HYPNOTIC EYE トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20140820TomPettyHBs
 
 ◎HYPNOTIC EYE
 ▼ヒプノティック・アイ
 ☆Tom Petty & The Heartbreakers
 ★トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ
 released in 2014
 CD-0466 2014/8/20

 先日の記事、39年目にして初めてNo.1を獲得と報じたトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのアルバム記事です。

 僕は出てすぐに買って聴いていて、それから1位になったのですが、最初は「そうかこれが1位になるのか」と、正直、少々戸惑いました。

 僕が聴いた第一印象はこうでした。
 「なんて無駄のないソリッドなロックなのだろう」
 続いてこうも思いました。
 「売れることを第一に考えていたらこの作品はできないはず」

 それが1位になったのです。

 僕は、これ、信頼関係のなせる技だと思いました。

 トム達だって昔はヒット曲を連発し、売り上げも全世界で8,000万枚と、決して少ないほうではありません。
 若い頃は、「トップに立ってやろう!」という意気込みの基に音楽「業界」で頑張っていたからこそできたことなのでしょう。
 彼らは、さして大きなスランプもなくずっと売れ続けていました。
 とさらりと書きましたが、これが実はすごいことなんですけどね。

 彼らの曲は、胸倉を掴まれて大きく揺さぶられるようなものではなく、しかしいわゆる「するめ系」のじわじわと伝わるほど小さな枠でもない、聴くと誰もが「いい曲だなあ」とは思うもの。
 ポップかポップではないかといわれれば十分ポップだけれど、メインストリームになれるかといわれればそうではない、という感じ。

 それが、2010年の前作MOJOで方針転換したと僕は感じました。
 2002年の前々作THE LAST D.J.は、今から振り返るとポップな彼らの集大成的な作品でした。
 しかし、そこで彼らは、次は何か別のことをしようと考え、でもすぐには方向性が見いだせず、8年かけてMOJOを生み出した。

 クスリを連想させるタイトルとは裏腹に、MOJOは「ロック界にクスリというものがなければロックはこうなっていたはず」というストイックでリリカルな作品であり、僕も最初は戸惑いました。
 そうですよね、その間にトムのソロや素晴らしいライヴ盤はあったけど、8年も待って、...D.J.を期待していたところ、そう来たか、となりました。
 実は前作は、どう理解すればよいか、最初のひと月は迷っていたのでした。
 ということは僕は、ポップな、歌って楽しい曲「だけ」を、トム達には求めていたのかもしれない。

 それでも僕はひと月以上毎日聴き続け、漸く彼らを理解し、そのアルバムが素晴らしいと心底感じるようになりました。
 彼らは「ロックの求道者」になりたいのだ、と。

 でも、もし買ってすぐに「これは違う」と感じて聴くのをやめていれば、そうはならなかったかもしれません。
 そこを聴き続けられたのは、僕がトム達を信頼していたからでした。

 トム達は、長年よい作品を作り続けてきていて、彼らなら悪かろうはずがないという共通認識として広まり定着した。
 だから方針転換も素直に受け入れられ、今作は、トム達なら媚びない音楽を作れるはずという信頼があっての1位だった。

 さらには、レコード会社、Warner系のReprise、からも信頼され、やりたいようにやることを認められたのも大きいと思います。
 あのポール・マッカートニーですら、以前のレコード会社のプロモーションが不満で移籍した、という話もあるくらいだから。

 そしてもうひとつ、Facebookの影響力もあるかな。
 僕はかなり多くのミュージシャンのFacebookページに"Like!"していますが、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは情報を挙げる頻度がいちばん多い部類のひとつで、毎日何かの記事が上がっています。
 新譜が出る時はもちろんその情報が音源つきでよく流れていました。
 もっとも、僕は新譜はCDを買うまで絶対に聴かない主義なのですが、そこで聴いて動かされた人も結構いたのだと思います。
 ちなみに、トム達のFacebookページは世界で約290万人が"Like!"しています。

