◎TANGO IN THE NIGHT
▼タンゴ・イン・ザ・ナイト
☆Fleetwood Mac
★フリートウッド・マック
released in 1987
CD-0408 2013/5/26
フリートウッド・マック「最強の5人」による5枚目、そして最後のスタジオアルバム。
本日5月26日はスティーヴィー・ニックスの誕生日だそうです。
御年、いや聞かないでおこう。
Facebookの日本人が運営するロックのサイトの記事で知りましたが、添付されていた曲がLittle Liesで、それクリスティンの曲じゃん、とかPCに向かって朝からツッコミ入れていた・・・
ともあれ、スティーヴィーおめでとう!
その画像は観なかったけれど、その曲が今日は朝から頭の中で鳴りっ放し。
夕方に帰宅してから聴いて記事にしようと決めました。
フリートウッド・マックは僕が洋楽を聴き始めた頃は既に「噂」で生ける伝説となっていました。
ちょうどその頃、この前のアルバムからのHold Meがヒットしていて、アメリカで売れる曲ってこんな感じなんだと学んだものです。
その曲が入ったアルバムは買おうかどうか迷っているうちに気持ちが他に移り、彼らの活動の話が聞かれなくなり、時代はCDに移って結局はこの5人の最初の2枚「ファンタスティック・マック」と「噂」をCDで買って聴きました。
なお、「ファンタスティック・マック」 FLEETWOOD MACの記事はこちら
「噂」 RUMOURSの記事はこちら
、をそれぞれご覧ください。
手短にいえば、彼らを知ってからずっと聴いてみたいと思っていた「噂」を、CDの時代になって最初に買った20枚のCDに入るくらい早くに聴き、気に入ったところでタイミングよく今日話題にするアルバムが新作として出ました。
運がよかったですね。
まずはMTV番組でBig Loveのビデオクリップを見て気に入り、CD時代の初期でCDを買うこと自体が楽しくてすぐにアルバムを買いました。
一発で、すごく気に入りました。
作曲家とヴォーカリストが3人いて曲が多彩という彼らの強みを、最初の2枚以上に強く感じました。
音がきれいでとにかく心地よく響いてくるのも気に入りましたが、僕はそれまではこういう音が繊細できれいに響く音楽をほとんど聴いてきていなかったので、この音が新鮮でもありました。
ミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーのドラムスとベースのグルーヴ感が、意外といってはなんだけど、これが素晴らしい。
以前、知り合いが、彼らは本格的なブルーズもしっかりとできるリズムセクションなのにこんな(チープな)ポップソングのバックだなんてもったいない、と言っていました。
僕はもったいないとは思わない。
むしろ、ただ単に曲がいいだけのポップソングにこのリズムセクションとはなんて贅沢なんだろう、と。
そして僕がもうひとつ気に入ったところ。
このアルバムの曲は、バンド側の思惑や裏事情がまったく透けて見えてこない、だから歌そのものの物語に心が入ってゆきやすい。
「噂」が男女関係のもつれから最悪の状態で作られたことは今となっては知られた話、語り草となっていますよね。
確かに、例えばI Don't Wanna Knowなんて元々カップルだったリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスが歌を通して口論しているように感じられてしまう。
もしかして、You Make Loving Funは、夫もいた身のクリスティン・マクヴィーが、新たに入った若者に違った楽しみを教えられた、ととれなくもない、いやここまでいうと妄想かな・・・
ともあれ、最悪だったはずの人間関係を、強靭な精神力で傑作に仕立て上げたのが「噂」であり、これほど人間臭いヒットアルバムというのもそうはないというくらい。
一方、こちらは、人間臭さが希薄、悪くいえばただの商品として歌があるだけ。
およそ10年の間にメンバーの関係が整理されて、気持ちの上では、少なくともバンドとして続ける以上はわだかまりがなくなっていたのかもしれない。
いや、あったのかもしれないけれど、彼らも大人になり、そこを抑えて録音に向かえるようになったのでしょう。
そして最近気づいた、いや、思ったこと。
またその話か、とお嘆きの方もいらっしゃるでしょうけど、敢えて。
