UNDER COVERS オジー・オズボーン | 自然と音楽の森

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◎UNDER COVERS

▼アンダー・カヴァーズ

☆Ozzy Osbourne

★オジー・オズボーン

released in 2005

CD-0413 2013/6/11


 オジー・オズボーンが2005年に出したカヴァーアルバム。

 選曲はすべてロック系。


 ポール・マッカートニー&ウィングス、当時は単にウィングスと名乗っていましたが、ポールのLP3枚組の超大作リヴアルバムWINGS OVER AMERICAのリマスター盤が、2枚組CDで再発され、ファンの間では大きな話題となっています(常套句っぽいけれど一応は)。

 ほんとうに、ロック史上最大のライヴアルバムといえるのではないかな。

 なんせLP3枚組というヴォリュームにも拘わらず、ビルボードのアルバムチャートでNo.1に輝いたくらいだから。


 先々週のことになりますが、「ベストヒットUSA」でその特集をしていました。

 小林克也さんも力が入っていて、ポールのことを「この世界で最も成功した男」として紹介していました。


 その番組を見たことが、このアルバムにつながっています。

 詳しくは後ほど。


 大好きなアーティストのカヴァーアルバム、どんな曲を選ぶか楽しみですよね。


 オジー・オズボーンのこれが出るとの情報に接した時、幾つかのことを思いましたが、箇条書きにすると、

 ・ビートルズの曲は間違いなくあるだろう

 ・知名度が高い曲ばかりだろう

 ・アレンジはあまり変えないだろう、あくまでもオジー風に焼き直すだけ

 ・ソウル系やブルーズ系はないだろう

 ・英国勢が多いだろう

 ・曲は1970年代前半までだろう


 実際に聴くと、最後を除き(それも条件付きですが)、ほぼすべて当たりました。

 ただ、ハードロック・ヘヴィメタル系の曲が1曲もないのは予想外でした、雑誌「バーン!」で扱うアーティストは一応一組入っています。


 13曲を紹介しますが、知らなかった曲(ほぼイコールうちにCDがない曲)は2曲だけでした。


 このアルバムの頃のオジーは、アメリカでは例のリアリティ番組ですっかりお茶の間の人気者となっており、事実だか演出だか分からない姿をテレビにさらすことで、逆にスターとしての存在感が増していた。

 人としては興味があるけれど、身近な人というのではなく、悪くいえばそれこそ見世物的な興味が高まり、そこがそれにつながっていた。

 カヴァーアルバムを出したのは、オジー・オスボーンというスターの音楽に対しての考えに接したい、どんな曲が好きか知りたいという思いに応えたものと解釈すると納得できます。

 もちろん最初は、新譜が出るけどカヴァー集だと聞いて、複雑な思いはありましたが。

 

 そんなオジーが、例えば、アル・グリーンのTake Me To The Riverや、トム・ウェイツのHeart Of The Saturday Nightsを歌うはずがない。

 曲がどうこうではなく、あくまでも一般的な知名度という点で話しており、この一般的というのはいわゆるマニア的ではなくヒットチャートものを好んで聴く人という意味で言っています、念のため。

 (だから僕はマニア的ではなく、一般的な音楽聴きという立場でいます)。


 この選曲には大いに納得させられたものです。

 こてこてすぎるじゃないか、と思ったけれど、むしろそう思わせたのであればオジーの思う壺。


 このアルバムのミュージシャンは、オジー、マイク・ボーディン Mike Bordin(Ds)、元アリス・イン・チェインズのジェリー・カントレル Jerry Cantrell(Gt)、クリス・ワイズ Chris Wyse(Bs)。

 その他に"Additional Musicians"として、グレッグ・ビソネット、ジョー・ボナマッサといったところが僕が知っているところとしては名前が挙がっています。