 ともあれ、今回のNo.1は信頼関係から勝ち取ったものでしょうけど、それだけ信頼されるアーティストも稀ではないかとあらためて思いました。

 ところで余談、Facebookで思い出した、そこで知ったことですが、この7月8月、なんと、トム達とスティーヴ・ウィンウッドがジョイントツアーでアメリカを回っていたのです。
 もう羨ましいにもほどがあり過ぎる、少しだけ本気でアメリカに行くことを考えましたが、行動力がないので諦めました(笑)。
 CDかDVD出ないかなあ、それで来日するのはあり得ないだろうから・・・



 さて今作の内容について。
 僕は、前作があった上でのことだったので、素直に最初から感動しました。
 「ロックの求道者」としての道を突き進む姿が頼もしくもありました。
 でも聴き込むと、曲の訴求力は前作より高くなっていると考え直しました。
 
 音楽についてどう書こうかと考えていたところ、いつも書き込みで音楽の話をしてくださるぽちわかやさんが書いておられたことに共感し、それ以上のことは自力では書けないと思われ、ご本人にご承諾の上、書き込みを引用させていただくことにしました。
 なお、文章は引用者が一部修正や省略を行っています、ご了承ください。

 「こりゃあ正味腰の据わったアメリカン・ロックの完成形ですやん。
 こんな隙のないバンドサウンドは初めてやな。
 そしてトムの歌声に飄々としつつも静かなるロック魂を感じます。
 あるべきところにあるべき音がありまくりでありながら頗るロックしてるんですよ。
 意匠としても馴染みのリフでありリズムがカチッと完璧に嵌っているんですが、不思議な感覚に襲われてきました。
 うん、なるほどジャケットデザインの意味がわかってきたぜぃ。」

 さらにははこのようなことも書いておられました。

 「要はロックンロールの「ロール感覚」じゃないんかな?
 そしてほんまもんのロール感覚には時系列は無いっ!永遠なんですよ。
 ヴァンやトムそしてウィンウッドやレイ・デイヴィスさんたちは生来のおのれのロール感覚がもはや滲みでる域に達してるんやと」
  
 僕のように長く書かず、しかも僕も漠然と感じていたことが言葉となって凝縮し表されていて、非常に共感を得ました。
 ついでにいえば、スティーヴ・ウィンウッドの名前を挙げておられるのは、コンサートに行きたいという思いが蒸し返されました(笑)。
 ともあれ、ぽちわかやさん、ありがとうございました。

 隙のないバンドサウンドというのは、とりおなおさず、核となるメンバー、トム、マイク・キャンベル、ベンモント・テンチの3人が不動で、「自然と」仲良くやってこられたことによるのでしょう。
 彼らからは悪い意味でのロック的エゴがほとんど感じられません。
 また、3人とも、特にベンモントは他のアーティストへの客演が多く、他で感じ取ったことをバンドにフィードバックできる環境がある。
 もちろん、みなが実質的なリーダーであるトムを尊敬し、トム中心にみなが信頼し合っているからこそ出来ることでもありますが、こうしたバンドの姿もひとつの理想形、完成形でしょうね。

 そしてやはりバンドにはグルーヴ感が大切であると再認識しました。
 みんながどれだけ同じ方向を向いて演奏しているかがそこにつながるのでしょうけど、その点でもトム達は完璧に近い。
 だから表現力も広がってゆきます。

 表現力でいえば、ギター3人態勢というのも大きい。
 かつては2人でしたが、もっとギターサウンドを充実させたい、そして、スタジオでオーバーダブはいくらでもできますが、ライヴでのリアルさを求めた結果が3人態勢になったのでしょう。
 ライヴでのリアルさにこだわるという点でいえば、このアルバムにはフェイドアウトして終わる曲がないのもそこから来ているのでしょう。
 ギター3人といえばアイアン・メイデンですが、確かスティーヴ・ハリスもライヴでの再現性を考えた、と何かで言っていた記憶があります。
 (彼らの場合は「元」メンバー復帰の場という意味もあるのですが)。
 ちなみにメイデンも、フェイドアウトして終わる曲が全体で1曲しかなく、その1曲も若い頃にシングル用に録音「させられた」ものです、とこれは余談。

