SPECTRES ブルー・オイスター・カルト | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Nov17BlueOysterCult


◎SPECTRES

▼スペクターズ

☆Blue Oyster Cult

★ブルー・オイスター・カルト

released in 1977

CD-0313 2012/11/17

 ブルー・オイスター・カルト5枚目のアルバムを今日は記事にします。

 前回の記事で話題にしたVH1 100 Great Hard Rock Songs関係でもう1枚、ということで。

 

 番組を見て久しぶりに聴いてよく思い浮かべて口ずさんでいるのが、55位のブルー・オイスター・カルトのDon't Fear The Reaperでした。

 BOCはやっぱり選ばれたか、選ばれるならやっぱりその曲か、意外と上の方だなと思いながら見ているうちに、あの不気味なサビが頭にこびりつき、なるべく不気味に口ずさもうとしている自分に気づきました(笑)。

 その曲は今回取り上げるアルバムには入っていませんが、こちらにはもう1曲の彼らの代表的な曲が入っています。


 その後で、やまももさんも記事でBOCに触れていて、これはいい偶然、きっとBOCが呼んでいると(笑)。


 ブルー・オイスター・カルト。 

 ロックを聴く人の間で、名前は結構知られているでしょうけど、でもほんとに名前だけかも。

 

 なんといってもバンド名が変わっていますよね。

 「青い牡蠣の崇拝」、なんじゃそりゃ?
 調べてみると、"blue oyster"には俗語で「インテリの、陰気な」という意味があり、また"oyster"だけだと「口が固い人」の意味があるそうです。

 なるほど、バンドのイメージにつながってゆく。

 ちなみに僕は、カキフライと味噌カキ鍋(後でうどん投入)とカキの白ワイン蒸しが好きです(笑)。


 どんな音楽!?
 ブルー・オイスター・カルトは、アメリカ版パブ・ロックという趣きでしょうか。
 ただ、フェイセズなどのように「ゴキゲンな」という感じでもなく、バンド名のごとく陰があり、「カルト的なロックマニアが集まったパブのライヴバンド」みたいな感じ。
 赤っぽい照明の暗いパブに集まるこのジャケット写真がまさに表しているところです。


 もっといえば、「ロック愛好会の地下組織」みたいなもの。

 どこか後ろめたい雰囲気を抱えていて、ブルー・オイスター・カルトが好きですと人前で言うのは恥ずかしい、勇気がいる、できれば隠しておきたい・・・
 アマチュア的な感触が残っていて、仲間を大切にし、隠れてロックで楽しもう、みたいな感じ。
 ほんとに、好きな人は好き、以上の存在ではなく、大ヒットしたという話は聞いていません(中小ヒットはしましたが)。

 

 ここに書いたのは前から思っていたことですが、100ハードロックを見た時、まさにその通りに紹介されていていささか驚きましたが、でも、きっと多くの人が彼らの音楽からそんな雰囲気を感じとれるという思いをあらたにしました。

 

 音楽をもう少し詳しくみると、自らを「インテリ」と名乗るだけあって、ロックのいろいろな要素を体で知っていて、消化が良い音楽という感じが強くします。
 基本はブルーズなのは分かるんだけど、ルーツ丸見えという音楽でもなく、感覚的にはいくばくかのポップさを持っています。
 演奏も、テクニシャンというよりは、音楽に合わせてそつなくこなしつつ表情をつけています。


 しかしそれは、裏を返せば「器用貧乏」。
 特徴が出しにくい、悪くはないけどどれをとっても75点、強力な個性や押しがない、ともいえます。

 「地下組織」のノリなので、内輪で楽しくやれればそれでいい、というところでしょうか。



 このバンドには、結構有名な面白いエピソードが2つあります。
 

 ひとつは、「ヘヴィメタル」という言葉が初めて使われたバンド。

 ローリング・ストーン誌の記者が、彼らの音楽を聴いて、「ヘヴィメタル」という表現を用いたものだそうですが、それがウイリアム・バロウズの言葉であるのは、やまももさんの記事で僕も知りました。

 

 しかし、ここでいう「ヘヴィメタル」とは、現在の一般的なイメージではなく、「内向的で重くて手触りがゴリゴリした金属的な響きの音楽」という感じではないかと。
 ただ、「内向的」というのは、現在の「ヘヴィメタル」と共通する要素ではありますが。
 「ヘヴィメタル」はこの10年後にブームとなりポップな存在になりましたが、そういう華やかさ、あでやかさ、派手さもありません。

