LIVE BULLET ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド | 自然と音楽の森

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20140118BobSegerLive


◎LIVE BULLET

▼ライヴ・ブレット

☆Bob Seger & The Silver Bullet Band

★ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド

released in 1976

CD-0455 2014/1/18


 ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンドのライヴ盤。


 以前、彼らのこの次のライヴ盤を記事にしましたが、ボブ・シーガーはライヴ盤が特にいいですね。

 ライヴバンドとして評判がよかったのだからそれは当たり前のようで、その実、ライヴ盤にライヴの魅力をそのまま刻み込むのは難しい面もあるかと思います。

 スタジオで作っている部分があるということも、商業芸術として考えるなら僕は否定しないですが、ここではそれは置いておくとします。

 そもそものライヴ演奏が良ければ、ちょっとした「つぎはぎ」程度ではあまり大勢に影響はないと思うし。

 ともあれ、ボブ・シーガーの音楽はどちらかというと凝っていないシンプルなアレンジであり、バンド演奏にこだわったタイトな音楽づくりをしているのだから、彼らのライヴ盤がいいのは当然のことのように思えます。


 ボブ・シーガーは1945年生まれ。

 1969年、24歳の時にThe Bob Seger Systemとしてレコードデビュー。

 71年にBob Segerに変え、さらに76年にBob Seger & The Silver Bullet Bandと名乗るようになりました。 

 76年はこのライヴ盤が出た年ですが、同じ年のスタジオアルバムNIGHT MOVESよりもこちらが半年ほど先に出ている。

 つまりは、シルヴァー・ブレット・バンド名義では初めてのアルバムがこれというわけで、最初にライヴ盤を持ってきたところにもライヴバンドとしての誇りを感じます。


 このライヴ盤であらためて驚嘆したのは、わずか31歳にしてこの風格、アメリカロック界の「大将」といった趣き。

 僕は"System"のアルバムも聴いていますが、彼の音楽は最初から真っ直ぐでぶれていない。

 ボブ・シーガーの音楽は、アルバムごとに作風を違えて試行錯誤しながらたどり着いたというよりは、最初から理想とする音があってそこを目指して進んできたことが感じ取れます。


 ボブの声も、ちょっとハスキーでパワフル、31歳にして貫禄すら漂う上に、この音楽にはこれしかないという声。

 声は持って生まれた部分もあるだろうし、彼の場合は自分の声が自分の理想の音楽にはまっているという、努力以上のものを感じます。

 運、で片付けてはいけないし、もちろん声そのものは変わらなくても歌い方では努力をしたのでしょうけど、誰もがこのようにできるわけではないことも聴けば納得できるでしょう。


 つまり彼らのライヴ盤がいいのは、ボブ・シーガーの存在自体が魅力的であるから。

 曲はいいし、あとはバンドとの一体感さえ得られれば他にはもう何も要らない、だからそれは自然なものでしょう。

 その一体感が得られたと感じてバンド名も変えて勝負に出たのがこのライヴ盤。

 良くないはずがない。



 1曲目Nutbush City Limits

 客の歓声のフェイドインから始まりますが、録音されたのは"Cobo Hall"とブックレットなどに記されています。

 ボブ・シーガーが出てきていきなり、"Hey Detroit"と叫ぶので、デトロイトなのでしょう。

 ボブ・シーガーもデトロイト近郊の生まれであり、バンドのメンバーもみなミシガン州出身。

 地元での録音をライヴ盤にしたのも意欲を感じますね。

 シンプルなロックンロールだけど曲が途中から始まるように感じられるのが面白い。

 またそれが、ライヴ1曲目であるにも関わらず、前からつながっているという姿勢を感じられるのがいい。

 曲名のニュアンスは、僕は残念ながらアメリカ人ではないのでいまひとつ分からないのですが、でもアメリカであることは強く意識します。


 2曲目Travelin' Man

 ボブ・シーガは吟遊詩人的な部分が強いですね。

 そこが彼の立ち位置をさらに独自のものにしている。

 静かに始まり感傷的になりかけるけれど、途中で強烈なシャウトが入る、これが板にはまっている。 


 3曲目Beautiful Loser

 ボブ・シーガーはまた、強くて相手を打ち負かす、でも敗者への気配りも忘れない、人情味を感じますね。

 そういう点ではどうして日本で人気が出ないのだろうと思うけれど、でも彼の風貌を見れば分かりますかね。

 僕は男としてかっこいいと思いますが、でも、特に日本の女性へのアピールという点では。

 強さと優しさを兼ね備えた曲。


 4曲目Jody Girl

 先ほどちらと書きましたが、ボブ・シーガーはいい曲を書く。

 雰囲気だけに流されない、ほんとうにいい旋律を持った曲が多い。

 というところも日本人には受けそうなものなんだけど、やはりいろいろな壁があるようで。

 切ない曲だけど、切なさはほどほどに押し殺す強がりもまた男らしさ。


 5曲目I've Been Working

 ヴァン・モリソンのカヴァーというのがまたうれしい。

 1970年のHIS BAND AND THE STREET CHOIRからの曲ですが、その記事はこちら です。

 ボブは1972年にアルバムで録音した旨を話していますが、オリジナルは70年だからすぐにカヴァーしたわけで、ボブの中にヴァン・モリソンのような曲を書きたいという思いもあったのでしょう。

