LIVE ダニー・ハサウェイ | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Dec08DonnyHathawayLive

◎Live

▼ライヴ

☆Donny Hathaway

★ダニー・ハサウェイ

released in 1972

CD-0325 2012/12/8

 

 ダニー・ハサウェイのこのライヴ盤は、ライヴの名盤中の超名盤。

 

 

 ライヴアルバムは、どこまでコンサート会場の雰囲気を再現できるのだろう。

 

 いや、再現は無理だとしても、どこまで聴き手が会場の雰囲気を感じ取り、或いは想像できるものだろう。

 

 コンサートに行ったことがある人であれば、大なり小なりそれは思うことでしょう。

 

 特に、自分が行ったコンサートと同じツアーの音源のライヴ盤を聴けば、体験としてのコンサートと商品としてのライヴ盤の違いが分かるはず。

 

 ダニー・ハサウェイのこのライヴは、僕が今まで聴いたライヴ盤の中では、会場の雰囲気を最もよく伝えている、いや、容易に想像できるライヴ盤だと思います。

 

 

 しかし、このアルバムに収められた曲は、1回のコンサートの音源のものではなく、ハリウッドのThe TroubadourとニューヨークのThe Bitter Endで録音されたものからとられたテイクで成り立っています。

 

 だから実際はコンサートの実況ではなく、やっぱり商品としてのレコードとして作られたものではあるのです。

 

 でも、やっぱり、臨場感が違う。

 音のミックスがそうさせるのかな。

 正直言えば音がとってもいいというわけではないんだけど、ダニーの歌とバックの演奏のバランスが自然で、作っているという感じがあまりしません。

 臨場感プラス、演奏者が本気でかつ楽しみながら演奏しているその気持ちも、音と音の間に刻み込まれているようにすら感じます。

 

 つまり、音楽以上のものを想像させる。

 

 そういう点で、このアルバムは秀でているライヴ盤だと思います。

 

 

 全部で8曲。

 

 

 2曲目The Ghetto、8曲目Voices Inside (Everything Is Everything)と、LPの各面に1曲ずつ、自作(共作)の10分以上ある曲があります。

 当然のことながら演奏を聴かせる部分が長いのですが、R&Bがソウルにもジャズにもつながっていることがわかる、ジャズのライヴのような雰囲気があります。

 なお、5曲目以降のギターはコーネル・デュプリーが演奏しています。

 

 他、3曲目Hey Girl、5曲目Little Ghetto Boy、6曲目We're Still Friendsはここでしか聴いたことがない曲ですが、正直言えば、ダニーの曲は歌としてはとっつきにくい。

 

 以前、ダニー・ハサウェイのボックスセットを記事にしましたが 、そこで僕は、ダニーの音楽は高尚だ、ということを書きました。

 理解して歌おうとすると僕にはかなり難しくて分からない、分からないけど、でもそういう音楽を聴けるのはいいなという思いを抱く、そんな音楽だと。

 でも、硬いこと言わず、音楽に身を任せるだけで、気持ちがいい音楽が聴こえてくるのは確かです。

 僕としてはしかし、あまりにも有名な3曲のカヴァー曲、これがあるからこそ、なおのことこのライヴアルバムには大きな意味と価値があるのです。

 

 1曲目What's Goin' On、言わずと知れたマーヴィン・ゲイの曲ですね。

 

 1970年代前半、ダニー・ハサウェイは、マーヴィン・ゲイとともに「ニューソウル」と言われていましたが、それまでただの歌手でしかなかったマーヴィンが、ベトナム戦争問題に絡んだメッセージソングを歌いしかもヒットさせたことに共感を得たのでしょうね。

 そして自分もやってみようと。

  ただ、ダニーの音楽が高尚であることのひとつはメッセージ性の高さにあるのでしょうけど、ダニーは噛み砕いて伝えるというよりは、聴き手に少し考えてほしいという姿勢だったのかもしれません。

