TRUTH ジェフ・ベック | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Oct27JeffBeck


◎TRUTH

▼トゥルース

☆Jeff Beck

★ジェフ・ベック

released in 1968

CD-0302 2012/10/27


 ジェフ・ベックのソロとしてのデビューアルバム。


 このところ新譜の記事が続いたので、今日は古いアルバム、定番、名盤でいきたい気分。


 ジェフ・ベックは一応、BBAも含めてソロ以降の全アルバムが家にあるのですが、よく聴いているかというと、正直、Yesとはいえない人です。

 嫌いなわけではなく、むしろ尊敬しているギタリストですが、僕はギターは下手だし、端的にいえば尊敬が大きすぎてなかなか近寄れない、畏敬の念を抱いている、そんな存在かもしれません、現在進行形で。

 だから、ジェフのプレイがどうのこうのは話せないのですが、そんな中、このアルバムは唯一、そらで曲が思い浮かぶくらいの愛聴盤。


 僕がこれを初めて聴いたのは大学生の頃、当時はCD時代の初期で、これと次のBECK-OLAのCD化を楽しみに待っていました。
 もちろんそれはロッド・スチュワートがいるから。

 ロッドは高校時代から大好きで、遡ってたどり着いたのですが、ロッドがジェフ・ベックからキャリアをスタートさせたことを最初に話として聞いた時、僕は違和感のようなものを覚えました。

 実際に聴くと、ロッドが歌っているだけでうれしかった(笑)。
 声があまり変わっていない、やはり歌メロをつかみやすく歌う人だ、などなど感心しきりでした。

 ただし、やはり多少の違和感はあって、ハードな音ととのミスマッチ感覚がそうさせたのかなと。
 ロッドが2枚で辞めてしまったことも、なんとなく、分かったとはいわないけど、想像はできました。


 しかしなんであれ、このアルバム自体はあまりにも素晴らしくて、すぐに大好きになりました。

 以降、このアルバムは、時々むしょうに聴きたくなる1枚として君臨し続けていて、今日がその日でしたが、最近、若い頃には気づかなかったというか、新たに感じたことがあります。

 

 昔思っていたよりも音がうんと土臭い。
 音が粘っこくて、どこかしらアメリカ南部っぽさがあって、レッド・ツェッペリンのように良くも悪くもスマートではない。

 リズム隊がそう感じさせるのかな。

 

 でも、クリームのように、個性のぶつかり合いの中からマジックが生まれてくるというわけでもなくて、あくまでもジェフが全てを支配し統制をとっているようで、音楽全体は整っていて、意外と涼しさを感じます。

 いわば、土臭いけど、あまり気温が高くなく、蒸してもいない。

 アメリカのオールマン・ブラザース・バンドには英国っぽい要素があるとよく言われますが、逆にジェフ・ベックは英国側からアメリカにアプローチしてったところ、大西洋上の同じ辺りでオールマンと交錯したという感じかな。
 ただ、次のBECK-OLAのほうがより南部っぽいと感じましたが、今回はこのアルバムだけに絞って話をします。

 もうひとつ、僕はロッドから遡って聴いたと書きましたが、今さら冷静になって聴いてみると、ロッドのヴォーカルの存在感はまさに唯一無二、誰も真似できない世界を持った人なんだなと。
 こんな声の人はいないですからね。
 そりゃプロのヴォーカリストのしかも第一線でやっていく人は、唯一無二の声を持っているに違いないのですが、しかしロッドは、声の質というよりは、そもそも世界が違うように感じます。
 これが世に出た時に、なんだこの声の持ち主は、と驚いた人が多かったのではないかと勝手に想像しました。
 声はまさに最大の楽器ですね。

 このアルバムはよく、ヘヴィメタルのルーツの1枚のような言い方をされています。
 ブルーズ基調で重たくハードなギターの音という点で、見た目はそうなのかもしれません、そう思う部分はあります。
 でも、コンセプト的にはまだまだヘヴィメタルには遠いですね。
 音楽的な面でいえば、ブルーズを感じなくなったところがヘヴィメタル、と僕は思います、すべてがそうとも限らないですが。

