【夕べのカミナリ】



夕べ東京を襲ったカミナリはすごかった。

なんせそいつはオレの真上に来やがった。
オレは9階建て9階に住んでいる。

最初は遠くの方でただ雲が光っているだけだと思っていたら

アッと言う間にこっちに来たね。

突然バラバラっと雨粒が窓をたたいたかと思うと

いきなりピカっと光ってズドンよ。

ほとんど同時なんだ。

カミナリ好きのオレがさすがにびびったよ。


窓ガラスを雨が滝のように流れている。

激しい光がピカピカとオレの目ん玉にぶちあたる。

窓の下の道路はどしゃ降りの中、車がおもいっきり渋滞している。
今にもオレの真上にカミナリが落ちてきそうだ。

イナズマがバリバリと地上に突き刺さって地響きとなる。

黒い雲はドラゴンと化して頭上で暴れ狂う。

恐怖がオレをハイにする。
そしてオレはいつのまにか錯覚を起こしていた。


オレは誰かの心の中にまぎれこんだらしい、

いやひょっとしてこれは自分の心の中か?
心臓の中の赤い筋肉のうねりは広大な海のようだ。

海は流れてそこに小さな部屋が浮かんでいる。

波に翻弄されるその部屋の中でオレは木の椅子にしがみつきながら思った。

人間の心の中はこうまで激しいのか。
人間は誰もが心の中にカミナリを持っているのかもしれない。

そして時々そいつをピカっと光らせる。

自分という衝撃がこの地上に存在することを教えたいのだ。

カミナリは欲望で、そしてイナズマは衝動だ。


カミナリが遠くに離れていくと共に真下の道路を救急車が走っていった。

それはさっきまでのカミナリと関係あるのかどうかはわからない。

ただ、あれだけのイナズマが空を飛び交ったのだ、

何かが起こっても不思議はない。


しばらくしてベランダに出てみると雨はすっかりあがって何事もない。

風がちょっと出ていて気持ちよかった。

遠くに広がる東京は、ネオンが浮かび上がりだし薄くもやがかかっている。
結局カミナリは、オレ達に衝撃だけを残してアッという間に消えちまった。