◎FRAGILE
▼こわれもの
☆Yes
★イエス
released in 1971
CD-0386 2013/4/6
イエス4枚目のアルバム。
僕の世代であれば、イエス初体験はおそらく1983年、「再生イエス」のあの曲という人が多いのではないかと。
もちろん僕もそう、名前を知ったのもその時。
その後、アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウや、1991年の「豪華再結成」イエスなどは聴いていたけれど、僕が過去のイエスを初めて買って聴いたのはそれからのこと。
東京にいた頃、仕事帰りによく秋葉原の石丸電気やヤマギワでCDを見ていましたが、そこでふと、きれいな青い絵のジャケットのCDが目に入り、Remasterという文字を見つけ手に取りました。
それがこのアルバム。
リマスター盤をきっかけに聴き始めるのは、僕には多い、というよりむしろ基本ともいえる行動です。
そしてこの場合は「ジャケット買い」の要素も多少ありますね。
プログレといえば、「長い、小難しい」というイメージがあり、僕も若い頃はまさにそうでした。
しかし実際に聴いてみて、イエスの場合、ひとつの長い曲を作っているというのではなく、短い曲を幾つもつなぎ合わせてひとつにまとめている、という感じを強く受けました。
その「短い曲」=パーツのひとつひとつがとにかくポップで楽しいものばかりだから、実際には4、5曲のアルバムでも、10曲くらい入ったアルバムを聴くのとあまり変わらないような気分になります。
ただ、このアルバムは実際に9曲入っていて、イエスとしては曲の数が多いアルバムではあります。
アルバムの流れとしては普通の長さの1、4、6、9曲目が核となり、間にメンバー5人が1曲ずつそれぞれの個性を生かした「小品」を散らすという作りになっていて、くっつけるところをくっつけていないと解釈すればいいのかな。
ただ、僕は最初に聴いた時は、その「小品」が多いのには何か中途半端なイメージを持ちました。
しかし、聴いてゆくうちに「小品」の良さが分かってきて、そうなると僕の中ではぐっと存在感が大きいアルバムになりました。
イエスは「即興」的な感覚が希薄で、十分練られたものをレコードの音に残していることが感じられます。
しかし一方、多重録音で音を作り込んでいるという感じでもなく、まさにバンドの音であって、演奏のスリリングさはバンドならではのものであるでしょう。
練られた部分とスリリングさという、一見すると両立が難しい要素を、超人的なテクニックとセンスをもって成り立たせているのが、イエスというバンドの魅力でしょう。
ジョン・アンダーソン、ちょっとハスキーでクリアなハイトーンヴォイスは、僕が特に声が好きなヴォーカリストのひとり。
スティーヴ・ハウのギターは印象に残りやすいフレーズが次々と出てくるのが楽しい。
ちなみに、うちの犬、ラブのほうのハウは、ジョン・レノンの曲Howとスティーヴ・ハウから名前をいただいており、英語では"Howe"と綴る、それくらい、音楽以上にキャラクターとして好きなギタリスト。
クリス・スクワイアのベースはファンキーでグルーヴ感あふれるものであり、プログレ=硬いというイメージとは一線を画する楽しさを下支えしています。
リッケンバッカーのベースの、重たくて腰が強く粘りがあってアタックが強いという音の特性を最もうまく引き出しているベーシストだと思う。
リック・ウェイクマンは「陽気な妖怪」。
インタビューでは、ひとつの質問で30分くらい喋っているというくらいのお喋り好きで楽しそう。
あ、僕はキーボードは弾けないのでプレイがどうとは言えないのですが・・・
ビル・ブラッフォードは「地味な目立ちたがり屋」。
あ、同じくドラムスは演奏できないのでテクニック的なことは言えないのが申し訳ないですが、でも、ロックとは少し次元が違ううまさがある人だとは感じています。
キャラとしても最高の人たちの集まり、それがイエスの魅力でもありますね。
1曲目Roundabout
まだイエスを聴いたことがなかった大学時代、イエスの代表的ヒット曲はこれだと知りましたが、実際に聴いて、正直、これがヒットしたの、と半分くらい「?」でした。
