◎DEEP PURPLE IN ROCK
▼イン・ロック
☆Deep Purple
★ディープ・パープル
released in 1971
CD-0442 2013/9/29
先ず初めに、僕は、ディープ・パープルは普通に好きです。
思い入れがある、というほどではないのですが、でも時々とっても聴きたくなるアルバムが複数枚ある、という存在。
今回取り上げる通称「イン・ロック」はしかし、僕が買ったCDの最初の30枚に入るほど早くに買って聴いていたのですが、一方で、レッド・ツェッペリンはその前にLP2枚を買っていた、というのが、僕の若い頃の気持ちのあり様でした。
まあいずれにせよこのアルバムは大好きですが。
浪人生も終わりの頃、CDを買うようになった10枚目かそこらでMACHINE HEADを買い、非常によかったので、大学生になって最初の夏休みに帰省した際にこれを買いました。
買ったのはタワーレコード札幌店の最初の店、五番街ビルの2階。
その後すぐにFIREBALLを買ったように、当時の僕にはディープ・パープルの波が来ていました。
そうそう余談、FIREBALLのCDは家のCDプレイヤーで再生すると1曲目の途中から音が進まなくなりずっと回転したままで聴けなかった。
不良品ということで店に持って行くと、店のCDプレイヤーでは
ちゃんとかかったのですが、事情を話すと新品と交換してくれました。
それは家でもかかりましたが、記念すべき(!?)僕の初めてのCD不良品がそれで、今でもFIREBALLを見るとそれを思い出します。
さて、2枚目に買うのにこれを選んだのは、名盤だとの情報を得てはいましたが、それ以上にジャケットに引かれたから。
アメリカのサウスダコタ州にあるラシュモア山に刻まれた、アメリカの大統領の石像を模倣したものですね。
実際は左からワシントン、ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、リンカーンの4人ですが、パープルは5人組でひとり増えていて、位置的には右端のイアン・ペイスが増えた部分。
ディープ・パープルはそれまでクラシック的な音楽をやっていたのが、ヴォーカルにイアン・ギランを迎えて心機一転、ロックをやってみた、という意気込みが非常に単純に(いい意味で)現れていますね。
オリジナリティがないといえばそれまでだけど、ロックのアルバムのアートワークとしてきわめて印象的なもののひとつには違いない。
パープルは、世代的にはそれほど変わらないですが、「1968年ブルーズロック大爆発の年」には乗り遅れた口でした。
それまでは、前述のようにクラシックの要素を取り入れた「アートロック」と呼ばれるプログレっぽいことをやっていた。
しかし、レッド・ツェッペリンの成功に大きな刺激を受けたリッチー・ブラックモアの主導でハードロックに転向。
これが大成功、大ヒット、以降は、ディープ・パープルといえばハードロックの代名詞のひとつに挙げられるほどになりました。
それまでのパープルは、アメリカでHushが大ヒットしたものの、本国イギリスでは一部玄人受けするバンドであったらしく、そうか、このジャケットはアメリカでは受けていることも表したかったんだ。
このCDを買って聴いて先ず驚いたのが、「うっ、音質が悪い・・・」
ふた時代前のテレコを使っていたのではないかというくらいに音がざりざりでくぐもった響き。
いまだに、僕が普通に聴くビートルズ以降のアルバムで、これより音質が悪いものには出会ったことがありません。
後にこれより前のパープルを聴いたけど、音質は別に悪くない。
もしかしてロックっぽい荒々しさを出すのに意図的にそうなのか、と思わなくもないけれど、それにしてはやり過ぎじゃないか。
最初に買ったCDは最初に出たものでまだCDの技術が未熟だったのか、とも思うけれど、実際は後にリマスター盤を聴いても、やっぱり悪い。
まあでも、内容の素晴らしさでそれがまったく気にならない、とまでは言い切れないけれど、小さな汚点くらいのもので済んではいますね。
むしろ、不思議なものでこのアルバムはこの音で聴くからこそ意味あるし、楽しみともいえるようになってしまいました。
音楽的にいえば、ハードロックという音楽の教科書的なもの。
ギターの音は全体の音質と相まってまさにハードロックだし、プログレの要素は感じられるけれど行き過ぎていないし、かといって冒険的要素はたくさん織り込まれている。
ある面、レッド・ツェッペリンよりハードロック然としていると感じるのは、ブルーズの影響が薄まっているからでしょう。
ブルージーだけどブルーズではない、ブリティッシュハードだけど、ブリティッシュブルーズではない、といった音。
今のハードロックやヘヴィメタルだってブルーズの影響を受けた音楽の末裔だけど、本人たちがブルーズを意識していないところがブルーズロックではない、でもブルージーな音楽たらしめているのだと。
ただ、ホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァデイルに僕はブルーズ的なものを感じていて、もっとブルーズっぽいことをやってほしいんだけど、本人はあくまでもホワイトスネイクにこだわりたいみたいで、そこがなんというか・・・、という感じです。
