◎BUFFALO SPRINGFIELD
▼バッファロー・スプリングフィールド
☆Buffalo Springfield
★バッファロー・スプリングフィールド
released in 1966/67
CD-0414 2013/6/13
バッファロー・スプリングフィールドの1枚目。
もう夏といえる陽気になったけれどスプリングフィールドです(笑)。
前回のオジー・オズボーンが曲を取り上げていたので、続けて今回はこの記事を。
バッファロー・スプリングフィールドと僕との最初の接点は、レッド・ツェッペリンでした。
Zepの3枚目はB面がフォーク・トラッド調の曲で固められていて、リリース当時は賛否両論あったという話ですが、それについて、当時ジミー・ペイジこんなことを言ったと本で読みました。
「僕らはバッファロー・スプリングフィールドやペンタングルのような音楽も好きなんだ」
僕はそこで名前を知りました。
大学生になり、CDの時代になって、ワーナーから、過去の名盤がFOREVER YOUNGと題したシリーズで、当時としては安い1800円の廉価盤で出た中に彼らの2枚目BUFFALO SPRINGFIELD AGAINがあったので買いました。
いつも言いますが、CDの時代の初期の頃は、過去のカタログがとっても魅力的な「新商品」として映っていて、僕と名盤との距離がいっきに近づいたのがその頃でした。
ただ、AGAINを聴いたところ、ちょっと「おかしな響き」の音楽だなぁぁぁと、すぐに気に入ったわけでもなく、次を聴くのに数年を要しました。
ニール・ヤングは既に大好きになっていましたが。
次に買った彼らのCDが今回のこのアルバム。
LPのモノーラル盤とステレオ盤の両方の音源が収録され、輸入盤に日本で解説をつけた輸入盤国内仕様のものを買いました。
これ、少し古臭い響きだけどいい曲が多いな、と、最初の印象。
少しして、今はもうなくなってしまった大好きだった中古レコード店で彼らのボックスセットを見つけて買いました。
そのDisc4が、1枚目と2枚目のステレオ盤を1枚に収めた便利なディスクで、それで1枚目と2枚目を通しで聴いてだんだんと心の距離が近づき、1枚目はもちろん、最初は「おかしな響き」と感じていた2枚目も大好きになりました。
今回は1枚目に絞って話します。
その後は年に数回引っぱり出して聴き、それなり以上にいいかなという感じでしたが、2年前の秋に聴くと、突然、視界が開けました。
曲の覚えが悪い僕ですが、久しぶりに聴くと、曲をほぼ覚えていたのです。
もちろん断続的に聴いてきているのだから当たり前でしょうけど、その時は、心の中にすっぽり入ってきたのを感じました。
視界が開けたのは、次の2点を強く意識したからだと自己分析しました。
ひとつ、ビートルズから始まった人間としては、ヴォーカルと作曲者が2人以上いるバンドが大好きなこと。
ニール・ヤングと、当時はスティーヴと名乗っていたスティーヴン・スティルスというアメリカンロックの礎を築いた2大巨頭がいるバンド。
彼らの音楽は、歌でも演奏でも、火花を散らしながら、ライバルとして、同僚として切磋琢磨していた様子が窺えます。
曲ごとに触れますが、スリリングかつ微笑ましい2人のバトルは、ともすれば崩壊しそうな危うさを逆手に取った力強さがあり、しかもそれを大きなユーモアで包んでしまうおおらかさもあって、ロックという音楽の拡大期のエネルギーが感じられます。
ただ、僕はニール・ヤングを聴いてから彼らを聴いたので、最初はニールとスティーヴンが対等くらいだと思っていたのが、実際は、スティーヴンが先行しニールは追いつこうと必死だったという図式だったことを後で知りました。
それが分かると、彼らの音楽はまた違って響いてきて、ニール・ヤングも若かったんだなって思います。
ところで、スティーヴン・スティルスといえば、モンキーズのオーディションを受けて落ちた話は今では知られたところとなっています。
歴史のif、もしスティーヴンがモンキーズに入っていれば、ニールとのスリリングなせめぎ合いもなかっただろうし、アメリカのロックもまた違う形で進んでいた、或いは、進まなかったかもしれないと思うと興味深いですね。
スティーヴンが落ちたのは、どちらかというと野性味があるごっついルックスのせいかな・・・そうに違いない・・・ロック好き人間としては、そのルックスでよかった。
バンドにはもうひとりのシンガーソングライターであるリッチー・フューリーがいます、楽器はギター担当。
