LET'S DANCE デヴィッド・ボウイ | 自然と音楽の森

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◎LET'S DANCE

▼レッツ・ダンス

☆David Bowie

★デヴィッド・ボウイ

released in 1983

CD-0402 2013/5/11


 デヴィッド・ボウイ15枚目のアルバム。


 僕が洋楽を聴くようになり初めて接したデヴィッド・ボウイはこれでした。

 当時は『戦場のメリークリスマス』が公開された頃で、日本の映画にロック界のスーパースターが出演することが大きな話題となっていました。

 デヴィッド・ボウイの名前と顔はその前から知っていたけれど、どこでどう知ったのか、まるっきり思い出せない。

 当時はビートルズの本をたくさん読んでいたので、ジョン・レノンが共作共演したFameのことをどこかで読んだ、というのが可能性としてはありそう。

 でも、ボウイはそれ以前に、洋楽の時代に日本で人気が高かったことで、なんとなく覚えたのかもしれない。


 ボウイは新譜も出て、旧譜も記事にしたばかりですが、今回これを取り上げたのは、いつものように「ベストヒットUSA」でLet's Danceのビデオクリップを久しぶりに見たから。

 もともと大好きな曲で、高校時代にギターで演奏していたくらいだけど、あらためて聴くと、こんなにいい曲だったか、と。

 「ベストヒットUSA」を見ていていいのは、そう思うのが多いことですね。

 今のヒットチャートだけど半分というかほとんどは僕のような「オールド」ファン向けだから、80年代以前の曲もよくかかります。


 ビデオクリップは、アボリジニの若者の男女が都会で生きてゆく様を描いたもの、と先ず小林克也さんが紹介して始まりました。

 クリップは当時もその後のMTVでも流れていたしクリップ集のDVDもあるのでよく知っているけれど、あらためて見ると、「戦メリ」のイメージが受け継がれた感じがありますね(映画「戦メリ」は観たことがあります)。

 しかし、若者が大きな機械を車の多い道路で引っ張るシーンがあって、それが左側通行であるのは今まで気づいていない、いや、気づいてはいたけれど意識していなかった。

 アボリジニだからオーストラリア、だから左側通行か、とそこで納得。

 若者の女性が荒野で歌詞に出てくる赤い靴を見つけて履いて踊り始めたところで、山の向こうに激しい閃光の後キノコ雲が現れるシーンが、いろんな意味で重たい。


 ボウイは、いかにも南国っぽい空間が多くて暑そうな雰囲気のバーでバンド演奏するのですが、表情を変えず、確信に満ちた歌い方で通すのが、恐いほどまでにクール。


 しかし、なぜボウイは手袋をはいてギターを弾いているのか。


 あ、その前に、手袋を「はく」というのは北海道の方言で、こちらでは普通にそういう人が多いです。

 でも、転勤族の人などに「手袋をどうやって「はく」んじゃ」と突っ込まれることもあるけれど(笑)。

 標準語では手袋を「はめる」か「つける」ですかね。


 話が逸れました。

 ボウイは手袋をはいてギターを弾いているのですが、ピッキングする右手はともかく、左手がそれでは音が出ないのではないかと。

 実際に今、割ときつめの軍手をはいて演奏してみたところ、布が他の弦に触れてミュートされてしまい、バレーコードは絶望的に音が響かない。

 右手もピックを持たない指の布が弦に触れてミュートがかかるし、弾いた弦の音も減衰が早くて、きれいな音が出ない。

 要するに、少なくとも僕には弾けなかった。

 なんて試してみるまでもなく、ギターを弾けない人でもそこに気づくと違和感を覚えるのではないかな。


 では、なぜ手袋をはいているのか。

 

 この曲のギターはスティーヴィー・レイ・ヴォーンであることに着目。

 ボウイ自身はギターを弾いていない、でもクリップでは誰かがギターを弾かなければ映像的におかしい、だから手袋をはき、SRVへの尊敬の念をユーモア交じりに表している、と考えると納得できます。

 最後のギターソロのシーンは荒野に立つボウイひとりが写し出され、ギターソロを演奏するシーンで終わるのですが、そのシーンが象徴的にそれを表している、と僕はとりました。

