MERCY! ドン・コヴェイ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Nov13DonCovay


◎MERCY!

▼マーシー!

☆Don Covay

★ドン・コヴェイ

released in 1965

CD-0311 2012/11/13


 ドン・コヴェイのデビューアルバム。


 ワーナー・ミュージック・ジャパンから出ている「ATLANTIC 1000 R&B BEST COLLECTION」シリーズが素晴らしい。

 アトランティック系のレーベルのソウルとブルーズ、R&Bのカタログ64点が最新リマスターを施されて1枚1000円。

 買わない手はないでしょう。

 そのうち20枚ほどは既に持っているけれど、音質改善されているとなればそれらも買い直したいものがあるくらい。

 既にここひと月で10枚以上を買っているのですが、他との兼ね合いも鑑みて、買えるだけ買って聴いてゆきたい。


 これから幾つかこのシリーズのCDを記事にするつもりですが、最初はドン・コヴェイのこのアルバムを選びました。

 少し前にジェフ・リンの新譜を記事にしましたが、そこで歌われていたドン・コヴェイのMercy Mercyはオリジナルを聴いたことがなかったので近いうちにCDを買おうと思ったところ、まったくちょうどいいタイミングで今月これがでました。

 石破さんによれば、今の世の中は「近いうち」と言うと失笑されるそうですが、今回はすぐに買えてよかった(笑)。


 アルバムを聴くと、これが予想しなかったほど素晴らしい。

 あ、期待していなかったわけじゃないんだけど、ここまでいいとは、というのが正直なところ。

 今回は、一度聴いて、せっかくなので記事を書く時まで聴かないでおき、「セカンド・インプレッション」として書き進めてみます。


 何がいいって、アレンジがいいんです。

 楽しい、音「楽」というのは本当だなと思う。

 アトランティックだけどあまり土臭くなく都会的で、でもモータウンに比べると南だなという感じです。

 もちろん今風の音とまでは言わないけれど、1965年でこの音は、時代の先を行っていたことが想像できます。

 同じく買った他のソウル系と比べても、アレンジの新しさ、アイディアの楽しさは特筆に値します。

 アイディアでアレンジを楽しくするのは、ビートルズの十八番で、僕も刺激を受けやすい部分ですから。

 ブックレットには何も書いていないんだけど、演奏はブッカー・T・&・ジ・MGズが担当しているのではないかと思われますが、違ったらごめんなさい。



 1曲目Mercy Mercy

 ジェフ・リンはジェフ・リン流にアレンジしたものだと思っていたんだけど、実はオリジナルからあまりいじっていないことが分かりました。

 歌の切れ目で入る「どこどこどっどん」というドラムスのおかずもオリジナルに既にあるものでした。

 サビ(が先に出てくるタイプの曲)では女性のようなファルセットヴォイスのコーラスが被せられていて、ダブルトラックかもしれない、なんかこういい意味で気が抜けてしまう楽しさがある。

 ジェフ・リンが好きになるだけある曲だなと納得しました。

 R&Bチャートで1位を記録したという曲自体も素晴らしい。

 この曲はもはや僕の大のお気に入り曲リストに入りました。


 2曲目I'll Be Satisfied

 曲調としては1曲目の続きというか補完というところで、似ているというとつまらない、1曲目が素晴らしいだけにその流れを持続させていて気持ちが盛り上がります。

 ドン・コヴェイの声は少しぬるっとした感覚で、普通の声で歌うとミック・ジャガーに似てるかなと思いましたが、アクは強くなくてどちらかというと聴きやすい声です。

 

 3曲目Come On In

 「ダンス天国」風の大盛り上がりを見せる、ダンスにはもってこいのきれがいい曲。

 

 4曲目Can't Stay Away

 ワルツの正調R&Bバラードだけど、やはり間の抜けたファルセットヴォイスのコーラスが織り込まれて、なんともいえない和やかな雰囲気。

 途中の熱く語る部分とファルセットのコーラスの「コール&レスポンス」が、途中で主従逆転したり、とんでもなく面白い。


 5曲目Can't Fight It Baby

 高音で入るオルガンの、洗濯ばさみでスピーカーをつまんだような細い高音がなんだか面白い。

 音に対する繊細さ、音づかいのセンスが素晴らしい人だと思いました。

 歌い方が弱弱しい声で、そういう表現力もあります。

 

 6曲目You're Good For Me

 いきなり高音で「いぇ~~~いぇ~いぇ~」と歌い出す曲の始め方もうまい。

 曲はまた正調R&Bバラード。

 

