ。
なんだか夜と朝の風景がごっちゃだが、そんな家族がいたら、
ヒイヒイ言いながら登っているオレは、その家族を尊敬するだろうと思った。
そしてまたオレはバカな事を考える。
「よし将来、オレはこの辺りに家を建てよう」


頂上入口にある鳥居が見えてからがきつかった。
あと少しなのにやめたくなるぐらいだった。
なんとか一歩一歩上がって、その鳥居をくぐった。
「富士山頂上到達!!」
なんとそこには売店があった。しかしそれは閉まっていた。
下界は夏、頂上は0度。
その建物の壁に身を寄せ、水筒のコーヒーを飲みながら震えた。
湯気にホッとした。
空気の薄さは全然感じなかった。
やがて雲のすきまから朝日が見えてくる。それを見て思った。
「富士山よ、君はなぜ世界一の高さじゃないのだ。
お前以上のすべての山を、君がつぶしてしまえ。」
勝手な言いぐさだが、日本一の山、富士山に登ったことを
究極の名誉にしたい気持ちでいっぱいだった。
この山を降りてちょっとしたらまた、ギターウルフには
アメリカツアーが待っている。


下山は6時間ぐらいかかった。
すっかり明るかった。
「下山の時に注意しないとひどい筋肉痛になりますよ」
一緒だった経験者の友人に注意されたが、お構いなしにぴょんぴょん降りた。
途中、米軍の団体にあった。驚く事にみんな自転車を肩にかかえて登っている。
「こいつらマジかよ。ひょっとしたら訓練?まさか遊び?」
8合目で想像した家族と同じぐらい驚いた。ちょっと悔しかった。


5合目の駐車場に降りたって見上げた。
頂上ははるかかなたで、ここからは見えない。
夕べ、暗闇の中の道をひたすら登ったが、あんな高いところまで登ったのか。
一歩は山を制す。 
人生で誰かに自慢できる事の一つをオレはやったのだ。
「富士山に登ったゼオレ、すごいだろう。」