ICE PICKIN' アルバート・コリンズ | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-March04AlbertCollinsIce


◎ICE PICKIN'

▼アイス・ピッキン

☆Albert Collins

★アルバート・コリンズ

released in 1978

CD-0370 2013/3/4


 ブルーズが続いて、今日はアルバート・コリンズいきます。


 アルバート・コリンズは、僕にとってのブルーズの基本、ゲイリー・ムーアのSTILL GOT THE BLUESに参加していたことで知り、直後に出たアルバムを買って聴いたのですが、そのCDが友だちに貸したまま・・・というよくある話になっていまい、それ以来ずっと聴いていない人でした。


 一昨年からブルーズを普通に聴くようになったので、となると当然通る道、そろそろ何か聴いてみたくなりました。


 このアルバムを選んだのは、アルバムタイトルとジャケットが楽しいから。


 アルバート・コリンズはその激しく切り刻むギタープレイのスタイルから「アイスマン」「アイスピック」と呼ばれていたそうですが、これは自らそれを茶化したもの。


 タイトルは、氷を砕く「アイスピック」とギターのピッキングをかけたものでしょう。


 ジャケット写真、夜明けの街角でテレキャスターを弾くアルバート・コリンズ、ギターのシールドが繋がれているのは一塊の氷、その中が赤く燃え上がっている。

 洒落ていて秀逸なアートワークですね。


 でも、それは、僕がブルーズを聴く前に漠然と思っていたブルーズのイメージとは違う、都会的な洗練されたイメージがありますが、それは、ブルーズはブルーズでモダン化していったということなのでしょうね。


 このアルバムは彼の代表作、大傑作と評される1枚だそうですが、なるほど、内容はとても充実しています。


 アルバート・コリンズは、CDの写真などを見ると、「ガハハッ」という人かな。

 細かいことは気にしない、豪放磊落、世の中をちょっと小ばかにして見ているような、でも憎めない、冷静な狂気・・・

 器の大きな人間という感じが僕にはあります、あくまでも写真と音楽からの想像ですが。


 このアルバムでもそんな人間的な魅力に触れられますが、面白いのは、最初はおとなしく、普通に振る舞っているのが、だんだんと本性を現してくるところです。

 あれっ、こんな人だったの、が、ああやっぱりこういう人だったか、となります(笑)。


 アルバート・コリンズのヴォーカルはいわゆるブルーズらしいものといえるかな、あまりしゃがれ声ではないけれど、美声という感じでもなく、聴きやすくてかつ印象に残りやすい声ですね。



 1曲目Honey, Hush! (Talking Woman Blues)

 ロゥウェル・フルソンの曲ということですが、僕が持っていたアルバート・コリンズのイメージは、ちょっと跳ねたリズム、でした。

 アップテンポのこの曲もそんなリズムにのり、アルバム最初にはふさわしい曲。

 ギタープレイはまだカッティング中心で落ち着いています。


 2曲目When the Welfare Turns Its Back on You

 続いて12/8のオーソドックスなスタイル、でもやっぱりリズムは跳ねている。

 このアルバムは録音の音がいいですね、テレキャスターの魅力もうまく引き出されています。

 そのギタープレイ、ギターソロは、確かに泣きというよりは鞭で打つ感じ。

 まあ、テレキャスターということでハムバッキングではないので、そういうプレイになるのでしょうけど、だからギターの特性に合ったプレイということになりますね。

 

 3曲目Ice Pickin'

 アイスピック刺しまくりのインストゥロメンタル曲。

 ただ、意外とというかおとなしくて攻撃性が低い聴きやすい曲になっています。


 4曲目Cold, Cold Feeling

 マイナー調のブルーズのバラードのスタイルで、この手の曲ではあまり感情が入り込まない歌い方。

 声質がさらっとしていないのでさらっとは聴こえないのだけど。

 それにしても、カヴァー曲も"cold"にこだわるのはさすが。

 ただ、アルバムとしてみれば、まだこの辺は普通に装っている感じで、意外なほどオーソドックスともいえます。


 5曲目Too Tired

 ゲイリー・ムーアに自ら客演したのがこの曲。

 ゲイリーのヴァージョンではイントロのこちょこちょとくすぐるようなギターリフをゲイリーとアルバートが交互に弾くものですが、こちらは2回目はオルガンがその音をなぞって続いています。

 それはそれでいいんだけど、やっぱり僕はギターの応酬のほうが好きですね。

 ちなみに、ゲイリーのを聴くと、同じ音を続けて弾いているので、レス・ポールとテレキャスターの音の違いがよく判ります。

 これは曲自体もモダンな響きになっていますが、明るく楽しくホップする曲調のせいか、アルバート・コリンズが、そろそろ本性を現してしまいそう、我慢の限界、という感じがしてなりません。


 6曲目Master Charge

 ミドルテンポのこの曲、途中から何度か、カマトト声、というのはもう死語か(笑)、裏声で寸劇風に歌うのが、ああついにきたきた、と思うところ。

 ここから断然面白くなっていきますよ。

 それまでがつまらないというのではなく、おもしろい、の意味が変わってくるということです、念のため。


 7曲目Conversation With Collins

 スロウに落としてまた12/8のオーソドックスな曲調、だけど、ラップのように語り始めて、もはや心が氷のささくれ立ちに覆われているのが分かる(笑)。

 途中で"Say yeah!"といったところでバックも呼応してまるでライヴの感覚。

 なんというか怪しい響きの曲で、もさもさと、のたっと、いつ終わるんだろうという感じで曲が続いていくのだけど、でもだらだらとやっている感じはしなくて、いつしか心が引きずり込まれます。

 ギターも、イントロで多分右手で弦をミュートして弾いたり、7分過ぎに低音弦を擦るように弾いて人間の声のようなニュアンスの音を出したり、本人のみならずテレキャスターも悪乗りしてきたかぁ(笑)。

 「コリンズとの会話」、まさにその通り。


 8曲目Avalanche

 アルバム最後はジャンプナンバー、というのか、多分そうだと思う、アップテンポのまるでトビウオのようぬい生きがいいインストゥロメンタル曲。

 圧巻は、1'12"の辺りからおよそ18秒間、12小節まるまる、このギターが出せる一番高い音である1弦21フレットをチョーキングした音を3連符で延々と弾き続けるところ。

 まるでアイスを急いで食べて頭の中が冷たくなる、あの感覚。

 この衝撃、さすがは「アイスマン」。

 聴き終わると、心にアイスピックの穴があきまくっているのを感じることでしょう(笑)。


 

 LPでいうA面のオーソドックスさ、もちろん狂気が潜んでいるのは感じる、それに対してB面の攻撃性の対比が面白いアルバム。

 これはきっと意図したものだと思うけれど、B面がアルバート・コリンズの本分だとわかってしまうと、A面の借りてきた猫状態がおかしく感じられ、つまり聴きこんでゆくと聴こえ方が違ってくるのも面白い。

 

 それゆえ、これも買ってからもう一月以上ずっとCDプレイヤーに入り続けていて、まだまだ飽きずに聴き続けています。

 もちろんそれが可能なのは、もう音楽は基本それしかないんだけど、曲がいいから。


 ブルーズはシンプルなようで奥が深いというのは、ほんとうですね。

 僕も漸く、それが感じられるようなってきました。


 このアルバムはまだまだ聴いてゆくかな、CDの向こうから「ガハハッ」と言われようとも(笑)。