【まばたきしたら朝だった】




朝になっていた。

朝になっている。

アレ?

たった今何が起きたのだ。
窓は明るい。

布団に入ったまま目をバチバチさせて、もう一回あたりを見まわした。
やっぱり朝になっている。

なにーーー!!

それは大阪に転校してきた小学3年生のオレに起きた、不思議な、

ある朝の出来事というか、ある夜の出来事というか。


夕べというか、さっきまでの夜、オレは布団に入った。
二段ベッドの下が妹、上がオレ。
子供部屋の電気は消され、左をむけば窓、カーテンはなし。
夜の建物が、まるで無人の惑星に、無音でグレーにたたずんでいる。
オレは枕の上で天井に向き直り、バチっと一回まばたきをした。


すると、エっ!?


朝になっていた。

ちょっと!...ちょっと待て、今、だって、夜、エっ!?
夜だった窓も朝、建物は朝の光を浴びている。

そして台所からも朝の音。

こんな事って?

何かがおかしい。
二段ベッドからゆっくり降りた。

そろりそろりと畳を踏んで、事実を確かめるためにふすまを開けた。


「おはよう」母親がこっちを向いた、手には包丁。
むむ、母ちゃん早まるな、頭の中で思いをめぐらす、これは確かに朝なのか!?
口からことばにならない言葉をむにゃむにゃしゃべりながらトイレに入った。
そこでおしっこをした。
おしっこ!?

もはやどう考えても朝。


考えられることは二つ。
一つ、これはSFだ。

瞬間的なタイムスリップ、ドラえもん的パラレルワールドがオレの身に起きたのだ。
二つめ、フフ、まさかこんなばからしい理由があってたまるもんか。
まばたきしたら朝だった、まばたきしたら朝だった!?
 
こんがらがった頭で朝飯を食った。

家族に話したが誰も聞き流すだけ。

ただ、ごはんの湯気の上にオレのもやもやが乗っかって、

立ち昇っていくのを繰り返すだけだった。

学校に行って、みんなに話した。

しかしただ聞いてくれただけで、なんの反応もなかった。
 
今になって思うが、あの朝の事は、たぶんというか、やはりというか、

絶対というか、爆睡するにも程があるというか、あれは、やっぱり、
まばたきしたら朝だった。