だから、ディープ・パープルが1968年「ブルーズロック大爆発の年」に乗り遅れたのは、むしろよかったのでしょう。
ブルーズから離れてゆくことに挑んで成功したハードロックらしい音がここにあります。
1曲目Speed King
Highway Starの前触れとなったであろうロックンロール。
1曲目としてつかみは完璧だけど、でも、僕が最初に買ったCDはアメリカWarner Bros.の盤で、最初のオルガンによるイントロがなく、いきなりドラムスとギターで始まるテイクとなっています。
オリジナルはオルガンのがあるほうだと思うのですが、僕は最初に聴いたこのオルガンがないほうが断然好きです。
だって、「スピード王」だから、ドン ジャージャンと始まってほしい。
オルガンがあるのは、「スピード王」はスピードだけが売りじゃないという深い面を見せているといわれればそうかもしれないけれど。
僕がしかし感銘を受けたのはその歌詞。
1番はリトル・リチャード讃歌となっていて、Good Golly Miss Molly、Tutti Fruttiと出てきてロックンロールへのオマージュだと分かる。
しかも2番、ジョン・レノンがROCK AND ROLLで歌っていたRip It Upの歌詞をそのまま引用していて、僕は最初に聴いてただ単にかっこいい以上に気持ちがすぐに入り込みました。
当時はまだイアン・ギランがリトル・リチャードのLucilleをステージの持ち歌としていることは知らなかったのですが、そうかハードロックといってもやっぱりロックンロールなんだ、と分かりなんだかほっとしたものでした。
というのも、いつも言うHR/HMにはまってしまった悪友のせいで、HR/HMは「普通のロック」とは別物という思い込みがあったのです。
今から思えばバカみたいですが、二十歳の頃はまだまだ頭が柔らかく、いろんな影響を受けてしまっていたのでした。
ともあれ、ジョン・レノンの記事でも書いたけれど、ジョンはこの曲を聴いて、Rip It Upを知っていて大好きなやつが俺以外にもいるんだと心の中でメラメラと燃えるものがあって、自分でもカヴァーしたのではないかな、と(笑)。
そういう音楽つながりは楽しい、音楽を聴く醍醐味でもありますね。
もう20年も前、王様が日本語に「直訳」して歌っていましたが、2番の「米を食え、豆つまめ」というのが笑えた。
ジャケットがそのままこれのパクリでしたね、パクリのパクリ。
もうひとつ個人的な思い出があって、これを買った夏休み、この曲をギターで耳コピーして弾いて遊んでいたこと。
今はできない、若い頃はいい面でも頭が柔らかかったんだな、と。
特に、歌の最後の"see me fly"のバックに入るギターがいい。
最後のほうでイアン・ギランが笑うのがかっこいいですが、バンドでコピーした人はみんな同じように笑ったのかな(笑)。
ともあれ、パープルには強い思い入れがないと書きましたが、この曲はなんだかんだで思い入れが多いことが分かりました(笑)。
2曲目Bloodsucker
ブルージーなギターリフに乗ってイアン・ギランがまるで攻め立てられるように、焦ったように歌うスリリングな曲。
「血をすする奴」というタイトルは、ハードロックを通り越してヘヴィメタルにつながってゆく、そういう点でもパープルは、そしてこのアルバムには大きな意味があるのでしょう。
まあ、本人達は別に自分達がヘヴィメタルとは思いもしないでしょうけど。
この曲も勢いでギターリフを弾いて遊んでました(笑)。
3曲目Child In Time
英国のHRやHMのバンドには必ずといっていいほど、長尺ものの大作がありますが、これはその先駆けであり礎ともいえる曲。
一応書いておくと、「天国への階段」よりも1年早い曲。
プログレっぽいことをやってきたことがハードロックという枠の中で見事に昇華していますね。
最初に聴いた時、パープルってこんなにすごいんだといたく感動したのを覚えています。
あ、別に見下していたわけではなく、誰それと比べてとかそういうのでもなく、ただ単純に音楽だけを聴いてすごいと。
しかも歌詞は戦争に題をとっていて、深層心理をつく歌詞がいい。
やっぱり、読んで歌って考えさせられる歌詞の曲が好き。
"Waiting for the ricochet"というくだりがあって、この"ricochet"、「跳弾」という意味、石でやる水切りのことですが、デヴィッド・ボウイのLET'S DANCEにそのものの曲があり、T.レックスにもSpaceball Ricochetという曲があります。
ボウイは当時何かで聴き、T.レックスはちょうどこの少し後にそれが入ったTHE SLIDERを買ってよく聴いていたのですが、グラムロック系をイメージする単語と思い込んでしまい、イアン・ギランが歌うのがなんだか妙に感じました。
その直後のロジャー・グローヴァーのベースラインが好き。
そこに被さる幽霊のような声がまたいい。
途中でボレロになるのが劇的に素晴らしい。
さらにはテンポが上がってリッチーのギターショーが始まる。