このアルバムは、彼らにとってのABBEY ROADではないかと。
フリートウッド・マックというスーパーバンド、リンジー、スティーヴィー、クリスティンというスーパースターとして一般大衆が求める姿を意識的に演じて制作したアルバム、と見るのはどうだろう。
演じることで、わだかまりもなにもない、ただのいい曲を集めたアルバムができたのではないか。
このアルバムが出たすぐ後にリンジーが脱退、ツアーには他のギタリスト2人が呼ばれるという事態に陥ったように、リンジーはある程度覚悟を決めていたのかもしれない。
20世紀になってリンジーはスティーヴィーは復帰したけれど、今度はクリスティンが数曲に参加したのみでバンドのメンバーには戻っていない。
だから事実上、このアルバムは最強の5人の最後のアルバムとなったのでした。
19世紀のフランスの画家アンリ・ルソーに影響を受けたという印象的なアートワークには、「白鳥の歌」をイメージさせる白い鳥が描かれています。
白鳥は死ぬ前にきれいな声で鳴くという言い伝え。
よく見ると立っているのでツルかサギかコウノトリの仲間に違いないけれど、「最後の歌」をイメージさせている、というのは考え過ぎかな。
1曲目Big Love
リンジー・バッキンガムの曲、ヴォーカル。
タンゴのリズムに乗った一風変わったロックンロールともいえる曲。
なんだか苦しそうにあえぐような歌い方の哀愁を帯びた歌でそこもタンゴのイメージか。
ビデオクリップが面白くて、薄暗い部屋で演奏する5人が、エンディングの部分になると逆回しになり最初に戻っていき、その間に男女の映像が挿入されるというもの。
リンジーといえば、ピックを使わず主に2本の指でギターの弦を弾く独特の奏法を、僕はこのビデオクリップで知りました。
もちろんイントロのきれいな音色やメランコリックなギターソロを真似してみたけれど、できるわけがない(笑)。
"I wake up, but only to fall"という歌詞がいいし、僕は大好きな曲。
でも、大学時代に知り合ったロッド・スチュワートが好きな友だちSは、この曲を「えげつない」と言っていました。
なんとなく、ニュアンスとしては分かる、少なくとも気持ちいい曲ではないから(笑)。
ともあれ、さすが伝説のバンドと僕は思ったものです。
2曲目Seven Wonders
このアルバムの弱いところは、スティーヴィー・ニックスの曲がつまらないことだとよく言われます。
そうですね、それは言えると思う、この曲はサンディ・スチュワートと共作。
この曲なんて、印象には残るけれど、じゃあいい歌かと言われると、彼女にしては平板でありふれた感じの曲に聴こえてしまう。
彼女の歌い方もなんだか投げやりに聴こえるけれど、でもそれは彼女の個性の範疇かな。
ただ、ありふれた曲をそれなり以上に仕立て上げるのはさすが、彼らにしかできない芸当。
それに、"I'll make a path to the rainbow's end"、「虹の端へ道をつけたい」とはとってもいいくだりだと思うし。
ちなみに先述の友だちSは、この曲は語るに値しない、と・・・
3曲目Everywhere
クリスティン・マクヴィーの曲、ヴォーカル。
彼女の曲はどこに流れていくか分からない展開の旋律が特徴といえば特徴だけど、このアルバムではそれがあまり出ていない。
ひとつは、この曲の場合AメロとBメロが分断されていてそれぞれが短い中でまとまっているからだと思う。
この曲はひとつ思い出が。
当時、札幌と東京を行き来する飛行機では洋楽の機内放送を聴いていたんだけど、そこでこの曲が流れるというのでいつものように楽しみにしながらイヤホーンを指して待っていた。
機内放送ってエンドレスで流れているので、席に着いて聴き始めたところが1曲目じゃないんですよね。
この曲はもう空の上で流れてきましたが、いきなりオルゴールを開けたようなイントロが流れ、ドラムスが入ったところでパーソナリティのセーラ・ロウエルが「ここはおとぎの国」といったその紹介分があまりにも音色にぴったりでした。
イントロの「おとぎの国」の音は、うれしい気持ちが至る所に散らばっていく、そんな楽しさを感じる、僕の中の「前向きソング」のひとつです。
でも、友だちSは、まあ普通かな、と。
ところで、セーラさん、一昨年亡くなっていたんですね、知らなかった、今調べてちょっとばかりショックを受けました。