今回紹介する1stでは曲は書いていないのですが、彼はこのバンド解散後にポコで大活躍するように、カントリーっぽい要素が持ち味であり、それがバンド内での役割分担だったのでしょう。
リッチーのヴォーカルには爽やかさやナイーヴさがあって、スティーヴンとニールの男臭い2人には出せない味があり、そこがこのバンドをさらに面白くしている要素でしょう。
他、ベースはブルース・パーマー、よく動くベースは僕は好きですね。
ドラムスがデューイ・マーティン、ドラムスは僕はよく分からないけど軽くて速い感じかな。
残念ながらこの2人は既に物故者です。
ひとつめが長くなりましたが、もうひとつの要素。
歌好きの僕としては、歌心がある曲が多いのが好き。
これについてはくどくど説明も要らない、ほんと、口ずさむのにいい曲ばかり。
しかも彼らは、歌が良いだけではなく、演奏も面白くて聴きどころが多いのがさらに楽しくロックらしいところです。
この記事では、それぞれの曲のどこが好きかを強調しながら書いてゆきたいと思います。
ところで、このデビューアルバムには、4つのヴァージョンのLPが存在していたそうです。
Baby Don't Scold Meが入ったモノーラル盤とステレオ盤、後に編集され出直した、その曲の代わりにFor What It's Worthが入ったモノーラル盤とステレオ盤の計4種類。
リリース年が1967/68となっているのはそのためです。
僕が聴いているCDは、前半には前者モノーラルバージョン、後半には後者ステレオバージョンが収められていて、収録曲の他に曲順も違いますが、今回の記事は、そのCDの後半のステレオバージョンを聴きながら進めます。
だから、記事では1曲目と書いている曲はCDのトラック番号でいえば13、以降、本来のトラック番号はその数字に12を足したものとなっていますが、紛らわしくなるので通常通り1曲目、2曲目・・・と記してゆきます。
また今回は作曲者を曲名の下の左側の()で表記し、さらにはメインのヴォーカルを右側の()で示します。
なお、ヴォーカルのところはステーヴンをSteveと書きますが、このCDにそう書いてあるのでそうしたものです。
1曲目For What It's Worth
(Stephen Stills) (Steve)
いきなり60年代の名曲が現れます。
温泉上がりにゆったりとしている気分のような曲、サビのこのくだりはこうです。
"Stop, what's that sound, everybody looks what's going down"
あのサウンドは何だ、というのは、自分たちが作り出す新しい音楽を表現したのではないかなと僕は思っています。
ボックスセットにあったブックレットに当時のポスターの写真があるのですが、そこにも「明日のサウンド」と書いてあり、彼らの自信のほどが窺えます。
そのサビの分厚くかつ爽やかなコーラスは今でも新鮮。
3コーラス目の始めの部分のニールの中途半端なすっきりとしない音のチョーキングが妙に印象に残ります。
最後にようやくニールのギターが派手に目立ってくるけど、さっとフェイドアウトしてしまうのはもったいない(笑)。
まさかスティーヴンの意地悪じゃないとは思うけど・・・
オジー・オスボーンの記事でも書きましたが、ロバート・プラントが、Zep加入以前の1967年に録音していたこの曲のデモ音源が彼のベスト盤に収録されています。
ラッシュもカバーしていますが、英国にもカナダにも影響が強い曲だったのでしょうね。
また、映画『フォレスト・ガンプ』のサントラにも収録されていますが、申し訳ない、映画ではどこで使われていたのか(使われなかったのか)、記憶にありません。
ロック界に時々ある、奇跡のような1曲でしょう。
2曲目Go And Say Goodbye
(Stephen Stills) (Richie & Steve)
爽やかにお別れするカントリータッチの軽やかな曲。
リズムが前のめりに聞こえるのは焦っているからかな。
イントロのギターリフはニールがなんだか適当に弾いているようで、祭囃子みたいでもあり、そこもなんとなく焦っていると感じさせる部分。
リッチーの爽やかヴォーカルがないと生きない、いかにも青春の断片といった響き。
3曲目Sit Down I Think I Love You
(Stephen Stills) (Richie & Steve)