 ロックというのは、当然のことながらハードなものであり緊張感があるものだ、というのがトム達の考えなのでしょう。
 この緊張感は尋常ではない、恐いくらい。
 前作もそうでしたが、僕は少なくとも今は、気軽には聴けない。
 聴くなら最後まできちんと聴ける状況でかけたいです。
 ロックなんて楽しければいい、という見方を僕は別に否定はしませんが、でも、「そもそも」にこだわるとこうなるのでしょう。

 完成形のアルバムを前にすると、「そもそも」の話は避けて通れない。
 一般論的になりましたが、それを実践しているのがトム達なのでしょう。
 しかし、理想を実践するのはいかに難しいかは、言わずもがなですよね。
 今作の魅力は、それができてしまったことに尽きると思います。

 大げさではない、断言すれば、ロックという音楽、ロックンロールのひとつの最高到達点がこのアルバムです。
 そんなアルバム誕生の瞬間に立ち会えたのは幸せなことですね。

 メンバーをあらためて
 トム・ペティ ヴォーカル、ギター等
 マイク・キャンベル リードギター
 ベンモント・テンチ キーボード
 スコット・サーストン ギター
 ロン・ブレア ベース
 スティーヴ・フェローン ドラムス

 曲は、2曲目がトムとマイクの共作である以外はみなトム作です。





 1曲目 American Dream Plan B
 1曲目から意味深なタイトル。
 彼らがデビューした頃はまだ言われていた「アメリカン・ドリーム」。
 もはや今の世の中ではそれが不可能という彼ららしいシニカルさ。
 今回記事を書くに及んでブックレットで歌詞を読みながら聴きましたが、観念的、抽象的な表現に拍車がかかっていて、正直、難しい。
 それは聴き手に委ねられる部分が大きいということで、例えばこの曲は、社会ではなく個人の思いと重ね合わせて読むこともできます。
 或いは、「別のブラン」がある、それを60歳を過ぎた今からでも実行できる、という励ましのメッセージをトムが贈っている、とも考えられます。
 そしてこの歌詞はトムの執拗ともいえる韻の踏み方に凄味があります。
 作詞家としてのトムも完成した、といえるのでしょうね。
 曲はよくあるロックンロールのスタイルで、あまりにも素直に始まるのが、僕は逆に、この先きっと何か仕かけてくる、と予感させられました。
 ヴァースの最初の8小節が終わるところで入るテンチのキーボードの音、簡単なフレーズのようで、やはり職人技がにじみ出ていますね。


 2曲目 Fault Line
 タイトルの意味は「断層線」、原発の下にあると恐い・・・
 ロックはベースが命、というポール・マッカートニー信者の僕は(笑)、イントロから入るこのベースラインに速攻でやられました。
 歌がイントロのコードではなくIVで入ってくるのですが、僕はこれがなぜかたまらなく好きで、この曲は最初に気に入りました。
 曲が終わる前に入るそこにしか出てこない3小節のパッセージがまたいい。
 この曲は3回目くらいでもうサビを口ずさんでいました。


3曲目 Red River
この曲もイントロのコードで歌に入らない。
なんというか、響きがふくよかになると感じるんですよね。
トムは"fuzz bass"を弾いていますが、る
そしてギターソロの前の幻惑的なパッセージがいい。
トムはこのアルバムではおとなしく淡々と歌っていますが、
この曲のサビの劇的な展開はその中でははっとさせられます。
大人しい人ほど本気で怒ると恐い、とよく言いますが、そんな感じかな。

 4曲目 Full Grown Boy
 「んっ ぱっ んっ ぱっ」というリズムのディキシーランド・スタイル。
 "The full moon seems to know me"というくだりは、トムのソロ作FULL MOON FEVERを想起させてちょっと可笑しかった。
 歌詞を書く際はそれを意識せず自然と浮かんだのでしょうけど、出来上がったものを読んで本人が意識しないはずがない、言葉に敏感な仕事をする人たちだから。
 緊張感の中のせいっぱいのユーモアを感じました。
 ジャズ風のギターソロもいい、マイクさすが。
 「育ち切った少年」という表現は面白いですね。
 気持ちがいつまでも若いのはいいことなのでしょう。
 僕もそう思っていました。
 でも僕は最近、「若い」のと「子どものまま」であるのとは似て非なり、僕は「子どものまま」ではいたくない、と思うようになりました。
 トムのこの曲は、そんな僕に「それでいいのか」「それでいいのだ」と悩みの種を与えてくれてしまいました。