4曲目Caroline
リンジーの曲、歌。
彼女に愛をささげるバラードといえばそうかもしれない。
サビの♪きゃろらぁあ あ あ あ あ~いんというのが印象的でどことなくコミカルな曲だけど、でもまあアルバムの中の曲ですね。
友だちSはつまらない、と。
そうそう、このアルバムは、Sと知り合った頃によく聴いていたので、試しにカセットテープに録音して聴いてもらっていたのでした。
Sは同学年だけどひとつ年上で、やはりフリートウッド・マックは名前だけは知っていて、多少興味があったようでした。
5曲目Tango In The Night
リンジーの曲でアルバム表題曲だけどなぜかタンゴのリズムではない。
でも、ラテンの風味をまぶした哀愁系の曲で、タンゴの世界ではあるかな。
これは歌よりはサウンド志向かな。
Sの話は覚えていない、つまりいいことは言わなかったんだろうな、と。
6曲目Mystified
クリスティンとリンジーの共作で歌はクリスティン、LPではA面の最後。
これはですね、なんとなく未完の曲という感じがする。
でもだからといってABBEY ROADのようにメドレーにはできない、という中途半端な曲かな。
しかし、それはまさに「けむにまかれる」というタイトルを表したものであるのがうまい、やはり彼らにしかできない芸当。
また、CDではつながっているけれどLPではいかにも途中といったこれでA面が終わるのが、早く次を聴きたいと思わせる効果もあるでしょう。
ある意味すごいですね、未完の曲をこんな風にじっくりと聴かせてしまうなんて。
いや、実際は未完の曲ではないかもしれないけれど、でも、クリスティンの曲の特質を逆手にとって利用したともいえるでしょう。
7曲目Little Lies
クリスティンのこの曲がね(外部ミュージシャンと共作)、いいんですよ、ほんとうに、最初から大好きだった。
どこがいいんだかまるで分からない不思議な曲なんです、誤解を恐れずにいえば。
歌メロが8小節単位のA-A-Bになっているけれど、よく聴くとコード進行だけでいえばA-A-Aで、最後のBの部分だけサビとして強烈なコーラスに置き換わるというだけ。
しかも、サビのコーラスは、Aの部分でクリスティンが歌う主旋律ではなくコーラスとして既に出てくるものを表に出しただけ。
間奏はイントロがもう一度出てくるだけ、そして最後はBを繰り返してフェイドアウト。
作曲という観点でいえばシンプルを通り越して人を食ったような曲。
でも、この奥深さは何だろう。
そこが、もうこの曲を聴いて26年が過ぎようとしているけれど、未だにつかみきれていない、だから不思議な曲。
凝っている部分を挙げると、まずサビは、クリスティンが主旋律を歌う関係で珍しくスティーヴィーが高いコーラスを入れ、続いて低い声を入れた後、リンジーが嘆くようなコーラスを入れるといったコーラスワーク、さすがのひとこと。
ミックのドラムスはぴしゃっと引き締めつつ、最後のAのさらに最後で乱打するのが印象的。
サウンド的には、日本のドラマのテーマ曲に使うといいんじゃないかと思う。
というかそういうかたちでもっと多くの日本人に知ってもらいたい、この不思議で素晴らしい曲を。
何度も言うけれど、彼らにしか成し得ない奇跡のような曲ですね。
この曲は僕の心にぴったりと寄り添っている曲であり、大切にしたい曲ですね。
だから、FBで見てずっと頭の中で鳴り続けていたのでした。
そして帰宅して久しぶりにこの曲を聴いて、涙が出そうになりました。
「嘘だと言って、小さな嘘だと」
最後に友だちSの言葉、あああれね、で終わり、僕が大プッシュしたんだけど、つれない返事でした。
8曲目Family Man
リンジーとプロデューサーのリチャード・ダシュートの共作。
このアルバムはそもそもリンジーのソロとして取り組んでいたのが最終的にマックになったのだそうで。
そういえばリンジーは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラにも曲を提供していましたね。
こちらもリズムがタンゴで、リンジーの当時の心のリズムがタンゴだったのでしょうかね。
間奏はもろラテンといった響き。
曲はまあまあかな。
9曲目Welcome To The Room...Sara
これはTUSKに収められ大ヒットしたSaraの続編的な意味合いの曲。