 ところでこの曲は、今であれば手垢にまみれてカヴァーするのも気が引けるし聴き手も引いてしまうということがあるかもしれない。

 けれど、ダニーは逆にオリジナルがリリースされてあまり時間が経っていない頃に歌っているところがかえって新鮮で、かつ、本気度を感じます。

 まあしかし、後の時代にCDで聴くと同じに感じるかもしれないけれど、でもやはり、そこは時代のなせるわざでしょう。

 

 7曲目Jealous Guy、ジョン・レノンの姪バラード。

 

 ホンキートンク調の素っ頓狂ともいえる高い音のピアノで始まり、ダニーは、軽く、しかし言葉を選ぶようにしっかりと歌う。
 2番以降で歌メロを崩すと、思いのほか本格的なソウルに。
 まあ、ソウルは曲は関係ないですからね、あくまでも歌い手の心。
 3分ほどであっさりと歌うのですが、こちらもジョンのオリジナルが出てからすぐに自分のものにしているところに、ダニーの思いを感じます。
 音楽を通して人間としての理想を求めてゆきたいという思い。

 ただこの曲は、このライヴ盤においては、最後の長尺物の前の序奏という感じで、あまり深刻ではなくさらりと歌っている。

 でも、やっぱり、その歌は本物、素晴らしい。

 

 そしてこのアルバム最大の、ひいては世の中のすべてのライヴアルバムの中でも特筆すべき聴きものが、4曲目You've Got A Friend。

 

 ライヴテイクとしてこれほど感動する曲が他にあるだろうか。

 これはほんとうに涙が出てきます。

 ダニーの歌への思いに呼応して会場みんなで合唱する、その人々の顔までが想像できるようなリアルな音。

 これもJTがヒットさせてあまり間を置かずに歌われていますが、ヒット曲だから歌うという以上に、会場の人々の連帯感、平和を願いたい心を感じずにはいられない。

 会場で一緒になるまでは名前すら知らない人たちの連帯感、人が人を思うことの素晴らしさが、"Friend"という単語に象徴されまとまられていて、人の気持ちまでもが動く。

 実際問題としては、10人の職場でもソリが合わない人がいるくらいだから、百の単位で人が集まるライヴの会場には絶対に友だちになりたくない人が少なからずいるはず。

 なんて現実的な突っ込みを無視させるくらい、歌を通して理想に向かおうとするダニーの姿にも感銘を受け、尊敬の念を抱くものです。

 このライヴテイクは、聴いている時はもちろん、時々、この曲の事を思い出して涙ぐみそうになるくらい。

 レコードでここまで感動する曲は、ちょっとない。

 

 

 ダニー・ハサウェイは、誠実で真っ直ぐすぎて融通が利かない人だったのかもしれない。

 

 

 音楽に対しても、人に対しても、そして世の中に対しても。

 このライヴは、そんなダニーの誠実さも伝わってきます。

 

 しかし一方、その誠実さが、自ら命を落とすということにつながったのかもしれない。

 そう思うと余計にこのアルバムには心が動かされます、時にはよくない方向に。

 ここにも収められたWe're Still Friendsは、真の友だちであったロバータ・フラックと一緒に作った曲ですが、その思いが強すぎたのかもしれない。

 もちろん、ロバータが裏切ったという意味ではありません、念のため、一般的に言ってのことです。

 

 

 このライヴアルバムは、僕にはあまりにも重たくて大きな意味を持つものだから、頻繁に聴く気になれません。

 時々、正座する気持ちになって構えて聴くアルバムであり、ただ流しておいたり、車の中で聴いたりができないアルバムです。 

 今日も、記事を上げるために1度しか聴きませんでした。

 

 ただしもちろんそれはあくまでも僕が感じることだから、純粋に音楽として接すると、演奏は素晴らしい、歌も素晴らしい、曲もいい、かけておくととっても気持ちがいいCDには違いありません。 

 

 

 だから、自分で言っておきながらこういうのもなんですが、興味を持たれたかたは、構えずに一度聴いてみてくださればと思います。

 

 そこには、純粋な音楽の力があるはずです。

 

 

 

 

 

 

 今日は12月8日。

 

 

 ジョン・レノンの日ですね。

 日本風にいえば、もう三十三回忌になるんですね。

 

 このアルバムを今日取り上げたのは、もちろん、ジョンへの思いもあります。