 5曲目 All You Can Carry
 このアルバムはギターリフがいい曲が多い。
 ブルーズからR&Bになりやがてロックになったその変遷をダイジェストする今作は、さらにはそこからハードロックに展開したことがよく分かります。
 いや、これはハードロックといっていいのでは。
 もし世の中にクスリというものがなければ、ですが・・・
 そして僕はギターリフが印象的な曲が大好き。
 サビのトムの歌い方には、冷淡な中に優しさがちらと垣間見えます。

 6曲目 Powerdrunk
 そうか、クスリはないけど、酒はあるんだな・・・
 これまた低音のギターリフが迫ってくるスリルがたまらない。
 最後のヴァースの前とコーダに入るパッセージが印象的ですが、このアルバムは印象的なパッセージが多いのは特筆もの。
 曲全体としては70年代の香りがぷんぷん漂ってきます。

 7曲目 Forgotten Man
 これはトム達自身の1作目2作目を彷彿とさせる若々しいリズム。
 「忘れられた人間みたいだ」と歌うのはいかにもロック的。
 2番のくだり"I feel like a four-letter-word"というのがまた意味深。
 きっと"l o v e"のことだと思うけれど。
 ソロに入る前のアコースティックギターのパッセージがいい。
 そこがアコースティックギターの音が前に出るところに、ギターの使い方、バランス感覚に長けていることが分かります。
 ほんと、一度しか出てこないパッセージが印象に残る。
 一度しか出てこないのはもったいない、とすら思うけれど、でもだから、これは質素なようで贅沢なアルバムなのですね(笑)。
 ご飯とみそ汁に一夜干しの魚1匹で満足するみたいな。
 イントロのギターリフはディープ・パープルのFlight Of The Ratを思い出しましたが、似ている、というよりは、ロックとはそういうものだという感覚に自然となってしまうのがこのアルバムの不思議な魅力ではないかと。
 曲の終わり方が派手で、コンサートではいちばん盛り上がる曲かな。

 8曲目 Sins Of My Youth
 若い頃の罪、か・・・
 慈悲を乞うような曲調、サビの憐れみすら感じる泣きの旋律。
 こういう曲を歌わせるとトムに比肩する人はいないでしょう。
 トム・ペティはアメリカ人の中でも憂いや陰りが強い人であるのが分かり、それはR.E.M.とつながるものがある、と僕は思います。
 柔らかく弾いているはずなのに弦が痛くて悲鳴を上げるようなギターソロも、もはや至芸の域に達しています。
 それにしてもこの曲は気持ちが沈んでしまう。
 ある種のカタルシス的作用に満ちていますね。

 9曲目 U Get Me High
 このギターのイントロは80年代アメリカ勢のポップロックを思い起こさせてくれる、80年代育ちにはうれしい曲。
 ただ、そのままやるともっと明るい曲に聴こえてきたはずが、緊張感を持って抑制をかけているトムたち、少し沈みながら進みます。
 サビの低音で動くギターリフが、ギターリフ好きにはたまらない。
 "high"といえばロックの世界では通常はクスリを想起させるものですが、そこを敢えて歌い、しかも"You"を俗語である"U"としているところに、逆に彼らの強い意志と理想に向かう姿を感じます。
 トムは、20年前のソロではいかにも気持ちが浮き立つようにHigher Placeと歌っていたのに、このハイはだいぶ落ち着いた感が。
 しかし最後のギターの応酬はやっぱり「ハイ」だな。
 そのギターソロは、右チャンネルがマイク、左がトムとブックレットに明記されていますが、ギター弾きとしてはそれが分かるのはうれしいし、彼らのバンドとしての力をこんな細かいところでもまた感じます。

 10曲目 Burntout Town
 これは一聴、トム達流のブルーズ解釈ということでいいのではないかと。
 スコット・サーストンのハーモニカも前面に押し出た正真正銘のブルーズ。
 大元はハウリン・ウルフかな(違うかもだけど)。
 1'30"の「じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ~ん」という決めのフレーズには、全身の血液が沸騰する感覚に包まれますね。
 そこが来ると絶対に首を縦に振ってしまう(笑)。
 本来は軽快なシャッフルビートが、なぜか後ろに引かれる感覚になる曲。
 これもコンサートで盛り上がるでしょうね、アメリカでは。