 7曲目Take This Hurt Off Me

 曲調も演奏もほとんど1曲目と同じと言っていい曲だけど、LPで言うとここからB面だから、アルバムとしてのイメージの統一性を図ったのでしょう。

 そう考えると、アルバムとして作って売ることをはじめから考えていたということで、当時のソウルはただいい曲を集めただけというアルバムの概念を変えようとしていたことも評価に値します。

 似ている以上、これもまたいい曲、シングルヒット向き。

 とここまで書いて、最近どこかで聴いたような気がすると思い調べてみたところ、スペンサー・デイヴィス・グループのAUTUMN '66でスティーヴ・ウィンウッドが歌っているのでした。

 ううん、つくづく曲の覚えが悪い・・・

 ともあれ、音楽の偶然はよくあることですが、このCDを買ったのはつくづくよかった、というか必然だったんだなって。


 8曲目Daddy Loves Baby

 「じゃっじゃっじゃっじゃっ」とイントロもなしに歌い始める、あれ、どうしたんだろうと思う。

 A面と同じでやはり前の曲のイメージを踏襲して歌メロを緩くした感じ。

 
 9曲目Come See About Me

 ドン・コヴェイが、このアルバムがすごいのは、ここまでの9曲をすべて自らが書いていること。

 8曲目までは共作ですが、この曲は一人で書いていて、彼はデビュー前は歌手としてよりも作曲家として注目されていた(もてはやされていた)ようです。

 途中でファルセットで「らららら」とハミングを入れる、これがあるかないかで曲のイメージがかなり違ってくるはずで、やはり音へのセンスの良さを感じます。


 10曲目You Must Believe Me

 ここから3曲はカヴァー曲でまとめていて、これはカーティス・メイフィールドのインプレッションズ時代の曲。

 というか、当時はまだソロにはなっていなかったけれど、カーティスも作曲家として注目されていたひとりですね。

 あと3曲オリジナルを揃える時間がなかったのか、曲ができなかったのか、こうなったらオリジナルでまとめてもらいたかったと思う反面、カヴァー曲はその人がどんな人や音楽が好きかが分かるので、入っているほうが面白いとも言えますね。

 

 11曲目Please Don't Let Me Know

 この曲は針で刺したような高音のギターのオブリガートが面白い。

 アルバムはここまで基本的には明るく楽しい曲が並んでいるのも、楽しいというイメージを強くさせる部分です。

 だからソウルらしいどっぷりとしたところがないともいえるんだけど、それでここまで聴かせる楽曲とアレンジの才はたいしたものです、すごい。


 12曲目Just Because

 最後はジョン・レノンがROCK AND ROLLで歌っていたあの曲で、ポール・マッカートニーがソ連アルバムで歌っていたのとは同名異曲。

 ジョンのそのアルバムもチャック・ベリーの曲でつい先日に言及したばかりで、音楽の偶然は続くんだなあ。

 それはともかく、ジョンもアルバムの最後にこの曲を置いていたけれど、最後の最後でしんみりとした曲が出てきて終わってしまうという流れは意表をついています。

 ソウルらしいどっぷりとしたところがないことが不満だった人も、とりあえずこれで救われるのでは(笑)。

 ジョンは最初に語りを入れていたけれど、ドンは途中でヴォーカルを崩して語りかけています。

 大好きな曲が最後にあるのも、このアルバムがよかったと思える部分ですね。



 1965年といえばもうビートルズもアメリカでブレイクしているし、ビーチ・ボーイズも活躍しているし、アトランティック勢もロックを頭に置いた音楽作りを大なり小なりしていたのではないかと考えられます。

 ドン・コヴェイのこのアルバムは、響きのスマートさがそれを感じさせる部分ですね。


 こんな名盤がきっと世の中にはまだまだたくさんあるんだろうなあと思うと、聴き進めることがさらに楽しくなってきますね。

 ドン・コヴェイは2枚目は既に持っているのですが、今回音質改善で出直したので、これこそまた買い直したい(笑)。

  

 このシリーズは好評なようで、札幌のタワー・レコードPIVOT店でも、一度売れてなくなったものがなかなか入って来ておらず、先日も、前回あったので買いに行ったものがなくなっていました。

 洋楽のシリーズものでは久々のヒット企画かもしれない。 

 なんといっても1000円ですからね。 

 いっそのこと、まだ買っていないものをすべて一度に買い揃えたいくらい(笑)。