PURE HEROINE ロード | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20140127Lorde

 ◎PURE HEROINE
 ▼ピュア・ヒロイン
 ☆Lorde
 ★ロード
 released in 2013
 CD-0456 2014/1/27

 第58回グラミー賞授与式が、日本時間の本日、アメリカで2014年1月26日に行われました。
 今年の"Song of the Year"=「最優秀年間楽曲賞」は、ロードのRoyalsが受賞しました。
 
 そこで今回はロードのそのアルバムを取り上げます。

 Royalsは昨秋に「ベストヒットUSA」で1位を獲得、つまりビルボードNo.1に輝いたわけですが、いい曲だなと思い、12月にアルバムのCDを買い、それから毎日のように聴いています。
 これだけ気に入ったのだからいつか記事にするつもりでしたが、ちょうどグラミーの発表があるので今日まで上げるのを待っていました。
 なんて書くともう準備していたかのように思われるかもですが、そうではなく、今日書きました(笑)。

 ロードという人はもちろん初めてだから、ウィキペディアから紹介文を書き出します。



エラ・マリア・ラニ・イェリッチ=オコナー(Ella Maria Lani Yelich-O'Connor、1996年11月7日生)は、ロード(Lorde)の名で知られるニュージーランドのシンガーソングライター。
 13歳でユニバーサルミュージックと契約。
 2013年のデビューシングル「ロイヤルズ」(Royals)は、全米・全英のシングルチャートの首位に君臨した。
 影響を受けた作家はレイモンド・カーヴァー。



 僕が初めて見た時は、小林克也さんが「ニュージーランドの16歳の天才シンガーソングライター」と紹介していました。
 16歳って、僕は今年47歳だから30歳違い、ちょうど娘の世代ですね。
 毎週流れる曲を聴いて気に入ったのですが、でも、あまりにも若い人の音楽を聴いて受け入れられるだろうかと買うのをためらっていました。
 若い世代、特に男性にとって若い女性とは話が合わない、というのはよくあることですが、

 でも聴くと、やはり日常の会話と音楽は違う。
 まったく普通に受け入れられました、自分でも驚くほどに。
 一応断っておきますが、このロードについてはアイドル的に好きだというよりは、ほぼ純粋に音楽を聴いてみたくて買いました、念のため。

 輸入盤を買いましたが、日本のレコード会社が作った帯にあたるタタキ文句を書いたシールがビニールに貼られていたので、それも書き出してみます。
 なお、文字の大小はここでは無視します、悪しからず。



 16才の天才少女、デビュー! 
 ニュージーランドから届く、透きとおったファンタジー。
 ロード『ピュア・ヒロイン』
 「ダイアモンドだ、ゴージャス・ライフだって、そんな世間には踊らされないわ。私達はずっと強く大きくなってるの」と、16才の天才少女が歌う等身大のピュア・ソングが、全世界のティーンネイジャーの心をわしづかみ中!


 ほほう、Teenagerは「ティーンネイジャー」と書くのか、「ン」は要らないのではないか・・・
 なんて相変わらずそういうところに文句言ってますが、レコード会社のいい音楽だからぜひ売りたいという思いは伝わってきます。

 今朝の「めざましテレビ」では、グラミー賞授賞式の模様が話題になっていましたが、その中でレポーターを務める中川翔子が、誰に合いたいかと聞かれて「17歳にしてあの美しさそしてカリスマ性のロードに会いたい」と言っていました。
 中川翔子はティーネイジャーではないと思うけれど、でも僕からすれば若い女性で、日本でも聴いている女性は増えてきているのかなと思いました。
 余談ですが、中川翔子は人間としては好きです、生き物が大好きみたいだから。
 さらに余談で、もうひとりのレポーターの小牧ユカさんが懐かしかった。



 さて、僕が聴いた第一印象をかなり大づかみで書きます。

 「ピーター・ガブリエルを女性にして若くして歌に特化したような音楽」

 ううん、いまふたつくらい伝わりにくいでしょうか・・・

 あくまでも雰囲気ということで、普通に真っ直ぐなポップソングではなく、音はジャズっぽいわけではなく、でもリズムには凝っている、という感じでしょうか、そしてもちろん歌がいい。
 もうこれくらいの年代だと、誰それに直接影響を受けたとか、受けたとしてもその影響を受けた人はさらに先達から影響を受けているでしょうから、ピーターに影響を受けたというよりは、個性として近いものを感じたといったところです。
 或いは、ケイト・ブッシュを現実世界に引き戻した感じかな、ブックレットの写真を見てそう思いました。
 「不思議ちゃん」だけど、でも現実をしっかりと見据えている、そんなところか。