ミドルテンポの曲、アルバムはまだ落ち着かない雰囲気だなぁ。
歌詞の中で「僕は自暴自棄になっている」といいつつ、「(今は)座って君が好きだと考える」というのは、スティーヴンも結構素直じゃない、考えすぎる人なのか。
間奏で出てくるニールの「のこぎりギター」が強烈。
2曲続けてリッチーとスティーヴンが歌っていますが、2人で歌うとリッチーのほうが声がよく聞こえてきて、この辺がこのバンドの奥深さだと思います。
4曲目Nowadays Clancy Can't Even Sing
(Neil Young) (Richie with Steve & Neil)
ようやくニールの曲が出てきました。
曲の前半を爽やかなリッチーが歌って、途中からドスを効かせた声の男臭い2人が歌う。
そこがワルツになり、刻んだギターが鳴るのが効果的。
陰りや湿り気がある、これまでとは少し毛色が違う曲。
5曲目Hot Dusty Roads
(Stephen Stills) (Steve with Richie)
ミドルテンポであまりひねりがないまっすぐな曲だけど、AからBへの流れがすっと進み、曲作りの上手さを感じます。
スティーヴンらしい曲なのだと思いますが、カントリーのようでカントリーじゃない微妙な手触りが彼の持ち味かと。
6曲目Everybody's Wrong
(Stephen Stills) (Richie with Steve & Neil)
彼らの2ndはサイケやフラワー・ムーヴメントの影響が色濃く出たアルバムですが、この1作目ではまだ普通のアメリカンロックの大元的な響きに留まっています。
しかしこの曲にはサイケの前兆を強く感じる。
演奏が全体的に浮ついている中でドラムスが目立ちます。
7曲目Flying On The Ground Is Wrong
(Neil Young) (Richie with Steve & Neil)
「地面で飛ぶのは間違っている」
そりゃそうだ、でもこのユーモアがたまらない(笑)。
もっと飛びたいけど飛べないもどかしさということかな。
ニールが作ったこの曲は、同じ旋律を2回繰り返した後、それまでとは感じが違う切なく甘いメロディが、何の予兆もなくすぱっと入れ換わって入ってくる。
最初は違和感があったけど、慣れるとそこがたまらなくいいし、口ずさむとほんとうに気持ちがいい。
ニールの曲作りの才能を痛いほど感じるけれど、でも、自分が歌えないのは、ニールも歯がゆい思いだったかな。
正直言えばこの曲にはやっぱりリッチーの繊細な声が似合う、そうじゃなければならなかったとすら思うけれど、その決断もやっぱりスティーヴンによるものだったのかな。
だとすればスティーヴンのセンスもさすがであり、ある意味冷徹な部分があるからこそ、才能が集まったバンドをプロとしてまとめてゆけたのかもしれない。
ニールはその分まるでうさを晴らすかのように(笑)、ギタープレイがここでは冴えまくっていて、ぐいぐい引っ張るのではなく、歌心を読んで歌に合わせてリフや旋律を奏で、音の広がりを感じさせます。
この曲は大好き。
ニールも大好きなようで、2011年に出たニール・ヤングの過去音源復刻ライヴ盤シリーズA TRESUREでは、1980年代にライヴで歌っていたテイクが収録されています。
それを聴くと、もちろん曲自体がいいしニール・ヤングは大好きだけど、やっぱりこの曲はリッチー・フューリーのヴォーカルだからこそだったんだな、とも思いますが。
8曲目Burned
(Neil Young) (Neil with Richie & Steve)
ここでようやくニールがひとりで歌わせてもらえました。
脱力系のヴォーカルは若い頃からなんですね(笑)。
フラストレーションを発散するような元気で速いこの曲、(Neil on Piano)とCDには明記されていますが、最後もちゃんとピアノが目立って終わっています。
やっぱり、自己主張しないと気が済まない人なんだ(笑)。
9曲目Do I Have To Come Right Out And Say It
(Neil Young) (Richie with Steve & Neil)
ニールの曲が3曲続きますが、しかし、やはりというか、このナイーヴな曲もリッチーが歌うことに。
ニールの粗削りな声よりもリッチーの爽やかな声のほうが音楽として映える、というのがスティーヴンの考えかな。
或いはニールはまだ若すぎると感じたのか。
