LOCKED DOWN ドクター・ジョン | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Sept13DrJohn


◎LOCKED DOWN

▼ロックト・ダウン

☆Dr. John

★ドクター・ジョン

released in 2012

CD-0283 2012/9/13


 ドクター・ジョンの今年出た新譜。

 通算何枚目、というよりも、ここ5年で3枚目、相変わらず精力的に活動をしています。

 ちなみに、ドクター・ジョンも「ラスト・ワルツ」に出ていますが、これも単なる偶然のつながり。


 この新譜は4月に出ていて、レニー・クラヴィッツのコンサートで東京に行った際に渋谷レコファンで買いました。

 爾来、すぐにでも記事を上げるつもりが、ついに5か月が経ってしまいました。

 5か月の間ずっと聴き続けていたわけではなく、5月中までは毎日のように聴いていたのですが、そこから新譜ラッシュで一度聴かなくなり、お盆を過ぎてまた復活してきました。

 あ、別にお盆とはいかなる関係もないんだけど(笑)。


 ニューオーリンズの音楽に憧れています。

 

 という人は結構いらっしゃるのでしょうね。

 

 僕の場合、もう洋楽を聴き始めた頃から、淡い憧れのようなものがありました。

 ジャズ発祥の地、フランス文化が濃い土地、アメリカでも南部の中の南部、マーチングバンドによる葬送、マルディ・グラ。

 そしてロックのフィールドでも、ジャニス・ジョプリンやスティングの曲によく出てくる場所、ポール・マッカートニーが得意な「ディクシーランド・スタイル」などなど。

 昔は「ニューオルリンズ」と表記されていたような。

 

 ただ一方で、深みにはまると湿地のごとく抜け出すのが大変そうで、なかなか踏み込めないでいました。


 直接のきっかけは、一昨年、2010年のNFLスーパーボウルでニューオーリンズ・セインツが優勝したことでした。

 僕は基本はフィラデルフィア・イーグルスを応援していますが、スポーツでは何でも初めて優勝するというのは応援したくなるし、その場に立ち会うのは、テレビですが、うれしいものです。

 もちろん、セインツはいつも3番目くらいに好きなチームではありましたが。

 ちなみに、チーム名のSaintsは、「聖者が街にやって来る」からとられているのは言うまでもない。


 その時は既にドクター・ジョンのGUMBOとネヴィル・ブラザース数枚、アーロン・ネヴィル数枚も持っていたのですが、それらはニューオーリンズの音楽を聴くというよりは、ポピュラー音楽の中でニューオーリンズの人たちというくらいの感覚でいました。


 セインツが優勝し、そこからドクター・ジョンを集めることにしました。

 例の(チープな)紙ジャケ5枚組が出ているのでまずはそれを買い、中古やセールなどで見つける度に買い集めてきました。

 中には、2008年に出た、2005年のあのハリケーン・カトリーナの惨状を歌ったチャリティアルバムもありました。

 おまけにその年には新譜も出て、ドクター・ジョンはもうすっかり僕の中では普通に聴く人になりました。

 

 ニューオーリンズの音楽って、何だろう?


 2010年以降、ドクター・ジョンの他にファッツ・ドミノ、アラン・トゥーサン、ミーターズを数枚買って聴きましたが、正直、こんな感じの音楽、とはいえるけど、音楽的に詳しく話してくれと言われれば躊躇する、というのが今の正直なところです。

 特にファッツ・ドミノは、まだポピュラー音楽が細分化されていない1950年代の人であり、ニューオーリンズの人であるという以上にはニューオーリンズらしさを感じられませんでした、僕には、ですが。


 ニューオーリンズの音楽の特徴は、「セカンド・ライン」とよく言われます。

 ウィキペディアの「セカン・ドライン」の冒頭の要約文を書き出します。


 ニューオーリンズのブラスバンドを伴った伝統的なパレードの名称。そこから生み出された独特のリズムはセカンド・ライン・リズムあるいはセカンド・ライン・ビートなどと称され、ニューオーリンズのジャズ、R&B、ファンクなどの音楽の重要な要素となっている。


