RUMOURS フリートウッド・マック | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-April13FleetwoodMacRumours






◎RUMOURS


▼噂


☆Fleetwood Mac


★フリートウッド・マック


released in 1977


CD-0229 2012/4/13




 フリートウッド・マック13枚目のアルバムは、現在まで3000万枚以上を売り上げているというお化けアルバム。


 しかしこのアルバム、今となってはなぜそれだけ売れたのか、少なくとも日本人には分かりにくい、理解できない、そういう意味でもお化けのようなアルバムではないかと思います。




 このアルバムは、僕らの世代では、洋楽を聴き始めると必ず過去に大売れしたアルバムとしてかなり早い時期に情報だけは耳にして意識するアルバムだと思います。


 それがどれくらいまで僕より下の年代の人にも通じる話かは分からないけど、とにかくロックの歴史の中では必ず語られるアルバムには違いありません。




 僕はビルボード中心に聴いていたせいもあって高校時代から聴いてみたいと思っていた1枚でしたが、CDの時代になってかなり早くに買い、僕が最初に買ったCD20枚に入るくらいだと思います。


 聴いてみて、音楽としてはとても気に入り、特に歌メロがよくて口ずさむのがいい曲が多いと素直に思ったのですが、一方でやはり、そこまで売れたというのは分かりませんでした。


 僕らの世代では、マイケル・ジャクソンのTHRILLERを体験していただけ余計に、マイケルに比べれば地味な人たちがそれだけ売れたというのが分かりにくかったのかもしれません。




 では、どうしてこのアルバムはそんなに売れたのだろう?


 そして、日本人にはなぜそれが分かりにくいのだろう?




 今回はもったいぶらずに僕の考えをすぐに話すと、このアルバムは、カントリーとロックの融合が完成を見たという点で、カントリー側の人にも受け入れられたことが大きかったのではないかと思います。


 実際にこのアルバムのサウンドは、カントリー的な音づかいは確かに感じるんだけど、でもカントリーとは言えないという域に達しているものだと思います。


 時代がカントリーっぽいロックを求めていたのでしょう、少なくともアメリカでは、建国200年という動きも関係あるのかなと思います。


 それに関連していえば、イーグルスの1975年のベスト盤THEIR GREATEST HITSも現在までに3000万枚以上のセールスを記録していますが、それ売れたこととマックのこのアルバムが売れたことも決して無関係ではないような気もします。




 それを可能にしたのはもちろん、この前のアルバムから加入した2人のアメリカ人、リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスによるものでしょう。


 1960年代にブルーズのバンドとしてスタートしたマックは、その後ポップ路線に舵を切り、それまで鳴かず飛ばずよりちょっといいかなくらいの存在だったのが、リーダーのミック・フリートウッドは時代の匂いを感じ取り、大きな決断をしました。


 結果としてその決断は大成功したわけであり、ポップスのバンドとして必要不可欠ないい意味での商魂があることも証明されました。




 もちろんマック自身の要因も大きい。


 前のアルバムが1年をかけてNo.1に輝くロングセラーとなり、マックの音楽がじわじわとしかし大きく広まったところで、このアルバムへの期待は大きかったのでしょう。


 なんといっても楽曲がいいですね、この2枚は。


 リンジーとスティーヴィーは2人とも優れたソングライターであり、もともといたクリスティン・マクヴィーともども3人のヴォーカルに3人の曲、この多様性をうまく包み込むバンドの包容力が魅力でしょう。


 おまけにニックスは容姿端麗、怪しい魅力を放つのだから、話題にはなりますね。




 もうひとつ、マック自身の要因で音楽とは別の話として、当時のメンバーの個人関係も多少は影響があるかもしれない。


 リンジーとスティーヴィーは恋人同士としてバンドに入ったもののこのアルバムの前に破局。


 クリスティンは同じくバンドのベーシストであるジョン・マクヴィーと離婚。


 そんな中で個人間の思いが絡み合いねじれあい擦れ違い時にはぶつかる、そんな個人的な音楽を作り上げたわけで、下世話なのぞき趣味的な大衆心理があったのかもしれません。


 でもそれを一級のポップソングにまとめあげた彼らは、創作意欲及び能力が最高潮に達していたのは間違いないでしょうね。




 などと書いてきて、ある程度以上売れることは理解できるのですが、そこまで売れたというのはやっぱり分からない部分はあるかな。 


 ともあれ、聴いてゆきましょうか。




 


 1曲目Second Hand News、軽やかにホップしたリンジーのカントリー風ポップソング。




 2曲目Dreams、ニックスの魅力が詰まったバンド唯一のNo.1ヒット曲。


 ニックスはカントリー系のアーティストにも受けがいいようですね。


 ブルーグラス風のギターと腰があるベースそして力強いドラムス、これくらいの技量がないと強い女性であるニックスは支え切れないか(笑)。




 3曲目Never Going Back Again、ピックを使わず指でギターを弾くリンジーのアコースティックギターによる名演のひとつ。


 サラダとハムサンドを食べたくなるような朝の雰囲気、ほんとに関係がどろどろしていたのかなと(笑)。




 4曲目Don't Stop、クリスティンとリンジーの共作で2人が歌うバンドの代表的な曲。


 クリントン大統領の就任式典でマックとしてこの歌を久しぶりに人前で歌い、それが90年代の一時的な復活につながっていったようですが、この曲の持つ前向きなメッセージは今でも色あせない。