 そのソロのシーンは、ギターのどの辺りを弾いているのか、録音の際のSRVの演奏を見て覚えたのかな、などと一応ギター弾きの端くれらしいことも思ったり。

 ちなみにボウイが弾くギターはラージヘッドの赤っぽいボディのストラト、メイプル指板。


 ともあれ、元々好きな曲だけど、いろいろ思うところもあり、ますますこの曲が好きになりました。


 そうなると当然、アルバムのCDも聴く。


 このアルバムは、ナイル・ロジャースを迎えて時代の先進の音を聴かせたアルバム、と小林克也さんが紹介していましたが、ナイル・ロジャース「という人」が、というところにまずは時代を感じました。

 僕はまだ洋楽聴き始めで、ナイル・ロジャースやシックはよく知らなかったけれど、でも、当時既にアメリカンロック人間になりかけていた僕には、確かに先進的な鋭い音の響きと感じられました。

 

 当時は、ついにあのボウイも売れ線に走ったか、と言われていたのを覚えています。

 表題曲が彼にとって2曲目のビルボードNo.1に輝いたこともそれに拍車をかけたのでしょう。

 

 今でもそういう見方をされるようですが、確かに、ボウイのアルバムを並べてゆくと、音の響きは明らかに他と違うと感じますね。

 この次のアルバムTONIGHTは既に記事にしたのですが、今から思えば、アルバムとしてはそこそこ以上にいいけれど、元に戻そうという意識がそれまでのボウイの前に進む姿勢とは相容れない部分があったのかな、と思います。

 その記事ではこのことは書かなかったけれど、このアルバムを聴き直してつながりを意識したところで気づきました。


 振り返ると、これの前作はSCARY MONSTERSで、ボウイらしさの総決算みたいなアルバムだから、余計にこの変化に戸惑った人も多かったのではないかと。

 ただ、総決算をした後でまったく新しいことをするのはボウイらしい、ともいえるのではないか。


 小林克也さんはこうも言っていました。

 デヴィッド・ボウイという人は常に時代の先を行っていて、こっちにおいでよと言っているような人だった。

 つまりこのアルバムは、ボウイのほうから時代に寄って行ってしまったのが、違う、という部分なのかもしれません。


 

 1曲目Modern Love

 モダンといいいながらもどこか懐かしい響きのスウィングするロックンロール。

 僕はこれ、かなり好き。

 3枚目のシングルとして切られて、ビデオクリップも、ツアーからのライヴ映像風。

 大きな月があるステージでレモンイエローのスーツを着て歌うボウイがかっこよく、放送があった翌朝の高校のクラスの音楽談義でも話題に上りました。

 とても気に入り、LPを買う寸前まで行きましたが、でも買わなかったのは、なんだろう、もう3枚目のシングルで時宜を逸していたのだと。

 若い頃は移り気だから(笑)。

 曲は、Bメロでボウイの歌をコーラスが歌詞の言葉をつないで追いかけながら進んでゆくのが素晴らしい。

 あらためて、やっぱり大好きな曲だなと。


 2曲目China Girl

 朋友のイギー・ポップとの共作で、イギーの名前はそこで覚えましたが、最初は変な名前の人だなって(笑)。

 この曲は、女性と海辺で激しく絡む過激なビデオクリップが話題になり、音楽番組ではないところでも紹介されていました。

 僕もそういう年頃だったから観たくてたまらなかった(笑)。

 放送禁止になるのではないかとも言われていたけど、そんなことない、普通に確か「ベストヒットUSA」で流していたような、他の番組だったかな、とにかく興味を持って観ました。

 正直、過激は言い過ぎだぞ、と(笑)。

 ただ、ビデオクリップとしてはやはり過激なのでしょうね、子どもも観るだろうし。

 曲は、これまた大好き。

 ギターがよくてコピーして遊んでいましたが、イントロのなんとなく中国風のフレーズもいいけれど、歌のバックでカラカラ鳴る音色とフレーズがいい。

 スティーヴィー・レイ・ヴォーンのソロもいいけれど、それはちょっと僕の手に負えない(笑)。

 歌メロの流れがちょっと変わっていて、落ち着かないというか、流れ流れてどこにもたどり着かずに通り過ぎるみたいな独特の響きがありますね。

 ブリッジと言っていいのか、途中の部分で"I gave you the man who wants to rule the wordl"と声を張り上げて歌うところがいい。

