◎THE LONG RUN
▼ロング・ラン
☆The Eagles
★イーグルス
released in 1979
CD-0306 2012/11/4
イーグルス6枚目のアルバム。
かつては、最後のアルバムと呼ばれていました。
曲が揃っているのにアルバムとして通して聴くとどうかな、というアルバムはままあります。
その多くは、アルバムとして「散漫な」印象を受けると評されるもの。
イーグルスのこのアルバムは、僕が思うにその最たるもの。
半分が名曲級の素晴らしい曲なのに、アルバムとして聴くと、ちょっと待った、となってしまう。
1979年リリースされたこのアルバムの後にイーグルスは一度解散することになりますが、このアルバムについては、「エゴのぶつかりあい」「プレッシャーとの闘い」みたいなことをよく言われてきました。
なんといっても、あのロック史に燦然と輝く名曲・名盤HOTEL CALIFORNIAのようなあまりにも素晴らしい「化け物」アルバムを作ってしまったがために、ここでの彼らは前作のイメージや幻影と闘わなければならなくなりました。
闘った結果はというと・・・
僕がこのアルバムを初めて聴いたのは大学生の頃ですが、やはり、世評に流されやすい年ごろだったせいもあり、はじめから一歩引いて構えて聴いていました。
今から思うと、音楽とまっすぐ向き合っていなかったわけで大いに反省ですが、それは、情報が溢れる社会で生きている以上、ある程度は仕方ないですかね。
でも、このアルバム、「散漫な」、その通り感じました。
多分、予備知識がなくてもそう感じたのではないかな。
もうひとつ、僕自身の体験からも、このアルバムは最初はあまりいい印象を持ちませんでした。
僕が最初に買ったイーグルスのCDは、後期のベスト盤であるGREATEST HITS VOLUME 2でした。
そのベスト盤の編集がとても素晴らしく、そこに収められたこのアルバムの曲の出てくる曲順が、絶妙ともいえる完璧な配置でした。
このベスト盤は、数多いロックのベスト盤の中でも、とりわけ編集が素晴らしいと僕が考える1枚です。
4枚のアルバムからいい曲を集めたベスト盤と比べるのは反則なのは分かりますが、ここはあくまでも僕個人の体験と考えとして語らせてもらうと、「良いアルバム」と思う要素のうち、このTHE LONG RUNは、曲順、流れがよくないと思いました。
このアルバムの頃はもはや手詰まり感があって、曲もそれほど選べない、とにかく契約があって出すことだけに迫られて、余裕がなかった、だから曲順なんかどうでもよかったのかもしれない、と。
いつもながらビートルズを引き合いに出してしまいますが、ビートルズの場合、最後の録音のABBEY ROADでは、誰も口にはしないけれど、4人が最後と覚悟を決めてビートルズを「演じきって」みせた。
イーグルスは、この時点ではやめることは考えておらず、むしろ、どう延命するかを考えていたのかもしれない。
でもそれは、契約上の縛りだけが動機づけであって、バンドとして、音楽仲間として続けたかったかどうかはまた別問題だったのではないかな。
まあ、ポップソングはそもそも作り物の世界ですから、ある程度は外側をつくろうことは可能だと思いますが、そう考えると、ここまで崩れていることが見て取れるイーグルスは、実はまだ「正直」だったのかな、なんて思ったり。
このアルバムは、曲ごとに聴くとさすがの出来ですが、「曲間」、文章でいう「行間」からは何も感じ取れません。
曲と曲が有機的につながっていない、全体の響きが妙に無機質というか、ただなんとなくそこに置いただけという感じが強くします。
そこが「散漫な」という印象につながるのでしょう。
もうひとつ僕が最初に違和感を覚えたのは、音が妙に(中途半端に)新しく、明るく、浮ついていて軽く、ずしんと腹に響いてこない音でした。
縛られた状況下、もう開き直って明るくやるしかないというか。
だけどそれも、見え透いた、作られた面であると感じてしまう。
ただ、このアルバムは、その音が面白いともいえるかな。
なんて、いつも簡単に翻意する僕ですが(笑)、後で思えば、僕はそのことに実は最初から気づいてはいたんだけど、僕は昔はとにかく「鼻歌で歌える歌メロ」を求めていたので、「音が面白い」というのは、あまり訴えてこなかった部分だったのかな。
何かこう、気持ちの隙間にぽっと入り込んでくるような、ギターをはじめとした楽器の音の面白さは特筆すべき点でしょう。
まあそんなこんなで、このアルバムは、名曲級が5曲もあるにもかかわらず、アルバムとして通して聴くと最上とは言い難い、そんな不思議なアルバムだとずっと思って聴いてきていました。
ジャケットが、黒地にタイトルとバンド名を記した銀色の文字だけというのも、意味深なものを感じます。
1曲目The Long Run
アルバムタイトル曲で明るくポップで軽快な曲だから、景気づけに1曲目にあるのは分かるんだけど、GREATEST 2でなじんた後ろから2曲目の位置がよかっただけに、冒頭がこれだと、いきなり置いて行かれる感じがします。
ただ、曲は大好きで、この曲はなぜかよく突然思い出してに口ずさむのですが、それが今朝、紅葉を撮影していた時、だから帰宅して聴いて記事にしたのです。
新しいタイプのR&Bという感じで、ポップで分かりやすく、ドン・ヘンリーの声がよく出ていてカッコいい。
ただ、声を張り上げる曲なので鼻歌には向かないけど、車などで声を張り上げて歌うのがまた気持ちがいい!