 真っ直ぐではないというのは、不思議な雰囲気と言い換えてもいいですが、レイモンド・カーヴァーに影響を受けているというのも納得できます(1冊しか読んだことがないですが)。   

 でも、聴き進めてゆくうちに、これはポップスの王道ではないか、と感じられるようになりました。
 完成度が高いのです。
 
 シンガーソングライターというと僕くらいの年代ならいまだに、ぎこちなくも自分らしさを表現したい、楽器はアコースティックギターかピアノ、というイメージから抜け出せない。
 しかしロードのこの音楽は、ぎこちなさみちなものはなく、音にも歌にも強さが感じられる。
 引用した帯の文章、Royalsの歌詞の一部の訳文でしょうけど、そこにも強くと書いてありますが、16才にしてこの強さと自身は天才と言われるゆえんだと。
 
 そして、妙に落ち着いていて、少ない音から多くのことが伝わってくる。
 若者の音楽だから明るく楽しく元気に、というのではなく、むしろ大人の響き。
 聴いていると、録音時に16才だったという思いは消えてなくなります。

 "Lorde"という名前は大胆不敵ですね。
 ジョージ・ハリスンのMy Sweet Lordの"lord"にロック特有のスペルを変える"e"をつけたものでしょうけど、16歳にして自ら支配者と名乗り、上から見下ろすのだから困ったものです。

 アルバムのタイトルもまた大胆。
 「ピュアなヒロイン」、ここは"pure"を敢えて訳さないで書いていますが、それだけではない。
 "heroine"は最後の"e"をとるとクスリの「ヘロイン」で、発音は同じ。
 そこにかけているのではない、純粋に言葉の意味としてつけたのでしょうけど、でも、ダブルミーニングというか、別のことを想起させるのはロック的な手法といっていい。
 
 そしてルックス、えっ、これで16才と僕は思った。
 貫禄があるというか、若くして世の中のすべてに通じているような、そしてだから近寄ると少々恐そう。
 ティーネイジャーの心をわしづかみというのは、僕はそういう年代ではないので分からないけれど、遊び友だちというよりは、そういう人になりたいという憧れが強いのかな。
 と想像しますが、ここはひとつ中川翔子に聞いてみたいものです。
 で、ルックスのことを言えば、僕は実は微妙に苦手なタイプかな、正直言えば。
 と書いたのは、そこに引かれることはないので、だから余計に音楽が好き、ということが伝わるかと思ってのことです。

 彼女の声は、けだるい雰囲気があるにはあるけれど、まだまだ若さを感じますね。
 歌がうまいという感じではなく、あくまでもポップスの表現としてうまくこなしているという感じ。
 でも、だから余計にポップスの王道と感じたのです。
 ロードの風貌や声はロック時代より少し前のポップスアイコンといった趣きで、若いのにどことなく懐かしさを感じる、そんな声だと僕は感じました。



 音楽面でいえば、大きな特徴が2つ。

 ひとつ、コーラスワークが素晴らしい。
 シングルヒット曲のRoyalsのサビの部分に顕著ですが、透明な声が幾重にも折り重なったかと思うと後追いになったり、センスが素晴らしい。
 ブックレットを見ると、彼女が多重録音をしているようで、他の人の名前が見当たりません。
 なお、曲はすべて彼女とJoel Littleという人が共作し、すべての楽器演奏はその人がこなしています。
 そのせいか演奏は薄くてバンドの音ではないのですが、彼女の声を活かすには逆にこれでいいと思います。
 
 もうひとつ、先述のようにリズムの感覚で、何とははっきりとは言えないけれどエスニックなリズムを自然に表していて、聴き手の体に伝わってきます。
 
 この2つの要素、コーラスワークとリズム感覚、センスの塊のような人です。
 小さい頃からいろんな音楽を熱心に聴いてきたことは想像に難くない。
 音楽と数学は若くして才能を発揮する人が出てくる、とよく言われますが、それにしてもここまでというのは、聞いてみて驚きました。