 そのくだりや、"Just like a sacred cow"といったくだりなど、この曲の歌詞が若者には刺激的で、ボウイってすごい人なんだなと思ったり。

 そういえば後のティアーズ・フォー・フィアーズは、Everybody Wants To Rule The Worldを作りにあたり、この曲は頭にあったのかな。

 ところで、大学時代、ロッド・スチュワートが好きで友だちになったSの前である日この曲を口ずさんでいたところ、「お前の声や歌い方が微妙にデヴィッド・ボウイに似ているのが気持ち悪い」、と言われました・・・(笑)。

 でも、そう言われて悪い気はしなくて、なんだかボウイがそれまでよりも身近に感じたものでした。 

 ところでこの曲、僕は主にベスト盤で聴く編集されたシングルヴァージョンのほうが聴き慣れていて、アルバムヴァージョンを聴くのは久しぶり。

 

 3曲目Let's Dance

 きたきた来ました。

 この曲がヒットしたのは、曲がいいのはもちろんだけど、サウンドが先進的、それもあるかもだけど、1980年代に起こったオールディーズへのノスタルジーブームも関係がありそう。

 曲の最初がいきなりTwist & Shoutそのままの4音上昇コーラス、もうこれで僕は心を掴まれた。

 曲もゆったりとしたリズムでどこかしらノスタルジックな響き。

 ビデオクリップの冒頭でも、女性がラジオを壊すシーンが逆回転で写る。

 つまり、壊れたラジオが女性の手に戻って古いラジオの形になるというのは、MTV時代への皮肉も込めて、ラジオの時代の音楽はよかったというメッセージが伝わってきます。

 最初の歌詞も「赤い靴を履いてブルーズに合わせて踊ろう」というものだし。 

 でも音は先進的で、ブラスの広がりのある音色、揺ら揺らと響くギター、カタカナで表すと「バシッ」という音のドラムスなど、心に突き刺さってきます。

 ドラムスはトニー・トンプスン。

 トランペットも含めそれぞれの楽器のフレーズがまた印象的で、それを口ずさむことがあるくらい。

 さらには、男声コーラスの声がいい。

 フランク・シムズという人が担当しているようなのですが、ボウイの揺らぎのある声とは対象的に、ドキュメント番組のナレーターのようなぶれない確かな響き、もうこれしかないという声。

 スティーヴィー・レイ・ヴォーンのギターソロ、猛々しくも狂おしい。

 音に対する繊細さ、芸の細かさが、単なるヒット曲を通り越して時代を超えた響きとなって今に至っています。

 もちろん、ボウイの艶やかなヴォーカル、低音から高音、ファルセットまで聴き惚れてしまい、ヴォーカルという点でもボウイの最高の仕事の一つかもしれない。

 特に"Tremble like a flower"というくだりの"flower"の声の出し方は、絶対に真似したくなる(笑)。

 この曲も1曲目と同じくボウイとコーラスが言葉を歌い継ぐのだけど、"Let's sway"というくだり、"sway"という単語は当時は知らなくて、なんだろうって辞書で調べて「揺り動く」だった。

 おそらく、チークダンスみたいなダンスで体を左右に振るような動きをイメージすればいいのだと思う。

 僕はゴルフはしないけれど、ゴルフでは「体がスウェイする」て言いますよね。

 だからゴルフでは"Let's sway"は禁句でこの曲はゴルファーには歓迎されないのかな、などとどうでもいいことを思ったり(笑)。

 歌詞といえば、"serious moonlight"というくだりがそのまま、このアルバムを受けたコンサートツアーの名前になり、だからModern Loveのクリップのステージには月の飾り物があったのだと。

 もうひとつだけ余談を。

 この曲のアルバムヴァージョンは7分48秒あるのですが、ビルボードでNo.1になった曲でいちばん長い曲はビートルズのHey Judeの7分5秒だから、もしかしてビートルズの記録が抜かれたの、と当時は焦った。