 このアルバムのバンドのメンバーは以下の4人。

 ジェフ・ベック Jeff Beck (Gt)(5曲目のベース)
 ロッド・スチュワート Rod Stewart (Vo)
 ロン・ウッド Ron Wood (Bs)
 ミッキー・ウォラー Micky Waller (Ds)


 このアルバムは他の参加メンバーが豪華であり、英国ロック躍動期の縮図ともいうべく興味深いもので、先に名前を挙げて紹介してゆきます。

 もっとも、当時は豪華でもなんでもないただの若手だったのでしょうけど(笑)。
 キース・ムーン Keith Moon 8曲目のドラムスと5曲目のティンパニー
 ジミー・ペイジ Jimmy Page 8曲目の12弦ギター
 ジョン・ポール・ジョーンズ John Paul Jones 4、5曲目のオルガンと8曲目のベース
 ニッキー・ホプキンス Nicky Hopkins 3、4、8、9曲目のピアノでサブメンバー的役割の模様
 また3曲目のバグパイプはMyserious Scottish Blokeと記されています。
 ジェフはGibson Les PaulとMarshallのアンプを使用と記され、ブックレットにはジェフがレス・ポールを弾く写真もあります。


 2005年のリマスター盤にはボーナストラックが8曲収録され、中には、ジェフが初めて歌ったシングルHi Ho Silver Lining、次のシングルTallyman、そしてあのポール・モーリアのLove Is Blue「恋はみずいろ」も収録されていますが、今回はアルバム本編だけに触れてゆきます。


 そのCDのブックレットの裏はおそらくLPの裏面がそのまま使われていると思いますが、そこにはジェフ自身の曲への短いコメントが記されています。
 こういう例は多くはないとは思いますが、ジェフはそれだけ力を入れてこのアルバムを作り、自信があったのでしょうね。
 面白いので、今回は、それを紹介しながら進めます。
 JBと記した文章がジェフ・ベックのコメントです。
 なお、翻訳は引用者によるもので、一部補足も加えています。
 そしてリマスター盤には、Charles Shaar Murrayなる人物の解説があって、そこに書かれていることにも少し触れます。



 1曲目Shapes Of Things
JB:アレンジし直したけどヤードバーズのヒット曲だ。
 この曲は何を使って聴くのでも最大音量で聴いてくれ。
 もし君が教会の牧師をお茶の時間に呼ぶのなら、これは最高のBMGになるだろうな。


 元々ヤードバーズの曲で、ジェフ自身には再録音になる曲。
 イントロのベースとドラムスが真っ直ぐに入ってくるけど、ヴォーカルとギターが始まったところで横の流れもできて音が立体的に広がる、最初の5秒で圧倒されること間違いなし。
 このアルバムはそれとベースが歌いながら激しく動いていますが、ロン・ウッドは最初はリズム・ギターとしてジェフに迎えられ、ベースは他の人を考えていたのが、彼のイメージに合う人がおらず、ロンをベースにコンバートすることを思いついたそうです。
 そしてロンはFender Jazz Bassを弾いているとも書かれています。
 ヤードバーズには悪いけどこの曲の僕のイメージは完全に「ジェフ・ベックの曲」かな。



 2曲目Let Me Love You

JB:ヘヴィな曲、素晴らしいタンバリンはミッキー・モストによるものだ。
 ロッドの曲。

 いろんな状況で映える曲だよ


 作曲者の名前がJeffrey Rodと記されていますが、これはジェフとロッドのことだと思われます。

 ただし、オリジナルLPの裏面部分には(Rod)としか記されておらず、リマスター盤のブックレットにはこのよう書かれています。
 なぜだろう、ちょっと不思議、ロッドへの感謝の念からかな。
 ただしこれはモチーフをバディ・ガイの曲からいただいている、と解説にありますが、当時の英国は、ブルーズの名曲に手を加えて自作の曲として歌う悪しき流行があったようで、これもそうかな。
 この曲は歌うには最高によいのですが・・・ロッドは、歌に感情はこもっているけど、取り乱すこともなく悠然と歌い続け、若くして既に凄味を感じます。
 ミッキー・モストはプロデューサー。