 1曲目Tennis Court
 キーボードの広がりがある音で始まってすぐに歌い始める。
 ミディアムスロウのしっとりとした感覚がある曲だけど、テニスコートというモチーフはやっぱり若いのかな。
 1曲目からパーカッションが効いている。

 2曲目400 Lux
 最初に入るバグパイプをキーボードで表したような厚みのある音を聴いてうちのマーサが吠えました。
 マーサは音楽で、例えばボブ・ディランが喋ったりするとよく吠えるのですが、犬にも不思議な響きに聴こえたのかもしれない。
 曲は1曲目と似た感じで、これが個性なのかな。
 この曲の高音部分の歌い方はコケティッシュなものを感じます。

 3曲目Royals
 3曲目もやはり同じ感覚、ミディアムスロウでリズムが強調されている。
 この曲は、ビルボードにおいてニュージーランド出身の単独のアーティストでは初めての1位獲得となりました。
 グループは確かクラウディド・ハウスのDon't Dream It's Overだったと思うけど。
 ともあれ、2013年の「歌」はこれ、となりました。
 
 4曲目Ribs
 イントロのキーボードとコーラスには教会音楽の影響が。
 やはりそこに行き着くのは今昔同じ。
 しかし歌が始まると少しテンポが速くなり、都会的な雰囲気に。

 5曲目Buzzcut Season
 冷たい響きの鐘の音のような音がずっと曲の背後に流れていて、1980年代UK勢の雰囲気を感じる。
 テンポは速いけど歌メロが切なくていい。

 6曲目Team
 アカペラで歌い始める、その声は猫のイメージ。
 これは曲もリズムもヒップホップを経た感覚で新しい。
 でも、サビの歌メロはやっぱりちょっと切なげ。 

 7曲目Glory And Gore
 タイトルを直訳すると「栄光と流血」
 高音で歌う一聴すると爽やかな響きだけど、若さとは爽やかだけではない凄惨な部分も持っている、ということかな。

 8曲目Still Sane
 そうなんです書き忘れていましたが、いかにも今の人だなと感じるのは、冷たさ、クールさ。
 どことなく寂し気だけど、現実は現実として受け止めていて、淡々としたものを感じますね。
 落ち着いていると書いたけど、今の若い人はそういう傾向があるのかもしれない。
 ところで、この曲のコーラスは特に冷え切った響き、それを聴いて、「ウルトラセブン」のガンダーとポール星人の話を思い出しました。
 雪の中で倒れるモロボシダンの前に、幻覚か現実か分からないポール星人が現れてメッセージを伝えるシーン・・・
 なんて、分からないかたは分からない話ですね、ごめんなさい。

 9曲目White Teeth Teens
 「白い歯の10代」、ライオン歯磨きのCMに使えそう(笑)。
 この曲はコーラスとメインヴォーカルが入れ替わりながらつながっていること、そしてダブルトラックで時にはコーラス時にはユニゾンと変わってゆくこと、素晴らしい。
 ヴォーカルアルバムといえばそうかもしれない。

 10曲目A World Alone
 このアルバムはいい意味でみな曲が似た感じの響きであり、10曲しかなくて短いのが聴きやすいところ。 
 12曲以上あったら疲れるかもしれないし、鮮度が保てないのではないか。
 そういう点もアルバムとしていいし、すぐにまた聴きたくなる。
 流れ的には9曲目が最後の曲っぽい雰囲気があって、これはアンコールという感じ、もうちょっと聴きたいと思ったところで1曲あるのがまたいい。
 曲の後半はコーラスも演奏もこの中では賑やかになるんだけど、最後、多分"let them talk"とひとこと言って急に終わる。
 これがいい、次を期待させる終わり方。
 充実したアルバムですが、これが16才だなんて、やっぱり、恐ろしいというか、たいしたものだと。



 ところで。
 今回からYou-Tubeの画像を貼り付けられるようになりました。
 Royalsを試しに上げましたので、ご興味がある方はそちらを聴いてみてください。

 今後はYou-Tubeも活用してゆくことを考えています。
 
 でも、アルバム記事はやはり、下手でも何でも、文章で書くことにはこだわってゆくつもりです。