 曲ごとにゲストがいる曲もありますが、それは追って。


 1曲目Rocky Mountain Way

 オリジナルはジョー・ウォルシュ、1973年のアルバムTHE SMOKER YOU DRINK, THE PLAYER YOU GET収録。

 この曲は意外性でオジー大勝利。

 英国人だから英国系が多いだろうという読みをいいほうに裏切ってくれました。

 この曲はリンゴ・スター&ヒズ・オールスター・バンドの武道館公演でジョーを中心として演奏していた僕にも思い入れが深い曲だから、申し訳ない、オジーのカヴァーなんてそんなもんだろ、というあまり高くない期待を最初から裏切ってくれました。

 複葉機が空を飛ぶジャケットに収められているように、空を飛ぶような爽快感が、オジーが歌うと多少乱気流気味だけど(笑)、意外と、はまっています。

 この曲は例外の1曲を除くとこの中でいちばん新しい曲だけど、この頃はもうスターになっていて、アメリカにも行き、英国とは違う空気に触れたことでまた別の刺激を受けたのでしょうね。


 2曲目In My Life

 オリジナルはビートルズ、1965年のアルバムRUBBER SOUL収録。

 あまりにも有名なこの曲を堂々と歌ってしまうのが、笑ってしまうくらいにすごい。

 オジーに合っているかどうかというより、この歌を歌いたいと思ったオジーの気持ちを僕は支持します。

 そう書くと合ってないみたいに思われるかもしれないですが、この曲の根底にある過去のものを慈しむ気持ちは誰の心にもあるはずだから、極論を言えば、誰が歌ってもこの曲は感動するのです。


 3曲目Mississippi Queen

 オリジナルはマウンテン、1970年のアルバムCLIMBING!収録。

 ゲストにはそのマウンテンのレスリー・ウェストが参加し、ギターを弾いていますが、これが出た当時、そういえば彼はどうしているんだろうと思っていたので、名前を見つけてなんだか懐かしくてうれしかった。

 マウンテンはこのアルバムは結構聴いているけれど、時宜を見つけてもっと聴きたいと常々思っています。

 曲のスタイルはオジーに合うんだけど、でもやっぱりオジーが「ミシシッピー」とアメリカの地方の名前を口にするのは、微妙に似合わない気もする。


 4曲目Go Now

 オリジナルは1964年のベッシー・バンクス。

 しかしオジーは、同じ1964年のムーディー・ブルースのヴァージョンが頭にあったのではないか。

 ここでWINGSとオジーがつながってきました。

 先述の「ベストヒットUSA」では、当時ウィングスのメンバーだったデニー・レインがピアノを弾きながら歌うGo Nowが映像付きで紹介されていました。

 デニー・レインはムーディー・ブルースの初期のメンバーであり、この曲を歌っていますが、割と早くに脱退し、ムーディー・ブルースがアメリカでも売れた頃にはもうバンドにはいませんでした。

 それを見た弟が、「あ、オジーの曲だ」と言い、それは何かの冗談かと思ったのですが、僕はその一瞬、オジーがここで歌っていたことを忘れていたのでした。

 この中ではいちばん古い曲で、1948年生まれのオジーがこれを聴いた時はまだ15歳。

 オジーはバラード系もいい曲が多く、その手の曲には思いの外気持ちが入っていると感じるのですが、この曲を選んだことで、歌手になろうとした最初の頃はもっと思いが純粋で、ブラック・サバスのようなものは目指していなかったのではないか、と。

 ただ、幸か不幸かあのような声を持って生まれてしまった。

 1曲目と並んでこの中では最も興味深い選曲ですね。


 5曲目Woman

 オリジナルはジョン・レノン、1980年のヨーコ・オノとの共同名義によるアルバムDOUBLE FANTASY収録。

 選曲は1970年代前半までの例外がこれですが、ジョン・レノンの曲だから取り上げるのも自然だし、最後のアルバムだから歌うことで気持ちを表したいと思うのも当然でしょう。

