【マグニチュードブルースリー】

 

 

「おう、おはよう!!」
1978年月曜日の朝、家からチャリンコで出て、
スーパーマーケットHOK山代店の交差点で陶山に会った。
別のクラスだが、同じ町に住む中学3年生だ。
オレはその朝、ものすごく興奮していた。
奴のチャリンコに並んで、その興奮を吐き出したかった。
「すごかったな!!」
「何が?」眠たそうに陶山が答える。
「何がって夕べの映画だよ。」
「お前、余裕あんなあ。」
呆然とした。
「えー!?お前ウソだろう?」
オレはその友達の態度が信じられなかった。
確かに今日から2学期の期末試験が始まる。

 

 

 

1973年に公開された【燃えよドラゴン】が夕べの夜初めて、
テレビで初放映された。
オレは映画館で見た事は無かった。
夕べの日曜洋画劇場で初めて史上最強の男を見た。

 

 

 

「アチャー!!」ブルースリーが叫ぶ。
かっこよすぎて、信じられない。
このヒーローの前では、試験も女の子もクソ食らえと思った。
男子のすべては見るだろうと思った。
当然オレは陶山にもっと過激に想いの丈を伝えようとした。
だが「お前、余裕あんなあ。」
陶山の口からもう一度その言葉が出てきた時、オレはあきらめた。

 

ママママ、マジかよ。

 

 

学校に行っても、【燃えよドラゴン】の事を話している奴はいなかった。

 

みんな試験の事で頭がいっぱいだ。

「なぜだ!」

あれほどのマグニチュードが、夕べオレ達を襲ったはずなのに何と言うことだ。
教室の入口で、教室の入り口で、たまらずオレが叫ぶ。

「てめえら間違ってるぜ!!」
全員一斉に振り向くが、同時に、一斉に席に着いた。
オレの真後ろに、先生が答案用紙を持って立っていたからだ。

先生は、興奮したオレの頭を答案用紙で激しく叩く!
だが遅かった。

フフフフフオレの頭はもう今までの頭ではない!

ブルースリーを知ってしまった頭だ。

分厚い答案用紙はオレの頭で見事に粉砕。

数枚が空中に飛び散り、残りはドサッと教壇に落ちた。

「見たか、ドラゴン怒りの石頭!」

とこれくらいの想いを、クラスに伝えたかったが、

結局、期末試験をカリカリ受けるオレだった。

オイオイオイ、でもこんな事やってる場合かよ!?

 

 

 

 

 

 

それ以降、ブルースリーに入れ込む人生がオレに訪れた。
彼のポスターを見て、いきなりハサミで眉毛2㎝上のところで前髪を
ザクっと直線で切り落とした事があった。

 

鏡の前で後悔した。
NZツアー中、日本でピリーからプレゼントされた死亡遊戯の
黄色で黒のラインが入ったトラックスーツを寝間着にしていたら、
ブルースリーの夢を見て、2段ベットの上から落ち、
背中の骨に少しヒビが入った事もあった。

 

 

ああ、何億の褒め言葉を並べても彼の前では足りない。
もしこの世にブルースリーがいなかったら世界はかなり違うものに
なっていただろう。
誰かとしゃべっていても、いきなり最高速度まで
加速するようなエネルギーを、いつも周りに感じさせ続けた男。
そしてわがままで強引なブルースリー。
オレが一番、彼の言葉で好きな言葉がある。
「状況なんてクソ食らえ、自分の状況は自分で作るんだ。」

 

この言葉は確実に今のオレを支配している。

何かをやろうとする時「もう状況が.......」なんて言ってあきらめようとする奴を見ると、

怒りMAXで、必ず上の言葉が口から突いてでる。
彼はまさしくその言葉通り、見事に自分の状況を作った。
だがそれを確認しないまま、燃えよドラゴン公開一週間前に彼は死ぬという

伝説的宿命を持ち、1973年7月20日、ブルースリーは永眠した。

 

 

1994年アメリカシアトル、オレはブルースリーの墓の前に立っていった。
ギターウルフの2度目のUSAツアーの時だった。
青々と茂った芝生の上にその墓は立つ。
その時より前年、若干28歳で亡くなったばかりのブルースリーの子、
ブランドンリーの墓が真横にあった。
震えた事を憶えている。そして不思議な気持ちになった事も憶えている。
「たった今このオレは、この地球上でもっともブルースリーに
近い場所にいるのだ。」
アチャー!!