 3曲目Morning Dew

JB:ティム(・ローズ)のこの曲の素晴らしさはみんな知ってる。
 だけど僕たちのもなかなか良くないかい。


 作曲者のひとりでもあるティム・ローズのヒット曲で、ジェフは彼への賛辞を送っています。
 これは調べるとジャンルとしてはフォークであるらしく、ロッドのその後のカバー曲の選曲との共通性を考えると興味深い。
 この空気感を表現できるロッドの素晴らしさに感動しますね。
 ロッドの執拗なヴォーカルは、歩いても歩いても足に朝露が着く草原を進まざるを得ないような感覚に陥ります(笑)。
 ジェフの跳ねるようなギターの音もカッコいい。



 4曲目You Shook Me

JB:むしゃくしゃした時に聴くための曲としてこれはおそらく、最も適当かついいかげんに録音された曲じゃないかな。
 最後の音は僕のギターだけど、きみたちが調子がよくない時に、この2分28秒でやる気をくじいてくれたまえ。


 これはレッド・ツェッペリンで先に聴きましたが、Zepのそれを最初に聴いて僕は大爆笑してしまいました。
 ここはジェフの話なのでそのことには触れないとして、ジェフのこれは妙に小ぎれいにまとまっていると感じました。
 オルガンはジョン・ポール・ジョーンズ。
 ニッキーのピアノの高音の連弾も印象に残ります。
 ウィリー・ディクスンはブルーズ系のロッカーから最大限の尊敬の念を集めていた人ですね。



 5曲目O'l Man River

JB:アレンジは僕だけど、クレジットはみんなのもので、ロッド・スチュワートはとりわけ素晴らしい。
 これもまた最大音量で聴いてくれ。


 白状します。
 僕はずっと、オーティス・レディングのO'l Man Troubleとこの曲を混同していました、同じだと思っていました。
 調べるとこれは1920年代のミュージカルの中の曲ということで、そんなに古い曲だったんだ。
 じわじわと迫ってくる演奏が迫力あって、キース・ムーンがわざわざティンパニーをやるだけあります。
 これ、ほとんどソウルと言っていい雰囲気もあって、ソウルっぽさを感じさせるのはロッドの持ち味かな。
 今回聴いて、かなり奥深い曲だと再認識、再発見しました。



 6曲目Greensleeves

JB:ミッキー・モストのギターで演奏している。
 エルヴィスとも同じものなんだ。

 

 解説にはそのギターはGibson J-200と書いてあります。
 ところで、ポール・マッカートニーはこれを聴いて、Junkを作ることを思いついたのかなと思うことがあります。
 違うかもしれないけど、雰囲気が似ています。
 特に、McCARTNEYに収録されたオリジナルではなく、UNPLUGGEDのバージョンは、メドレーで1曲にしたいくらい、雰囲気以上に演奏も似ています。
 なんて、結局はビートルズに言及するのか・・・(笑)・・・
 話は逸れましたが、この曲はロックを聴く前から知っていて、こうしたトラッドをロックで演奏しているのを聴くと、若い頃は特にうれしくなりました。



 7曲目Rock My Primsoul

JB:"Tallyman"のB面として録音していたが、こちらのほうがオリジナルよりナチュラルな雰囲気でよくできている。

 

 これも一応はオリジナルでも、B.B.キングのRock Me Babyからいただいているということで、やはりちょっと複雑。
 まあしかしこれは歌メロもいいし、素晴らしい曲ですね。
 若い頃からよく口ずさんでいました。
 ロッドも後にライヴで歌っています。
 この曲のロッドのヴォーカルでひとつ思ったのは、ロッドは歌声はなんだかいい具合に微妙に欠けていること。
 音が揺れるというべきか、声がただ伸びているのではなく、作為的というよりは自然とそういう声になっている感じ。