いや、ほんと、曲自体は大好きです。
ところでこれ、サザンソウルのオーティス・クレイが1972年に発表したTrying To Live My Life Without You Babyにサウンドプロダクションがそっくりなのです。
その曲については以前、ボブ・シーガーのライヴ盤でも取り上げましたが、例えばレイ・パーカー・ジュニアのGhostbustersは、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのI Want A New Drugにサウンドプロダクションが似ているので訴えられましたが、それクラスのそっくり度、歌メロも似ているといえば似てる。
よく問題にならなかったな、と。
2曲目I Can't Tell You Why
今のティモシー・B・シュミットがあるのはこの曲のおかげ、といっても過言ではない、素晴らしいバラード。
このアルバムからイーグルスに加入したTBSは、もちろんポコなどでそれまでもいい仕事をしてきていた人ですが、大ヒットしたアルバムの印象的なバラードを歌うことにより、多くの人が彼の声の魅力に気づいたのではないでしょうか。
もちろん僕だって最初に彼の声を聴いたのはこの曲だった。
ほんと、しみじみいい曲だなぁ。
それ以上言うとかえってイメージが壊れそう。
僕が接した2、3人のこの曲を同時代に聴いていた知り合いはみんな、「異様に」この曲が好きなんです。
ああ、いい曲だよね、以上に、思い入れがある様子で話していました。
僕は前述ベスト盤で最初に聴いて、もちろん最初からとってもいい曲だなと思いましたが、でも、若くてとんがったロック野郎には少しソフト過ぎるかな、と(笑)。
だけど、年を追うごとに僕も大好きになってゆき、今では僕も「異様に好き」の類かもしれません。
グレン・フライのギターソロも、テクニック云々以上に、歌うギターソロのお手本といっていいほど。
わざわざグレンがギターソロであると明記されているくらい、ほんと素晴らしい名演ですね。
寂しい中に勇気づけられる部分があるし、このナイーヴさはイーグルスのみならずロック界広しといえども、TBSにしか出せない味。
ただ、曲として素晴らしいのですが、アルバムの中で見ると、これが2曲目というのは、なにか落ち着かない感じもします。
1曲目で置いて行かれた上に、もう終わるの、みたいな・・・
まあ、アルバム自体が終わりだから、仕方ないのかな。
3曲目In The City
これがまたいいのです。
上述ベスト盤には入っていないけど、それは単にアルバムごとのバランスを取るのにはじかれただけでしょう。
ジョー・ウォルシュの曲(共作)、ヴォーカル、いかにも都会的な音作りで、ニュー・ヨークの喧騒をイメージするけど、でも彼らはウェストコーストだぞ・・・
もはやそんなこと関係ない、アメリカのバンドだったのでしょうね。
でも、ジョーの声質からして、都会の子どもみたいなイメージ。
ただ、この曲は、ジョーのヴォーカルもこれ1曲だけだし、アルバムの中でどこに置くか迷う曲かもしれない、というかアルバムの色には微妙にそぐわない曲かもしれなり。
よく外されなかった、入っていてよかった、隠れた名曲といっていい。
実際、再結成後のHELL FREEZES OVERでも演奏されていますからね。
4曲目The Disco Stranger
ドン・ヘンリーがずっと高音で歌い続けるポップな曲だけど、1曲目と違って歌メロがつかみにくく、空元気みたいな曲。
ディスコを皮肉ったのか、まるで踊れない変わったリズム感は、皮肉屋ドンの面目躍如。
気がつくと終わっていて、消化不良な感じは否めないですね。
ポール・マッカートニーであればメドレーの1曲にしたところでしょう(笑)。
5曲目King Of Hollywood
重々しくフェイドインして始まるちょっとブルージーな曲。
何を目指しているかいまひとつ読めない曲で、これがA面の最後というのがまた、どうなのか。
ところで、イーグルスにはHollywood Waltzもあるけれど、彼らもハリウッドに憧れのようなものがあったのかな。
そうとは言い切れないだろうなあ、どちらかといえば皮肉の対象ではなかったかと。
6曲目Heartache Tonight
彼ら5曲目にして最後のNo.1ヒット曲。
ドンとグレンにボブ・シーガーとJ.D.サウザー共作という、ビルボード誌でNO.1になったロックの曲では作曲陣が最も豪華なのじゃないかという曲。
それにしてもパワフルなロックンロールで、歌も演奏も、特に最後のグレンの雄叫びは、「こいつら肉食ってるよなぁ」と、いかにもアメリカ人、食文化の違いを感じました(笑)。
ギターも、イントロのコードを力を込めて弾くと気持ちいいし。
やはり鼻歌には向かないけど、声を張り上げて歌うといい曲、といいつつ僕はこれもきわめてよく口ずさむけれど(笑)。