 と、僕は思うんだけど、やっぱり、冷静に聴くと時代を感じるのかな、僕は冷静には聴けないんだけど・・・(笑)。


 でもこの曲はそのうちオールディーズとして聴き継がれてゆくようになると信じています。




 5曲目Go Your Own Way、僕がマックでもっとも好きな2曲のうち1曲。


 この曲は歌メロが大きく波を打ちながら勢いよく流れ続けていくその迫力に圧倒されます。


 ミックのドラムスが曲の持つ力強さを強調していてこれはミックの名演のひとつでもあると思う。


 2ndヴァースで一か所だけリンジーが歌わない部分があって、そのちょっとしたアイディアもいい。


 ギター弾きの端くれとしては演奏のバックの細かいカッティングプレイもまたしびれます。


 ただですね、僕は、サビの部分の「ごぅ よぉぅ おぅん うぇぇええぃ」と音が下がる部分を口ずさんでいるとよく音が外れてしまうのです。


 なんでだろう、僕は音痴ではないと自覚しているのですが、この曲のこの部分だけはほんとうにスポット的に音がうまく取れなくて、今試しにその部分だけ取り出して口ずさんでみてもちゃんと音が出ませんでした。


 ともあれこれは素晴らしい!




 6曲目Songbird、ほのかにジャズヴォーカル風のクリスティンの弾き語りによるバラードで音楽の幅の広さを感じます。




 この記事では現行のCDに準拠して紹介するためここは1曲飛ばして、8曲目The Chain、リンジーとスティーヴィーがほんとうに恨みをぶつけながら歌っているかのような迫力がある恐い曲。


 でも歌メロは最高にいい、特にスティーヴィーが歌うBメロのタイトルを歌う部分。




 9曲目You Make Lovign Fun、クリスティンの曲は大きな感興のうねりがなくなんとなく淡々と進んで行ってなんとなく収束する曲が多いんだけど、これはその典型で、慣れない人にはどこがいいんだろうと思う曲かな。


 でも一応シングルヒット、このどろどろしたアルバムの中では爽やかでほっとする曲。




 10曲目I Don't Want To Know、またリンジーとスティーヴィーが恨み節をぶつけ合う曲だけど、こちらはカントリー色が濃くてむしろ爽やかな印象を与える楽しげな曲。


 もう楽しくやるしかないと開き直ったのかな。




 11曲目Oh Daddy、クリスティンがブルーズバンドだった時代からいたことがよく分かるブルージーでソウルフルな曲。


 


 12曲目Gold Dust Woman、最後はスティーヴィーのカントリーの香り高い隠れた名曲。


 僕は、このアルバムがなぜアメリカで大売れしたのか最初は分からなかったのですが、この曲のすごさが分かってからそれがなんとなく見えてきました。


 ニール・ヤングにも通じるような雰囲気のこんな曲は、とうていアメリカ人にしか作れないでしょうね。


 


 現行のCDには7曲目にSilver Springsが収録されています。


 これはGo Your Own WayのB面曲として出ていたスティーヴィーの曲で、現行のリマスター盤が出た際に収録されました。


 スティーヴィーらしい魔法を感じる、意外とと言ってはなんだけど温かみのある曲だけど、どろどろしたこのアルバムの中ではきれいすぎて浮くような気がしないでもなく、アルバムに収録されなかったのはその辺かなと。


 普通こうした曲は最後に付けられるものだけど、間に入っているというのは、当時はここに入れる予定というかニックスがそうしたかったのかな。


 ただ、この曲がないCDを聴き慣れていた僕には、ニックスには申し訳ないけど違和感があります。


 しかしこのアルバムの場合はかえって最後に入れない方がよかったかな、最後はGold Dust Womanしかありえない、それくらいの完成度が高い曲だから。


 そろそろこの曲がSongbirdの後に出てくる流れにも慣れてきましたが(笑)。




  


 音楽は、後の時代に振り返るとどうしてそんなに売れたのか、逆にどうしてそんなに売れなかったのか、後の時代の人が純粋に音楽を聴いただけでは分からないこともよくありますよね。




 後の時代になると名盤と言われるようになるものも少なくないですが、翻ってこのアルバムについて考えると、内容についての再評価が、少なくとも日本ではあまり進んでいないのかもしれないと思うことがあります。




 個人的な話をすれば、僕はこのアルバムはほんとうに最初から大好きだから、ほんとうに10代の頃からアメリカンロック人間だったんだなということにもあらためて気づかされます(笑)。




 


 歌としてはいい曲が多いのは間違いないですね。