最初のフェイドインしてくるゆがんだキーボードの音を受けてギターのハーモニクス音が残り、優しげな旋律が続く部分は、取り散らかったいろいろな音をまとめて整理して始めるよう。
その後ベースがうなりながらドライブ感が増し、ジョンの透明感ある声が旋律を紡ぎ出し、ポップな歌が進む、と思ったところでいきなり静かになったりと、それまでの「ヒット曲」に慣れた身には、一本調子でいかない流れがとても新鮮であり、だからヒットしたと聞いて「?」でした。
曲はその後、各メンバーが手の内を少しずつ披露するようにいろいろ楽しい音やフレーズが飛び交う。
最後、厚みのあるコーラスで盛り上げた後、出だしをなぞりギター1本に収束して静かに終わる。
このエンディングは、アルバムの、バンドの魅力を表す上でも最高で、もしフェイドアウトしていたら魅力は1/3になっていたと思います。
プログレとくくってしまうと見落とされがちになるのが、この曲に現れているようなクリスに引っ張られるグルーヴ感。
体が勝手に動くし、歌メロもよくて口ずさめるし、ほんと最高の曲。
やっぱり、イエスの魅力を1曲で紹介するとなるとこの曲でしょう。
ところで、この曲を最初に聴いた時は、"roundabout"の意味を知らず、ただ単に散歩することかなと思っていたところ、数年後に林望さんの本を読んで、それが何かを知りました(笑)。
「円形交差点」のことですが、でもよく考えるとロックお得意のダブルミーニングなのでしょう。
2曲目Cans And Brahms
ブラームス交響曲第4番第3楽章を、リック・ウェイクマンがピアノで軽やかに弾きこなす。
ブラームス交響曲第4番は、僕が最も好きな交響曲の1つですが、その中でも親しみやすい旋律を持ったこの楽章を取り上げたこれは大好きで、「てってれれっててんて」などと口ずさみます(笑)。
3曲目We Have Heaven
ジョン・アンダーソンの好みが強く出たフォーク/トラッド路線の小品。
実際に、僕が大好きなジョン・アンダーソンのソロアルバム「七つの詩」はこの手の曲が中心。
妙なリズム感、なんだか字余りな旋律の歌、不思議なコーラスに、鋭くエレクトリックギターが切れ込んでくる。
同じ旋律を繰り返すだけで、どうしていいか分からなくなったところを最後はドアを閉めて強制終了(笑)。
4曲目South Side Of The Sky
ギターとベースの「生の音」の魅力を存分に味わえる曲。
なんだかぶつぶついうようなギターのバッキングだけでも聴き惚れてしまう。
Bメロではギターがリフ的に展開し、それに合わせて曲がぐるぐる回るような錯覚に。
中間部ではピアノもドラムスも主張しているし、この曲は「小さな部品」を集めて作ったイエスの曲の魅力がよく理解でき伝わってくる曲でしょう。
歌メロがとてもいいんだけど、全体的になんとなぁくほの暗い感じがする不思議な、でもポップな曲。
5曲目Five Per Cent For Nothing
ビル・ブラッフォードが「作った」30秒ほどのつなぎ曲
ビルが叩くドラムスに他のメンバーが適当に音を出して合わせて遊んでみよう、という感じかな。
めまいがしそうなくらいめまぐるしい演奏の嵐が突然終わります。
6曲目Long Distance Runaround
音が跳ねているギターのイントロが印象的であり、歌メロが気持ちがよくて思わず口ずさんでしまう佳曲。
刻むようなビルのドラムスにジョンの声が小気味よく乗っていているのが心地よい。
スティーヴ・ハウのエレクトリック・ギターも軽やかに、曲全体を撫でるように気持ちよく鳴り続けています。
それにしてもこの曲は歌メロがよく、初めて聴いた時に、こんなに歌メロがいい曲を書くバンドだったんだって、いい方に期待が裏切られました。
7曲目The Fish (Schindleria Praematurus)
今度はクリス・スクワイヤーのベースサウンド。
彼は教会音楽を聴いて育ったということもあって、スクワイヤでクワイヤかとダジャレをよく言ったもんですが、ここでは落ち着いた雰囲気を醸し出し、さらにアルバムの、バンドの表情を豊かにしています。
ただしこれ、最近までずっと、前の曲のエンディング部分が長いのだと思っていましたが・・・(笑)。
8曲目Mood For A Day
スティーヴ・ハウによる、ラテン風の味わいもあるギター独演会。
これは素晴らしい!