トリッキーなギターも相まり、さすがイーグルスというだけあって、心を「鷲掴み」にされ振り回される強引な曲。
ほんとに心が痛むの、と言いたくもなるけど・・・
この曲がLPでいうB面の1曲目というのは積極的にいいと思います。
が、じゃあA面1曲目、冒頭というのはやっぱり恐いかな・・・
7曲目Those Shoes
ここでまた沈んだ曲だけど、その中でまるで浮いているみぃみぃ鳴るギターが面白い。
音の面白さというのは、サウンドでごまかすしかできなかった、ということなのかな・・・
8曲目Teenage Jail
どろっとした、うねうねした曲で、何かから抜け出せないというイメージではありますね。
繰り返し、このアルバム、曲は重いけど音が軽いのは、違和感ですかね・・・
ドン・フェルダーのギターソロは素晴らしいけど。
9曲目The Greeks Don't Want No Freaks
前の曲が終わりきらないうちに焦ったように始まる、最後の前に盛り上げるだけ盛り上げとこうという異様に明るい曲。
曲は古臭いR&R風で、そこに贅肉たっぷりの妙に新しい音が乗っかる。
もう、シャープな曲は作れなかったのかな。
この曲は、「変な曲」として最初から印象に残っていた、「面白い音」が凝縮された1曲、だけどまた急いたように終わる。
でもこの曲は、最後がそれである以上、ここにあるのはいいと思います。
10曲目The Sad Cafe
これは名曲ですね、素晴らしい、しみてきます。
僕が洋楽の奥深さを知った曲のひとつ。
これまたニューヨークの街角が似合いそうな曲で、クリスマスを都会でひとり寂しく過ごす男、というイメージかな。
ドン、グレン、ジョーにJ.D.サウザーの共作、傑作。
寂しさを助長するあまりにも素晴らしいサックスはデヴィッド・サンボーンで、僕はその名前をこれで知りました。
救いようがないほど暗い曲というのではないけど、尋常じゃないくらいに寂しさがこみ上げてくる曲。
俺ってこのまま生きていていいんだろうか、みたいな感傷にひたらざるを得ない曲。
2曲目とこれはほんと、心に沁みるとはまさにこのことという名曲。
そして、この名曲が最後というのがまた、意味深ですね。
余韻残しまくりで終わりますが、しかし、これを聴くと、ああ、もう何かが終わってしまったんだな、と感じます。
まあ、それから15年ほどが経ち、「地獄が凍りついて」、復活するんですが。
ただ、先ほどクリスマスと書いたけど、歌詞の中で雨が降っているので、札幌の場合はまさに今頃の季節にちょうどいい。
今日も雨が降っています、でも札幌の初雪は今年はまだです。
などと書くと、このアルバムは良くない、というか、僕は嫌いなのかと思われたかもしれません。
好きです、どちらかというと大好きです、今では。
僕は、ビートルズを聴き育って「研究」していたせいで、若い頃はとにかく「アルバム至上主義」でした、とはもう何度も言ってますね、失礼。
名曲が1曲あってもアルバムとしてつまらなければだめ、みたいな。
でも今は、それほど真剣に聴き込まないことが多くなったので、そうなると、いい曲がたくさんあるほうが聴きやすくなりました。
また前述のように、音の面白さを感じるようになったこともあります。
そういう観点でこのアルバムを聴くと、むしろ、名曲が5曲も入ったアルバムなんてそうめったにないし、
音は面白いし、ノリは軽くて聴きやすいし、昔と違って、これは「良いアルバム」だと思えるようになりました。
「良い」の意味が、昔とは違ってきているということでしょう。
よくよく考えると、僕も傲慢でしたね。
こんなに素晴らしいアルバムを、曲順と流れという点だけで、「良くない」アルバムとして扱っていたのだから・・・
ところで、良くない曲は飛ばして聴けばいいのでは、と言われそうですが、僕は、アルバムを聴く時は、何があっても絶対に飛ばさないで聴かないと、気が済まないのです。
これも「アルバム至上主義」の影響であり、名残り。
まあしかし、今はずっと集中して聴き続けるわけではないので、あまり好きじゃない曲は、気がつくと終わっている、ということも、あるにはありますね(笑)。
もひとつ、このアルバムを「良い」と感じるようなったのは、なんであれかれこれ20年聴き続けてきているからでしょうね。
あまりよくないと思ったらそのままということも多いかもしれないけれど、僕は、特にアーティスト自体が大好きな場合は、「好きになりたい」と思って聴き返すことがよくあります、普通に、かな。
でも、このアルバムの場合、それよりはもっと積極的に時々聴きたくなってきていたので、やっぱり、僕は単なるへそ曲がり、最初は素直に好きといえなかっただけなのでしょうね(笑)。
繰り返し、名曲が5曲も入ったアルバムなんてそうざらにはない、そこが魅力ですね。
ところで、"RUN"で終わるアルバムが2枚続いたのは単なる偶然で、何の意図もありません。
まさか僕がマラソンするとか、そんなはずはない(笑)。