 それにしてもこれはボブのイメージに合いすぎ。

 例の♪うまん うまん うまん うまんと8回繰り返すところの熱さオリジナル以上。

 チャカチャカ鳴るギターのカッティングもいい。


 6曲目Tunr The Page

 こちらは逆に90年代にメタリカがGARAGE INC.でカヴァー。

 当時そのアルバムについてのジェイムス・ヘットフィールドのインタビューをテレビで見ましたが、ジェイムスはボブ・シーガー自体は特に好きでもないけれど、内向的な彼の胸にこのは迫ってくるものがあった、という話をしていたかと記憶しています。

 基本的にはセンチメンタルでメランコリックな曲だけど、それをやり過ぎないのがボブのいいところ。

 これがソウル歌手が歌おうものなら、立ち直れないくらいに崩れ落ちそう。

 まあ、それはそれで感動するのかもしれないけれど、そこが音楽の面白さでもあります。

 "All the same old cliches"と歌う部分の「クリシェ」というのが妙に印象的。

 ここ2曲は他のアーティストでも知られた曲が並んで、前半の盛り上がりといった趣き。


 7曲目U.M.C.

 "Oh shuffle!"と叫んでシャッフルビートが始まって歌い始めるのがライヴならではのリアルなカッコよさ。

 スライドギターがヴォーカルにつかず離れずいい感じ。

 なお、U.M.C.とは"Upper Middle Class"のことで、労働者の視点からそれらの人々を風刺しているようです。


 8曲目Bo Didley

 名前がそのままリズムになってしまったボ・ディドリーのカヴァー。

 ここではいかにもライヴらしく、後半は同じボ・ディドリーのWho Do You Love?に変えて歌っていますが、曲名にはそれは記されていません。

 スウィングする感覚がたまらない、ライヴに映える曲。

 ちなみにボ・ディドリーのリズムで有名な曲といえば、ローリング・ストーンズが歌うNot Fade Away、ビリー・ジョエルのDon't Ask Me Why、ジョージ・マイケルのFaithといったところでしょうか。 

 それと、まだ買ったばかりのブルース・スプリングスティーンの新譜HIGH HOPESの1曲目表題曲もボ・ディドリーのリズムでしたが、こちらのアルバムは近いうちに記事にします。


 9曲目Ramblin' Gamblin' Man

 このライヴ盤はLPでは2枚組、ここから2枚目に移ります。

 これ、もうかれこれ昨年10月からずっと25枚連装CDプレイヤーに入りっ放しで、毎日ではないけれど週に3、4回は聴き続けています。

 なぜこれを聴き始めたかというと、サミー・ヘイガー&フレンズの昨年の新譜でサミーがこれをカヴァーしていたから。

 ではなぜライヴ盤かというと、ベスト盤には入っているけれど、この曲のオリジナルが入ったスタジオアルバムは持っていないのでこれにしました。

 正解でしたね、このライヴ盤はもはや僕の基本となっている感があります。

 サミーでも印象的だったタイトルを歌う部分のボブとバックのコーラスの掛け合いが気持ちいい。

 そしてこの真っ直ぐさがやっぱりいいですね。

 

 10曲目Heavy Music

 ベースが前に出てくる、だから「重たい音楽」なのか。

 僕は以前から、ロックという音楽は基本はなにがしかの重たさがあるものだと言ってきていますが、この曲がそれを証明しているように思います。

 客に向かって話しかける時もやはりMichiganと言っている、よっぽどミシガンが好きなんだな。

 そういえばボブ・シーガーのFacebookで、カレッジ・フットボールでミシガン州立大学がローズボウル(日本でいえば甲子園のようなもの)に出ることを祝した記事が上がっていたっけ。

 それはともかく、途中で他のメンバーが歌ったり(ソウルフルな声の人)客もタイトルの言葉に呼応しているように、バンドと客席との一体感も伝わってくる演奏。

 

 11曲目Katmandu

 まるで壁が崩れ落ちたかのように怒涛の勢いで始まってしまうこの曲。

 ♪かっかっかっかっかっか かとまんどぅ~ と声を軋ませて歌うのがすごい。

 なぜカトマンズなのか、荒廃したアメリカから見るとそこは理想郷である、と歌っているのか。

 もしかして、ヒッピーの指南書になったという『チベット死者の書』のことが頭にあるのかもしれない、理想は抱いたけどついに到達できなかった、と(カトマンズはネパールだけど)。

 ただ、本来の英語表記はKathmandu、なぜか"h"が抜けています、わざとかな。

 それにしてもカトマンズでこれだけ盛り上がりますか!