 しかし、シングルエディットは4分10秒で、ビルボードの記録はあくまでもシングルヴァージョンが対象となるため、ビートルズの記録は抜かれていなかったと分かってほっとしました。

 ちなみに、ダイア・ストレイツのMoney For Nothingも同様にアルバムでは7分5秒より長いけれど、シングルエディットはそれよりずっと短くなっています。

 もしかして、王さんの55号本塁打のように、ビートルズの記録を破ってはいけないという不文律が英国ロック界にはあるのかな、なんて、考え過ぎか(笑)。

 

 4曲目Without You

 軽快なポップソングをボウイの声が重たくしている、そんな響きの曲。

 割と急に来たサビでいきなり裏声で歌うんだけど、その部分は当時「ノエビア化粧品」のCMで使われていました。

 「ノエビア化粧品」のCMといえば、かのフレディ・マーキュリーのI Was Born To Love Youが使われていてものすごく印象的でしたが、そういえば最近は洋楽の新しい曲を使ったCMってほとんどなくなったなあ、と。


 5曲目Ricochet

 リズムが複雑で、微妙にジャズっぽいサウンド、もしくはファンク、ヴォーカルはその音の隙間を縫って進むような不思議な感覚の曲。 

 グラムロック的な単語でこの音という取り合わせが面白い。

 ところでこれ、"Turn the holy pictures"という部分が「ちゃあんと放れピッチャー」という空耳として「空耳アワー」で紹介されていたっけ。

 それで思い出したけど、Modern Loveにも空耳があったような、でも忘れてしまいました。


 6曲目Criminal World

 ボウイらしく迫って来るような響きの曲だけど、ナイル・ロジャースのサウンドは間が多いのか、以前のように圧迫されるような感じでもない。

 歌メロがなんとなくつかみにくくて、特にシングルとしてヒットした最初の3曲と同じアルバムにあるだけ余計にそう感じます。

 と思ってブックレットを見ると、これのみボウイが関与していない外部の曲でした。


 7曲目Cat People

 映画『キャット・ピープル』のサントラに提供した曲を自らリメイクしたもので、歌詞をボウイが、曲をジョルジオ・モロダーが書いています。

 ジョルジオ・モロダーもドナ・サマーからリマールまで、時代の人だった。

 ボウイも80年代は映画絡みの仕事が多かったですね、自ら出演し歌も歌った『ラビリンス』『ビギナーズ』などなど。


 8曲目Shake It

 ”Let's Dance”の最後が"Shake It"、結局はダンスアルバムなんだな。

 跳ねたリズムに切れのいいギターのカッティング、モータウンを彷彿とさせる女性コーラスの変わった響き、ソウル・ファンク風の曲。

 アルバムの流れとしては、なんとなく終わってしまい、ずしんと響くものがないといえばない。

 でも、ダンスアルバムなんだから、楽しく終わればそれでいい、ということか。


 

 名曲が3曲も入っているだけでも価値は高いけれど、でも全体としては軽く流して楽しむアルバムかな。

 それがボウイらしくないといえばそうなのかもしれないけれど、そもそもタイトルがボウイにしてはありきたりすぎる言葉だから、やはりそれでいいのかな、と。

 

 ただ、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが参加していることは、今となっては意味や価値が大きいでしょうね。

 彼は当時、売れ始めた頃で、このすぐ後にかのTEXAS FLOODをリリース。

 ボウイとSRVのつながりは、この前年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルへの出演がきかっけで、そこにはジャクソン・ブラウンもいたことで、このアルバムの録音はジャクソン・ブラウンのスタジオで行われた、とはWikipediaより。

 そうか、ジャクソン・ブラウンともつながってくるのか、それはうれしい。

 

 最後に、このジャケットのボウイは人形だとずっと思っていましたが、どうやら本人の写真のようで。

 ダンスといいながらボクシングというのは、考えてみれば不思議だけど、ダンスは身を寄せて和やかなようで、実は心と心の戦い、ということを言いたいのかな。


 というわけで、「ベストヒットUSA」を見続ける限り、またいつでも1980年代に戻って行きそうです(笑)。