 11曲目 Shadow People
 イントロは、消え入るようなピアノのホンキートンク。
 続いて強いギターリフが始まりますが、ぽちわかやさん曰く「これはジョン・レノンのI'm Losing Youでっせ」。
 ほんまや(笑)、なんてなぜか僕が似非関西弁を。
 ギターリフの感じ、入り方、全体的にほの暗いところ、ベースライン、そしてリズムなどなど、ジョンが入ってますね。
 トムはソロのWILDFLOWERSのOnly A Broken Heartにもジョンが入っていて、わざわざヴォーカルをダブルトラックで録音する凝りようで、単純な僕はこういうのはうれしい。
 おまけにこの曲は歌詞もジョンが入っている、と感じます。
 車で信号待ちをしていて隣りの人は何を考えているのだろう。
 誰か好きな人のことかもしれないし、誰かを憎んでいるかもしれない。
 そして、そう考えることで世の中が見えてくる、つまり「影の人間」は君自身でもある、というのが僕の解釈。
 先ほど歌詞が抽象的と書きましたが、これは逆に具体的なもので、誰もが信号待ちの時に、隣りの人は・・・と考えたことがあるでしょう。
 もしかして僕はトムの中にジョンを見ているのかもしれない。
 この曲の印象的なパッセージは、2番が終わってから間奏に入る前。
 ベースとキーボードだけが静かに残る、まさに「影」を感じさせます。
 最後にトムが"Shadow people, shadow land"と繰り返すところは、言葉の切れに説得力を強く感じます。
 そして、こんな世の中だから「別のプラン」が必要なのだ、と、アルバムはループで最初に戻る、ということなのかもしれない。

 と思ったら、曲が終わってからまた別の短いパッセージが始まる。
 曲といっていいかな、そういえばこの曲はアルバムの最後にするには、何かまだ続きがありそうな感じが強くてやや中途半端と感じたんだけど、このパッセージをつけることでアルバムとして完結するのが上手い。
 この部分をぽちわかやさんは「ポールの匂いが」と書いておられます。
 短いアコースティックの曲。
 そうか。
 このアルバムはトム達のABBEY ROADだったのか!
 というのはビートルバカの早合点に違いないけれど、でも最上のロックアルバムを聴かせてくれたのは確かです。
 ただ、もちろん、トム達には次があるに違いないですが。



 彼らの結束の固さと自信のほどは、ブックレットにも表れています。
 見開きに3曲の歌詞が並び、右端にその曲の録音日と参加メンバーが明記されています。
 普通、最後にメンバーと楽器を紹介して、親切なものであればどの曲で何くらいは記しますが、曲ごとにこうというのは少ない。

 ちなみに、最も古い録音は10曲目の2011年8月9日、逆に新しいのは9曲目の2014年1月24日です。
 そしてデータの通りであれば、すべて1日で録音を完了しています。
 それまでデモがあって完成したのがその日という意味か、それともほんとに1日で作ったかは不明ですが、1日で終わるのもバンドの結束を感じる部分です。
 ただ、ミュージシャンにはよくある、夜に録音した場合、始めた日と終えた日が違う可能性はありますが(笑)。

 このアルバムの魅力は、古いのに新しい、というよりも、古いものがあってこそ新しいものがあるといった感じなのでしょうね。
 伝統は伝統、でもそこに自分達らしさを表現することができた。
 ロックという音楽、ロックンロールが心から好きな人であれば、これには誰もが満足するに違いない、大傑作であると断言します。

 しかし、僕の悪い癖で、ここまでの作品を作り上げたトム達、次のアルバムはどうなるか、早くも楽しみで仕方なくなってきました。
 
 信頼の印、それがトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズです。



 今回はYou-Tubeから、静止画だけどオフィシャル音源のものを2曲。
 Forgotten ManとU Got Me High、アップテンポで明るめの2曲を選んでみました。