 補足ですが、葬送の列で、最初の列=ファースト・ラインには故人の関係者が並んで歩き、そこに続く2番目の列は故人をしのぶ参列者の列であり、そこにブラスバンドが位置している、ということ。


 ところが、「セカンド・ライン・リズム」については詳しい記述がありません。

 音を文章で表すことが難しいのはこんなBLOGをやっている以上は千も承知ですが、それにしても、具体例を引くわけでもなく、記述がない。

 そういえば、ピーター・バラカンさんも、「魂(ソウル)のゆくえ」で、言葉で表すのは難しいと書いていました。 

 結局は葬送の模様を実際に体験するか、映画などで見てそこから感じるしかないのでしょう。

 映像資料ならありそうですが、でも、何かの映画でそんなシーンがあったような、何だったっけなあ。

 いずれにせよ、音楽のことだから音楽を聴かなければ分からない、聴けば分かる、ということなのでしょう。


 でも正直、ドクター・ジョンを聴いていて、これがニューオーリンズの音楽なんだなあと思うんだけど、やっぱりどこがそうなのかはいまだによくつかめていません。

 多分、まったく知らないアーティストの曲を聴かされて、これはニューオーリンズ、こっちは違う、くらいは分かるようにんはなったのですが。

 記事を書くのが遅れて一度諦めたのもそのせいです。


 しかしそれでも記事にしたのは、ひとえに、このドクター・ジョンの新譜が素晴らしいから。

 この素晴らしさを伝えないのは、分からないと言明する恥ずかしさ以上の罪であると思いました。

 ああ、いつもの大げさ(笑)。


 1曲目の表題曲Locked Downでいきなり驚きました。

 それまで聴いたドクター・ジョンのアルバムに比べると、音がシャープというかタイトというか、ニューオーリンズから連想されるゆったりかつもったりした部分が希薄で、そこが意外でした。

 リズムの面でもそうだし、特にギターの音が鋭く、サウンド全体が引き締まっていて、2010年の前作とは味わいが違います。

 この鋭さは聴けば聴くほど癖になり、心に突き刺さってきます。

 

 ロックっぽい作り、そうなのかもしれない。

 アメリカ人だから、LockとRockをかけているとは思わないんだけど、でもLockという言葉の「閉める」という意味には通じる音の硬さがあります。


 でも、よく聴くとリズムはやっぱりニューオーリンズのものなのでしょうね。

 3曲目Bid Shotはおなじみディクシーランド・スタイル、5曲目Gate Wayはファッツ・ドミノが得意な12/8拍子、7曲目You Lie、この辺りがきっとニューオーリンズの鍵なのだと思う。

 呪術的な雰囲気の装飾音も随所に聴かれるのはサイケ的なことを昔やっていた人だけあるなという感じはします。

 それに全体的に重たい、シリアス、というのか。

 9曲目My Chilrdren, My Angelsは感動的ともいえる1篇。

 最後10曲目God's Sure Goodはなんだか軽いイントロのギターリフ、なんだか救われた気分に。

 そうそう、今回のアルバムはギターのリフ、フレーズ、決めの音が印象的なものが多くて、ギターにこだわっているのが僕には訴えるものが大きいのだと思います。

 

 しかし結局のところ、ドクター・ジョンはニューオーリンズの音楽である、ニューオーリンズの音楽といえばドクター・ジョン、なのでしょうね。

 考えすぎました(笑)。

 長々と能書き垂れてきて、結局はそうなんです。

 ドクター・ジョンは信頼できる「ニューオーリンズ印」ということで、楽しめばいい。

 これはそんなアルバムです。



 ただ、僕が聴いた限り、このアルバムは、21世紀に入ってからのドクター・ジョンのアルバムでは、楽曲の良さ、粒ぞろいという点ではいちばんと感じました。

 だから、ドクター・ジョンをあまり聴かない人にもとっつきやすい1枚、そう思う。


 快作、と言っていい1枚です。


 

 さて、ニューオーリンズの旅はまだこれから(笑)。