その最後でギターとオルガンの音がシンクロするのは、オルガンってこんなに攻撃的な楽器なんだって驚きもしました。
当時の僕はどちらかというとアンチテクニック主義者だったんだけど、やっぱり、上手い人たちの演奏は素晴らしいと思い直しました。
曲想としてはアイアン・メイデンのFear Or The Darkにつながるし、タイトルもいかにもメタル的イディオム。
最後に狂想曲のように盛り上がって爆発するように終わるのもそう。
パープルの影響力のすごさがあらためて分かりますね。
ハードロック史上に燦然と輝く名曲。
4曲目Flight Of The Rat
このアルバムを買って聴いていたのは夏でしたが、夏といえば「新潮文庫の100冊」。
僕は浪人生の頃までは文学作品は読んだことがなくて、大学1年になって文学を文庫で読むことに目覚めて、開高健の『パニック/裸の王様』もその時に読みました。
この「パニック」という話は、もう記憶があやふやですが、新潟県かどこかでネズミが大発生して街に押し寄せるという話で、その文章をシーンとして頭の中に思い浮かべた時、ふとこの曲がBGMとして頭の中に流れてきました。
ただ、恥ずかしい話を暴露すると、僕はこの曲のタイトルを最初は"Fright" Of The Ratつまり「ネズミの恐怖」と覚えていて、だから「パニック」を読んで頭に思い浮かべたようで、後で"Flight"と勘違いしていたことを知りました。
一応自己弁護すると、この曲は歌詞の中に曲名が出てこないので"l"と"r"を取り違えも意識の中にはなかったのでした・・・
それはともかく、一度結びついてしまったものはもう離れない(笑)。
爾来、この曲は開高健と結びついて離れなくなりました。
でも、押し寄せてくる、恐いけれどどこかユーモアがある、という鼠たちの姿には、やっぱり重なるものがあります。
もし誰かが「パニック」を映像化するなら、これをぜひテーマ曲に!
この曲も7分以上ある長尺ものですが、前半の歌の部分は明るくて軽いギターリフにのった素軽いロックンロールで、前の曲とはスタイルが違うのがアルバムに奥行きを感じるところ。
5曲目Into The Fire
ざっくりとしつつ重たいギターリフに乗ったマーチ風の曲。
イアン・ギランが"Fire"と声を荒らげて叫ぶのが印象的だけど、「ファイアー」の雄叫びもパープルが走りなのかな。
つくづく、影響力の大きさを感じるアルバム。
6曲目Living Wreck
少し暗くて切迫感がある曲。
「生きている壊れもの」というのはクスリを連想するけれど、パープルは、実際はともかくイメージとしてはクスリのイメージが割と薄いと感じていたので、そんなことはないやっぱりロックだと思ったものです。
このアルバムのイアン・ギランのヴォーカルはソウルフルな響き。
もちろん、マナーとしてのソウル音楽のものとは違うけれど。
7曲目Hard Lovin' Man
個人的な感想を言わせてもらえば(そもそもそればかりですが・・・)、このアルバムでひとつだけ惜しいのは、最後のこの曲が、あまりひねりのない「普通の」曲に聴こえることです。
嫌いじゃないしいい曲だと思うけれど、ここまで6曲で、アイディアが豊かで想像力に優れた曲を並べてきただけに、最後は意外なほどあっさり終わってしまうと感じないでもない。
逆にいえば、このアルバムの6曲は僕は異様なほど好きなのかも。
ただ、彼らは再結成第2弾のアルバムで、Hard Lovin' Womanという曲を作っているように、本人達は気に入っているのかな。
まあ、ひねりがないというのは、逆にいえばストレートなハードロックというひとつの雛型を作ったともいえるのでしょう。
この曲も7分以上あるけれど、長いとは感じないのは、彼らの創作能力が高かったのでしょうね。
今は30周年記念盤が出回っており、ボーナストラックが13曲入っていますが、その中にはBlack Nightのシングルヴァージョンもあります。
音はリマスターですが、まあ、前述の通り。
そしてそのSpeed Kngはオルガンのイントロ付です。
このアルバムは「イン・ロック」と呼ばれていて僕も通常はそう呼んでいるけれど、実際は
DEEP PURPLE IN ROCKで意味を成す、はず。
キンクスの「ヴィレッジ・グリーン」だって、本当はTHE KINKS ARE THE VILLAGE GREEN...ですから。
まあでも、それはたいした問題ではない。
ディープ・パープルという名前は小学生の頃から知っていて、レッド・ツェッペリンよりもずっと早くから知っていたのですが、僕が高校時代に再結成した際にMTV番組で初めて音を聴くまでは、もっとソフトな雰囲気のある音楽だと思っていました。
僕が中学生の頃、まだ洋楽を聴く前ですが、日本人の誰かが「ディープ・パープル」というしっとりとした歌をヒットさせていたのが余計にその思い込みに拍車をかたのだと。
でも、実際に聴くと、まさにハードロックの中のハードロック。
このアルバムは、ハードロックというダイアモンドの原石ですが、原石でありながらずっと輝き続けているという奇跡のような1枚。
その時代にしか生まれ得なかった、時代との幸せな関係を築き、後の時代にも影響を与えた名盤の中の名盤といえるでしょう。