 8曲目Beck's Bolero

JB:これについてあまり多くは語れないな。
 "(Hi Ho) Silver Lining"のB面と同じテイクで、言い訳になるが、それ以上に良くすることはできなかったんだ。


 トラッドに続いてクラシックの要素まであるなんて、若い僕はこれを聴いてほんとに楽しかった(笑)。
 ジミー・ペイジが作ったこの曲はインストゥルメンタルで、ギターによるオーケストラといった趣の壮大な響きに心をかきむしられ、引き込まれます。
 ただこれ、音質がもう少し良ければもっと透明感があるのになと、昔から思っています。
 逆にこの音質だから、喧騒を、時代を感じるのでしょうけど。



 9曲目Blues De Luxe

JB:バートとスタンに感謝だ。
 僕たちは、やろうとしていた「ライヴ」演奏のブルーズの完璧なモデルを作ることができたが、ピアノソロについては言わせてもらいたいことがある。


 すいません、バートとスタンが誰かが分かりませんでした。
 ピアノソロはニッキーで、ジェフの文章はここまでですが、これは聴衆の拍手が入っていてライヴのように聴こえるけど、実際はスタジオ録音で拍手は後から被せたものだそうです。
 この曲もまた一応はオリジナルですが、やはりB.B.キングのGambler's Bluesとよく似ている、ということ。
 この辺りのルーツ感覚はジェフもロッドも同じだったのかな。
 普通に演奏すればこの半分の時間で終わりそうなほど(笑)、とにかくゆったりとした、とろい曲。
 ロッドはやはり何を歌わせてもさまになっている、うん。
 この曲はこの中では歌にいちばん気持ちが入っていますね。



 10曲目I Ain't Superstitious

JB:ハウリン・ウルフの古い曲からリフをいただいているけど、彼は気にしていないよ、だって僕は彼に話をつけたから。
 この曲はめくるめくギターが炸裂している、そのための曲だね。
 これらの愛すべき曲が僕らの最初のLP、TRUTHさ。


 話がついていると聞いて、ほっとするものがありますね(笑)。

 ワウペダルを多投したまさにめくるめくギターワークには、自然と気持ちが高揚してきます、ナチュラル・ハイ。
 サイケデリックの影響もあるのでしょうか、時代ですね。
 でも、アルバム全体ではそれほどサイケの影響は感じません。
 だから僕が大好き、ともいえます(実は僕はサイケがやや苦手)。
 この曲はもはや「ロック」のマスターピースのひとつでしょう。
 ジェフ・ベックの曲としても語り継がれてゆくであろう曲。
 アルバムの最後を、緊張感を持ってびしっと締めてくれます。



 ううん、ギタリストのジェフ・ベックのアルバムで、僕自身も一応はギターを弾く人間だというのに、ロッドの話ばかりで終わってしまった感が・・・

 ギターについては、ソロももちろんすごいけど、僕はやはりバックの特に低音弦の音の動かし方がカッコいいと思います。


 1968年といえば、このアルバムの他に、ジミ・ヘンドリックスのELECTRIC LADYLAND、クリームのWHEELS OF FIREと、ブルーズに大きく影響を受けたロックの名盤がリリースされた年として記されています。
 さらにはレッド・ツェッペリンもこの年に結成され、1stが発表されたのは翌年ですがでも1月にリリースだからこの年に録音されていたわけで、考えてみればすごい年ですね、こんなすごいアルバムが4枚も作られたなんて。

 ついでにいえば、ビートルズが「ホワイトアルバム」のYer Bluesでブリティッシュ・ブルーズをおちょくったのもこの年。


 僕が1歳の年だから、覚えているわけがない(笑)、でも、すごい年だったんだなあ。


 いまだにそこから抜け出せないロック聴きも多い、もちろん僕もその一人だし(笑)。