ここまでは、メンバーの「ソロ」曲には「小品」と書いてきていますが、ごめんなさい、これは「小品」ではもったいない充実した曲で、イエスの代表曲のひとつに数えてもいいくらい。
9曲目Heart Of The Sunrise
僕がイエスでいちばん好きな曲はこれ!
激しく突っ走るけど決して暴力的じゃないスティーヴのギターリフ。
それにぴったりとくっつくビルのドラムスは、支えるというよりはギターと張り合うというか、ギターより目立ってやれという勢いで、旋律さえ奏でかねない勢い、こんなドラムス聴いたことがない。
しかし曲はすぐにスローダウンし、ベースが体制を整え直し、そしてまた堰を切ったように激しいギターリフの応酬。
ようやく始まったジョンの歌は、まさに透き通るようにきれいな声、そこだけ取ると厳かな教会風。
最後でやはり、各人の演奏展覧会の様相を呈しますが、普通の人たちがこんなことをやると、ただ取り散らかっただけのどこをどう聴いていいのか分からないような曲になるでしょうけど、当時の彼らの異様な創作意欲と包容力がぴしっとまとまった素晴らしい曲に仕立て上げています。
むしろ、だからこそ鋭い曲になっている。
それにしてもこの高揚感はなんだろう!
こんな楽しい曲があっていいのか!
しかも優しい曲。
映画『バッファロー'66』のクライマックスでとても印象的な使われ方をしていますが、この曲だったからこそ、「救い」があり、そして「ハート」にまつわる心温かいラストシーンにつながっていったのでしょう。
僕は、ギターを買うのに試奏させてもらった時に、このイントロを弾いて、店員さんに笑われた(引かれた???)ことがありました。
そしてやっぱり、このアルバムはほんとにベースの音が素晴らしい。
曲が終わったと思ったところで最後にまたドアを開けて3曲目が再び始まり、「能天気」な雰囲気のもと、フェイドアウトしてアルバムは終わり。
リプライズとして同じ曲やその旋律が再び出てくるのは、たまたま前回のビリー・ジョエルのTHE STRANGERもそうでしたが、トータル性も意識したアルバム作りの常套手段。
なんだか明るくて優しいアルバムを聴いたなあ、という感慨にひたります。
現在のリマスター・リイシュー盤は2曲のボーナストラック入り。
10曲目America
サイモン&ガーファンクルまでもプログレにしてしまった(笑)。
わざわざこの曲を取り上げているのは、やはりアメリカ市場を意識していたのかな。
ただ、ジョン・アンダーソンがあの声でPittsburghなんて言うのは、微妙に違和感がないでもない(笑)。
音楽としてはかなりいい出来ですけどね。
11曲目Roundabout
これは"Early Rough Mix"。
イエスのアートワークは、一時期を除き一貫してロジャー・ディーンが担当していますが、CDでは物足りなく、ジャケット欲しさに中古LPを何枚も買っています。
そのアートワークで描かれている、地球が「こわれもの」であるというコンセプト、エコ時代を迎えた今そしてこれからは、ますます大切にしたいアルバムかもしれない。
「こわれもの」というタイトルは、エゴをぶつけ合いつつ、ぎりぎりの平衡感覚を持ってアルバムを作り上げたという意識からきたものでしょうか、それを地球になぞらえて表現したダブルミーニングも素晴らしい。
ただ、少なくともこのアルバムでは、どろどろしたものをほぼまったく感じない。
むしろ、それだけのどでかいエゴをさらに包み込んでしまう間離れした寛容さや包容力を感じます。
ただ、エゴのぶつかり合いはこの後さらにエスカレートし、次のアルバムのタイトルは「危機」を迎え・・・
それにしても、緊張感を微塵も感じさせない、聴く人を楽しませ、安らぎすら与えるイエスというバンドは、エンターテイメントとしての音楽を作る人たちの中でも、プロ中のプロという感じがします。
最後にどうでもいい余談。
僕はYesを日本語のカタカナでイエスと書くと、得も言われぬもどかしさを感じます。
日本語の「や行」には「え」の段の音を表す文字がないですよね。
だから"ye"を「イエ」としか表せない、そこがもどかしいのです。
ただし、このバンド以外の他の意味での"yes"ではそれを感じないのは、自分でも不思議なのですが(笑)。