 これが、ね、下手です(笑)。

 でも、ね、この曲は子どものように駄々をこねているような内容だから、それはそれでありと言えます。

 オジーのこれを聴くと、ジョンはなんとも強がっていたと思ってしまうくらい、オジーはまるで子どものように無邪気に歌う。

 演奏は一部アコースティックギターのアルペジオにしているのがいい。

 中学時代からのビートルズ友だちOと、大学時代、よく会って音楽の話をして遊んでいた頃、Oがアコースティックギターを持ち出して弾いたWomanがなかなかよかった、そのことを思い出しました。

 その他、この曲は個人的な思いがあまりにも詰まりすぎていて、正直、聴きたくない時があるんだけど、オジーが歌うと自分の気持ちがジョンほどには入ってゆかず、そうなると旋律の美しさが際立っていることがあらためて分かります。


 6曲目21 Century Schizoid Man

 オリジナルはキング・クリムゾン、1969年のアルバムIN THE COURT OF THE CRIMSON KING収録。

 これはお約束的な選曲で、ほんとうにこれをやるのかというのがある意味驚いた。

 ただ、今のオジーは、この曲がいうほどには変わった人じゃないかもしれない、とは思うけれど。 

 それに、オジーのここにある狂気は予定調和であり、特に驚くこともなく、逆にいえばオリジナルが世の中に投げかけたものがいかに大きかったかが想像されます。

 

 7曲目All The Young Dudes

 オリジナルはモット・ザ・フープル、1972年のアルバムALL THE YOUNG DUDES収録。

 本人出演第2弾、イアン・ハンターが参加していますが、サビの部分の後ろでかすれ声で叫んでいるのがそうかな。

 この曲はブルース・ディッキンソンのカヴァーも少し前に紹介しましたが、彼らくらいの世代の英国人にとっては反抗の象徴であり、アンセム的な曲なのでしょうね。


 8曲目For What It's Worth

 オリジナルはバッファロー・スプリングフィールド、1967年のアルバムBUFFALO SPRINGFIELD収録。

 アメリカ人の曲は1、3とこれの3曲のみ。

 この曲は、1960年代後半の英国に多大な影響を与えたらしく、ロバート・プラントのベスト盤に、彼がレッド・ツェッペリンに入る前に録音したこの曲が収録されていました。

 また最近ではラッシュがカヴァー曲を集めたEPでも演奏していました。

 この曲は、スティーヴン・スティルスの揺ら揺らとしたヴォーカルとニール・ヤングのギターサウンドが不思議な響きで、ウッドストックやフラワー・ムーヴメントの代表として英国では受け止められていたのかもしれない。

 オジーにその味わいが出せるわけはない、オリジナルの揺ら揺ら感を知っているとオジーの別系統の揺ら揺ら感はコミカルにすら映るけれど、これを選んだセンスと勇気は見直しました。


 9曲目Good Times

 オリジナルはエリック・バードン&ジ・アニマルズ、1967年のアルバムWINDS OF CHANGE収録。

 この時まで知らなかった2曲のうちの1曲。

 アニマルズはベスト盤1枚しかまだ持っておらず、そこにも入っていない、だからアニマルズは今後攻めてゆかないと。

 英国ではTop20ヒットとなったということですが、当時のオジーはもうバンド活動をしていて、自分たちの音楽を確立する上で周りからも刺激を受けていたことが想像されます。


 10曲目Sunshine Of Your Love

 オリジナルはクリーム、1967年のアルバムDiSRAELI GEARS収録。

 クリームはやはりハードロックとして認識されているんだと思わされる選曲であり、リフが強烈で印象的な曲だからそれも納得。

 この曲は彼らのバンド活動、当初はジ・アースと名乗っていた、にとっては決定的な影響を与えたのかもしれない。

 トニー・アイオミのオジーとしても外せないのでしょうね。


 11曲目Fire

 オリジナルはアーサー・ブラウン、厳密にはザ・クレイジー・ワールド・オヴ・アーサー・ブラウン、1968年のアルバムTHE CRAZY WORLD OF ARTHUR BROWN収録。