でもやっぱり、ここでのスティーヴィーの曲は、残念ながらアルバムの中の1曲の域を出ていないかな。
彼女も80年代はソロ活動に熱心で、突然バンドと言われて曲を用意できなかったのかな。
10曲目Isn't It Midnight
都会的な洒落た響きのいかにも80年代といった曲。
そういえばこのアルバムは、いかにもアメリカンロックといった響きではないですね。
まあこの曲はクリスティンで彼女は英国人だけど、それ以上に洗練された鋭角的な響きで、「噂」だってもっと大味なアメリカンロック的な要素があったのに。
これもクリスティンとリンジーの共作だけど、このアルバムはこの2人のチームワークがいいですね。
11曲目When I See You Again
スティーヴィーのちょっとカントリーっぽいバラードともいえる曲。
僕はこの曲、いいと思って聴くといいけれど、そうじゃない時はさらっと流れてしまう。
力が入っていない割にはいいともいえるし、力が入っていないからこんなもんだともいえる。
ただ、曲の中で一度しか出てこない中間部の盛り上げ方はさすが。
そしてこの曲は最近の彼女の作風につながっている気もする。
ちなみに今回はよく響いてきました。
12曲目You And I, Part II
アルバム最後、クリスティンとリンジー共作のこの曲が最高にいい。
マックの中で好きな曲を3曲挙げろといわれれば僕は、Monday MorningとGo Your Own Wayとこれを挙げるというくらいに。
さらに2曲だとLittle LiesとGypsyが入るかな。
リンジーが歌って、クリスティンがコーラスで受け、後半はクリスティンがひとりで歌う。
男と女のピロートークをそのまま歌にした感じだけど、そこにはリンジーとクリスティンの個人的な関係は見いだせず、あくまでも2人の歌手が架空のおとぎ話を歌っているだけ。
だからこそ聴き手の心が入ってゆく。
もっとも僕はそんなピロートークの経験はないけれど(笑)、でも正直いえばこれを聴いた二十歳の頃は、そういうのもいいんだろうなあ、と空想したものですが。
"I wake up with my eyes shut tight, hopin' tomorrow will never come for you and I"
歌い出しのこのくだりが最高に好き、音の響きも意味も。
おまけに、歌メロがとってもシンプルで分かりやすくて素晴らしく、最初はどこかで聴いたことがあると感じたくらいにありふれた旋律を歌っているのがいい。
そしてこの曲もタンゴのリズム、アルバムとして一本筋が通っている。
イントロがなんとなくお料理教室のテーマ曲みたいな響きに感じるんだけど、クリスティンが後に料理研究家となったという話を聞いて僕はこの曲を思い出し、妙に納得しました(笑)。
ちなみに"Part II"となっているのは、"Part I"がBig LoveのB面としてリリースされ、アルバム用に録音し直したものだから。
ただ、悔しいことに僕は"Part I"をまだ聴いたことがない。
CDとして手に入るのかな、ちょっと調べて観よう、今更ながらだけど。
友だちSもこの曲は、なんかいいよな、と彼らしく照れ隠し的にいいと言っていてほっとした。
Sは、文句を言いながらもこのアルバムは全体としては気に入ったようでした。
とにかく、歌ってほんとうにいいもんだなあ、と思わせる歌でアルバムは終わります。
このアルバムは彼らにとって、売上枚数の点ではかの「噂」の次に大きな成功をもたらしたアルバムとなりました。
このアルバムは、バンドのドラマを求めたり、人間臭さを感じたい人には響かないかもしれない。
でも、音楽を聴いて自分の物語を反映させたい人には、先入観もなにもなく、ただ音楽で表現されている世界にすっと入っていける。
だから聴きやすくて売れたのでしょう。
ポップソングを「商品」として見れば、極上の商品といえるものであり、アメリカンロック、というよりもアメリカのポップスが行き着いた最高地点といえるでしょう。
そういう曲に自分の気持ちを入れ込んで聴くのが僕は大好きなのです。
さて、最後にお詫びというか。
結局、今回もまだ1980年代の渦から脱出することはできませんでした・・・(笑)・・・
まあ、若い頃に聴いた曲であるほど、年をとっても心の中に深くしみ込んでいるということでしょうね。