 

 余談、件のハードロック100曲においては、53位にランクインしていたステッペンウルフのBorn To Be Wildに、"Heavy metal thunder"という歌詞があり、それがロックにおいて「ヘヴィメタル」という言葉が使われた最初の曲として紹介されていました。



 もうひとつは、チープ・トリックとの関係。


 ちょうどこのアルバムの頃、チープ・トリックは、ブルー・オイスター・カルトのアメリカのコンサートツアーで前座をしていましたが、チープ・トリックは既に日本では人気に火がつき始めていて、日本の記者が、彼らのコンサートの取材に訪れました。
 しかし日本の記者は、前座だけ取材して帰ってしまい、BOCは怒った(あきれた)という話。


 チープ・トリックが出てきたところでついでに引き合いに出しますが、僕は、BOCには、日本で人気が出る要素の多くが欠けていると考えています。

 BOCはこんなバンド、というのを箇条書きにすると

・ヴォーカルの声に魅力がない(・・・一般論として)
・メンバーにハンサムな人がいない(・・・一般論として)
・歌メロが特にいいわけでもない(・・・一般論として)

 歌は、下手じゃないけど、特徴がないし、ルックスは、普通の、というよりむさくるしいお兄さんだし、おまけに歌メロも、僕は最初はつかみにくかったです。


 BOCはあくまでも「カルト」なのです。

 彼らのファンを想像すると、週1回の「ミサ」のようなパブでのライヴにせっせと通うロックマニア、という姿が浮かび上がってきます。



 1曲目Godzilla

 なぜこのアルバムにしたか、もちろんこの曲があるから。

 「ゴジラ」のこんな歌を作ってしまうくらい、彼らは「カルト」なのです(笑)。
 彼らにしてはメロディの分かりやすい、キャッチーな曲ですが、特筆すべきは、中間部の日本語のナレーション。
 リンジニュースヲモウシアゲマス
 リンジニュースヲモウシアゲマス
 ゴジラガギンザホウメンニムカッテイマス
 ダイシキュウヒナンシテクダサイ
 ダイシキュウヒナンシテクダサイ
 映画のナレーションを模したものですが、どうやら、メンバーが自分たちで日本語で話して吹き込んでいるようなのです。
 もちろんその発音は明らかに日本人ではないとわかりますが、日本に3年くらいいた外国人並に発音がうまくて読みが滑らかで、僕は驚いてしまいました。
 この台詞自体もオリジナルのようで、映画「ゴジラ」を見たところ、まったくその通りのものはなかった。
 メンバーに日本語が分かる人がいるのかもしれないけれど、この台詞だけでもかなり労力をかけている曲でもあるのでしょう。

 でも、この曲、なんとなぁくですが、「ゴジラよ日本なんて潰してしまえ、いぇい、いぇい」という感じで、チープ・トリックの件の恨みを晴らしたいのかな、と、邪推もしてしまいます(笑)。

 声が途中でゆがんだり、とにかく変な曲で、まさにカルト的でマニアックな名曲といえるでしょうね。


 2曲目Golden Age Of Leather
 前曲がGodzillaと言ったあとスパッと終わったのを受け、賛美歌のようなコーラスで始まる、このつなぎが秀逸。
 曲は「ウェストコースト・サウンドになり切れなかった」風の、軽快だけどどこか粘ついてフットワークが重い、でもアップテンポでポップな曲。


 3曲目Death Valley Nights
 バラードですね、どう聴いてもバラード。
 サビのメロディと男臭いコーラスが、哀愁を感じます。


 4曲目Searchin' For Celine
 刑事ドラマのテーマ曲みたいな感じの急いた曲。
 まあ、タイトルからしてその通りかもしれないですが・・・


 5曲目Fireworks
 歌メロが特によくないという最初の印象も、よく聴いてゆくと、そんなことはないと、特にこの曲で思いました。
 といってやっぱり、うねうねしたスカッとはしない歌メロですが(笑)。
 ちょっとノスタルジックな音楽世界、いい雰囲気ではあります。