 知らなかったもう1曲、この時はアーサー・ブラウンという人も名前すら知りませんでした。

 英国のロックンロール系のシンガーソングライターとのことだけど、ブルージーな響きでクリームに近いと言えば近いかな、少なくともこの曲は。

 最初はジミ・ヘンドリックスの僕がいちばん好きなあの曲かと思ったのですが、やはりギタリストではなくヴォーカリストなのだと実感。

 

 12曲目Working Class Hero

 オリジナルはジョン・レノン、1971年のアルバムJOHN LENNON/PLASTIC ONO BAND「ジョンの魂」収録。

 オジーのアイドルは誰か、もうこうなると自明ですね。

 ジョン・レノンは実質これで3曲目、In My Lifeは名義上はLennon-McCartneyだけど。

 この曲を選んだのは、まさにオジーが「労働階級の英雄」だからかな。

 オジーが歌うと切迫感や悲壮感がないんだけど、そうなると単にいい歌として響いてくるのはWomanと同じ。

 と書いてみて、僕はジョン・レノンをもはや冷静に聴けなくなっているのかも、と・・・

 余談、オジーがビートルズを好きなのはもはや有名な話だけど、彼はビートルズのANTHLOGYシリーズが公式発表された際に、未完のものを多くの人に聞かせることに異議を唱えていました。

 ところが、オジーがビートルズを好きと分かったファンから、ANTHOLOGYのCDがたくさん贈られてきて困ったのだという。

 ファンとしては、ビートルズの珍しい歌が聴けるのは楽しいのではないかという純粋な気持ちで贈ったのでしょうけど、オジーの意向は違ったようです。

 ああ、そうか、逆にポールは1曲もないんだな。

 オジーはジョンの中に自分とは異質のものの魅力を見出しているのでしょうね。

 考えてみれば、オジーの人となり、キャラクターは、ジョンよりははるかにポールに近いし。

 この曲はブラック・サバスのデビュー後のものですが、オジーもやはりビートルズの夢を追いかけていたのが、ジョンのこのアルバムで夢を打ち砕かれ、現実に戻ったのでしょうね。


 13曲目Sympathy For The Devil

 最後、オリジナルはローリング・ストーンズ、1968年のアルバムBEGGARS BANQUET収録。

 これもね、スキッツォイドと一緒で、やっぱりこれきたかといった選曲。

 黒魔術つながりでもあるし。

 自分を悪魔に見立ててキャラクターを作り上げてきたオジー、やっぱりナルシスト的な面が強いんだなあ、とも。

 さすがにオジーはオリジナルの速さでは歌えない、前に前に進もうとするけれど進めないというオリジナルの響きに比べると、始めっから少し引いて構えているといった趣き。

 オリジナルを知っている曲では、これだけイメージがだいぶ変わるアレンジになっています。

 

  

 ここまで書いてきて最後に言うのもなんですが・・・

 

 これ、あくまでもオジー・オズボーンの、ですからね、オジーが苦手、特にあの声が、という人には何も響いてこないと思います。

 そのアーティストが嫌いなら、その人がどんな曲を好きかも興味が湧かないだろうし。

 

 でも、ロックヴォーカリストとして、キャラクターとしてのオジーが好きな人、関心がある人であれば、ああなるほどと感じる部分は多々あると思います。

 いつものオジーからは遠いところにあるジョー・ウォルシュとバッファロー・スプリングフィールド、この2曲を歌っているのが、僕としては意味も価値も高い部分だと思うし、この2曲はぜひオリジナルも聴いていただきたい、そこは強調させていただきます。


 聴き終わると、心の中がべたっとした感じになるけれど(笑)、オジーもやはりロックが大好きなことはよく伝わってきます。

 僕自身でいえば、ジョー・ボナマッサがこの中のどこにいるのかを突き止めないと(笑)。