もしかして、ニール自らが進言したのかな、他の曲もだけれど。
でも正直、僕も、この曲についてもリッチーの声がよく合うと思い、リッチー・フューリーという人がヴォーカリストとしても魅力があることに気づきました。
タイトルは長くて理屈っぽいけど、それでよしとしますか(笑)。
この曲も、ニールがピアノと明記されています。
10曲目Leave
(Stephen Stills) (Steve with Richie)
このアルバムでいちばん激しく速いロックンロール。
ニールのギターが煽って煽って煽りまくる。
スティーヴンの声をかき消す勢いでギターが鳴りまくる。
最大の聴きどころは間奏のギターソロだと言わんばかり。
それに対してスティーヴンは「あぁ~っ」という投げやりなシャウトで反応、激しい攻防戦に。
なんて、いろいろと邪推したくなる曲ですね(笑)。
聴き終ると爽快感と高揚感が大きく残る、すごすぎる。
11曲目Out Of My Mind
(Neil Young) (Neil with Richie & Steve)
ニールのヴォーカルがたるぅいバラード。
やっぱり、こういう曲は若い頃から得意だったんだな(笑)。
バックの「んまんまんまんま」というコーラスがたるさを強調していて、ある種の癒しを感じます。
このアルバムはコーラスワークも聴きどころだけど、それにしてもなんと間の抜けた響きのコーラス、芸が細かくて広くて深い。
あ、間抜けはもちろんほめ言葉です、この場合は。
大甘にならず適度に甘い曲でしっかりと響いてくる。
これは初めから印象に残っていた曲でした。
12曲目Pay The Price
(Stephen Stills) (Steve with Richie)
最後はスティーヴンのカントリー風味をまぶした軽やかなロックンロール。
結局、スティーヴン対ニール、作曲では7対5と、1stではまだまだスティーヴンがリードしていたわけですね。
しかもニールはヴォーカルでもリッチーより少ない。
ニールは燃えたわけですね(笑)。
ただし、スティーヴンはFor What It's Worthという彼らの枠を超えたロック史に残る名曲をものにしてはいますが、個性的な曲作りという点ではニールも決して負けておらず、むしろ才気を感じさせるのはニールのほうかなと思います。
まあ、スポーツじゃないので勝ち負けではないですが、この場合は比喩として分かりやすいかと。
もちろん僕だってどっちも大好きだし。
この曲、さらっと終わりすぎかなと思わなくもないけど、でもなぜか心に引っかかるものがある。
でも表面上の音楽は爽やかなまま聴き通せてこれはこれでいいと思います。
エンターテイメントとしての型に収まっていて安心できるし。
聴き終ると、数々の魅力的な歌メロが頭の中で渦巻いて残る1枚ですね(笑)。
なお、このCDのモノーラルヴァージョンにのみ収められたBaby Don't Scold Meは、アップテンポの力強いロックらしい曲で、途中にはビートルズのDay Tripperの有名ギターリフが出てきて遊び心を感じます。
でも、だから後にアルバムから落とされたのかな・・・
ところで、いつものどうでもいい考察。
バッファロー・スプリングフィールド Buffalo Springfieldは、略して何というんだろう。
アメリカでは、ボックスセットのブックレットに"Springfield”と記されており、そう呼ばれていることが分かります。
もちろん、頭文字の「BS」というのもあるでしょうきっと。
日本ではどうか。
単にバッファローというのは、ストーンズ同様形式としてはありそうだけど、他の例と比べるとかなり舌足らずな感じであまりしっくりこない。
「スプリングフィールド」では、ダスティでもリックでも別の人も浮かぶし、その上「スプリングスティーン」と混同しやすい(笑)。
他、いかにも日本的な「バッスプ」、これはおかしいし、いろいろ考えると、「バッファロー」に落ち着くのかな。
まあ、これは、ニックネーム・愛称と同じわざわざ考える必要もないわけですが、僕は、バッファロー・スプリングフィールドは、長くて面倒でも一切省略しないで呼んでいます。
と書いたけれど、日本では略称が定着するほどには「バッファロー・スプリングフィールド」という言葉が人々の口から出ることはないだろうなあ・・・
実はとんでもない名盤。
それが、バッファロー・スプリングフィールドの1枚目。
とりわけ歌が大好きな人は、ぜひ聴いていただきたいですね。