 12曲目Lookin' Back

 ミディアムテンポで、Aメロの旋律が裏に入りながらうねうねと進み、サビが歌いやすいと、知らなかった曲ではこれがいちばん気に入りました。

 そのサビで「あまりに多くの人が過去を振り返り過ぎている」と歌っていて、そうかボブ・シーガーは基本は前に前に進みたい人であり、そういう風潮が気に入らなかったのかもしれない。

 でも、僕は思い出を大切にしたい男だから・・・

 まあ別に、思い出は思い出として大切にしろと言いたいのかもしれない、そうであるならやはりこの人は信頼できます。 

 それはともかく、ボブ・シーガーはちょっとセンチメンタル、過度ではない、そこが好き。


 13曲目Get Out Of Denver

 デンバーを去る、か、今そんなこと言われるとどうしてもNFLのことを話さないわけにはゆかないでしょ(笑)。

 いよいよ日本時間月曜日未明、デンバー・ブロンコス対ニューイングランド・ペイトリオッツのAFC決勝が行われますが、デンバーで行われるので、勝っても負けても今年はこの曲はペイトリオッツのことを歌っている、ということになりますね(笑)。

 それはともかく、まるでお経のようにまくしたてる、ラップじゃないけど喋りのようなスピード感があるロックンロール。


 14曲目Let It Rock

 前の曲の後で終わりそうな雰囲気でしたが、アンコールかな、また出てきて「もっとロックンロールしたいか!」とボブが叫んで始まったのがチャック・ベリーの曲。

 最後までひたすら真っ直ぐな人だった。

 曲の途中でボブが"Three times"と呼びかけた後、「ジャン ジャン ジャン」と決めのフレーズが3回入るのですが、ライヴ盤を聴くとスタジオにはないこうしたやり取りがリアルに刻まれているのがわくわくしてきますね。

 最後にメンバーを紹介しますが、みんなミシガン出身、仲間同士の結束が硬いバンドであることが分かります。

 聴き応えがある素晴らしいライヴ盤が終わりました。


 

 ボブ・シーガーがそこまでミシガン州やデトロイトにこだわるというか大好きなのは、彼はバイクや車が大好きみたいで、地元が「モーターシティ」であることに誇りを持っているのでしょうね。


 そのデトロイト市は昨年財政破綻しました。

 たまたま今朝のNHKでデトロイトを音楽で盛り上げようという話題をやっていて、話の中心は「モーター・タウン」つまりモータウン、かかった曲もモータウンの曲ばかりでしたが、それでも地上波で洋楽が話題になるとうれしい人間だからじっと見ていました。

 デトロイト市は、人口が最盛期の1/3にまで減っているそうで、僕が中学時代には百万都市として覚えた記憶があるのですが、今は70万を割り込んでいる模様。


 そして、この話は避けて通れない(笑)、NFLデトロイト・ライオンズ。

 今年は前半は調子がよく、同地区ライバルたち、グリーンベイ・パッカーズは途中からエースQBが離脱し苦境に陥り、シカゴ・ベアーズは調子がいいと言える時期がないまま進み、ミネソタ・ヴァイキングスはQBを固定できずに大負けして苦しんでいて、地区優勝のチャンスでしたが、後半6試合で5敗するというまさかの大失速で負け越して優勝を逃しました。

 デトロイト市がそのような事態に陥ったのだから、ここは買って元気づけてほしかった。

 世の中にはそういう流れもあるものだと思っていたのですが、流れよりも実力のほうが上回りましたね。

 ボブ・シーガーも悲しんでいることでしょう。

 ちなみに、ボブがテーマ曲Shakedownを歌った映画『ビバリーヒルズ・コップ2』では、エディ・マーフィーがデトロイト・ライオンズのスタジアムジャンパーを着ていたような記憶があります。


 結局はNFLの話がしたかったのかい(笑)。

 まあ、NFLもそろそろシーズンが終わるので、もう少しお付き合いください。

 

 ボブ・シーガーこのライヴ盤について最後にまとめると、演奏がタイトでハッタリがなく、前期のベスト盤として聴くこともできる優れたライヴ盤ですね。