 6曲目R.U.Ready 2 Rock
 これぞ「ロック地下組織」のテーマ曲!
 "Are you ready to rock Yes, I am"という掛け合いコーラスが、楽しげだけど妙に力が抜けていて、群衆に訴えかけるというよりは、やっぱり内にこもった、引いた感じの響き。
 でも、曲の展開はいいし、何かほっとする曲。
 タイトルのAre=R、You=U、To=2と表すのはプリンスがよくやっていましたが、そんなクールさも忍ばせているのは今でも支持される部分のひとつかもしれない。
 ところで僕は、BOCの音楽的背景や思想などにビーチ・ボーイズとの共通点のようなものを見出しました。
 ビーチ・ボーイズが「日向」で、BOCが「日陰」、でもやっている音楽の基本は一緒。
 

 7曲目Celestial The Queen
 この曲は、見栄えがする女性ヴォーカリストが明るくアレンジしたらヒットしそうな佳曲なんだけどなぁ・・・

 表向きの華やかさとは無縁なのもBOCの特徴、そして「魅力」。


 8曲目Goin' Through The Motions

 これはもろロネッツ風、フィル・スペクター風のオールディーズ風を狙った曲で、最初はカバーかと思ったくらい。
 この曲は、モット・ザ・フープルのイアン・ハンター共作していますが、やはり、何かを狙っていたようですね(笑)。
 この曲の背景としてもうひとつ上げられるのが、グランド・ファンクがかのLoco-Motionをヒットさせたことが影響したのかもしれない。

 ただ、明るい曲になればなるほど、彼らの必死さが、シリアスとコミカルの境を行き来する・・・不思議な音世界。
 これは親しみやすい曲で、ゴジラとともにこの中では印象に残りやすい曲です。


 9曲目I Love The Night

 打って変わってオカルトチックな響きの不気味さ漂う曲。
 途中の、エフェクターを効かせたギターのアルペジオが不気味さを助長し、「夜を愛している」というイメージぴったり!
 聴いていた弟は「もろ演歌だ」と言ってました(笑)。
 しかし、前の曲とは曲調がこれだけ違うのに、全体を包む雰囲気はまるで変わらないのが、考えてみればそれも個性であることに、今、気づきました(笑)。


 10曲目Nosferatu
 夏の終わりのような感じのバラード。
 カルトな人たちとはいえ、その辺の思いは同じか。
 でもやはり、すがすがしさはなく、後にひきずるばかりの、なんともいえない脱力感がたまらない(笑)。


 

 アルバム本編はここまで。
 現行のリマスター盤CDには4曲のボーナストラックが入っており、すべて未発表曲ですが、みな手を抜かずに作られているようで、佳曲揃い、とってもいいんです!
 こんないい未発表曲のボーナスは久しぶりという感じ。
 しかしそれ、裏を返せば、アルバムに入れて発表した曲も地味である、ということなのかもしれません・・・


 ボーナストラックの中には、例を上げたロネッツの世紀の大ヒット曲にしてポップス史に燦然と輝く名曲中の超名曲、14曲目Be My Babyのカヴァーが入っているのが、やっぱりかと膝を打ちつつなんだかちょっと笑ってしまいました。
 オリジナルと比べると歌い方が情けないんだけど、それもまた「ロック愛好会」の味といえるでしょう。
 あ、ほめてるんですよ(笑)。



 アルバムは、かなり、とっても、すごくいいです。


 繰り返し、カルトなのです、「ロック愛好会」なのです。
 ロックという音楽にあまり馴染みがないというか、ロックへのこだわりが特にない人がBOCを聴くと、ただのほの暗い音が流れるだけ流れていたなあ、くらいで、何もつかめないまま終わってしまう危険性があります。
 ガツンとくる、胸倉をわしづかみされるような、強烈なインパクトはない音楽ですから。

 しかし、ロックを愛しているという自覚が少しでもある人であれば、自分と同じロックが好きな人たちがなんとかがんばってるんだみたいなシンパを感じ、音楽に興味が湧いてくるのではないかな、と。


 この記事を書くにあたり、多くのアーティストや曲名を挙げましたが、それは僕としても事前に意図したものではなく、書いていて自然かつ必然の流れのなかでそうなったというところからも、そんなことを思います。

 

 アルバムの出来や内容は保証します。


 僕はこれを、名盤、と思っているんですけどね(笑)。